魔物退治は得意ですか④
……〈爆風〉が言うには、例の三人組は別の遺跡からアルジャマへと戻る途中に新たな遺跡を発見したらしい。
実は戦闘専門は男ひとりで、後ろにいた女性ふたりは探索専門なのだという。
つまりあの三人で宝探しをしていたってことだな。ひとりでふたりを守っているんだとしたら――あいつ結構強いのかも。
……で。
さらに詳しく聞くと、その遺跡はどうも巨大なキノコに埋もれていたそうな。
巨大なキノコってどんだけ巨大なんだよ、という疑問は湧いたけど……当然聞ける状況じゃないから呑み込んでおく。
ボーザックが目を泳がせているのはたぶん俺と同じことを思ったからだ。
とにかく、そのキノコが焼き払われて遺跡が顕わになっていた――この状況こそがドルアグの仕業だというのが彼らの言い分だ。
さらには支部長ロロカルさんの言う『未知の魔物』出現の報せも彼らの言い分を後押しして、トレジャーハンターたちのあいだではドルアグがなにかした! という話になっているらしい。
「――で、その未知の魔物ってぇのはどんな奴なんだ?」
ひと通りを聞き終えグランが口を開くと、ロロカルさんは資料を手に取った。
「それがですねー。毛むくじゃらの鳥のようななにか、というのが現状の報告ですー」
「毛むくじゃらの鳥のようななにか……って言われても全然わからないんだけどー」
ボーザックが苦笑するとディティアが頷く。
「もう少し情報がほしいね。……ロロカルさん、大きさはどのくらいですか? 色とか……数とか……なにか特徴とか……」
「大きさはロロカルさんと同じくらい、色は濃い緑色だと聞いていますよ。複数体が遺跡で目撃されており厄介なことに魔法を使うのだとかー」
ちなみにロロカルさんは俺とボーザックのあいだくらいで、一般的な男性といった感じである。
「……ちなみにどんな魔法かしら?」
ファルーアが心持ち身を乗り出して言うと、ロロカルさんはうーんと唸る。
「それが……所謂属性的なものではなく、こう……空間が弾けるようなものだったとかー」
あれ?
空間が弾けるようなって――。
思わずファルーアを見ると、彼女も俺の視線に気付いて頷く。
「――私たち〔白薔薇〕が最初に倒した災厄……災厄の黒龍アドラノードが起きるとき、贄になった男――ドリアドが使っていた古代魔法だわ」
そう。あれはダルアークという組織のドリアドという男が、まさに災厄を起こそうとしていたときのこと。
目視では感知できなかった魔法がファルーアを襲い、一緒にいた〈爆炎のガルフ〉が見破ってくれたのだ。
「たしか……空気を集めて弾けさせるとかって話だったよな。それなら同じように魔力感知で見ることはできそうか……」
懸命に思い返しながら俺が言うと、ほかの皆も――〈爆風〉とアルミラさんは別だけど――頷いてくれた。
「それなら掻い潜って攻撃もできるね、ハルト君!」
ディティアが口元に頼もしい笑みを浮かべるけど……あの魔法を掻い潜っていく彼女の動きを真似できるかと言われると……至極怪しい。
「ど、努力するよ……」
眉を寄せて応えるとグランがポンと膝を打った。
「よし。とりあえずその遺跡を調査しにいくってぇのは決まりだな。その『未知の魔物』とやらも魔法が見えりゃなんとかなるだろうよ――魔物退治はそれなりに得意分野だからな。ただし支部長、俺たちが調査に出るあいだ条件がある」
「ふふ、ロロカルさんはお見通しですよ。あの子供たちですね? トレジャーハンター協会と学び舎で面倒を見ましょう。……ただ、こちらからも条件がありますよー。ロロカルさんたちもドルアグには手を焼いているのです。もし本当にドルアグの仕業であるとしたら、そのときは――できるだけ穏便に『遺跡の共同調査』を提案してほしいのですよー。はい、ではこれが遺跡までの地図です」
ロロカルさんは柔らかな笑みを浮かべて資料を差し出した。
「あら、追い出すとかはしないのね?」
アルミラさんが物騒なことを言うけれど――いやいや、敵対しないで済むならそのほうがいいじゃないか。
「なにハルト。文句あんの?」
「はっ? い、いや、そんなことはないけど!」
すると顔に出ていたのか彼女の紅眼がすっと細められる。恐い。
「互いに戦う必要がないというだけですよ。本来遺跡は誰にでも開放されているものでなくてはなりませんからー」
ロロカルさんはそんなアルミラさんの空気に気付いたのか気付いていないのかそう言うと「それでは交渉成立ですねー」と立ち上がる。
俺はそこで「あ」と声を上げた。
「ロロカルさん、この手紙、伝達龍で飛ばしてくれないか。アイシャ宛てなんだけど」
「おやおや、故郷へのお手紙ですか? 勿論承りましょうー」
彼は俺が差し出した包みを受け取ると快く頷いてくれた。
例のあれ。ホグムワグムの酒漬け入りの包みである。
あの無駄にキラキラした爽やかな空気を纏ういけ好かない騎士がどんな顔で受け取るのか――俺は楽しみでしょうがなかった。
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