魔物退治は得意ですか②
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なんというか、そこからは凄まじかった。
アルミラさんの『口撃』が止まず、怒っていたはずのグランさえも顎髭を擦りながら憐憫の眼差しを向けたくらいだ。
商売とはなにか数字を並べて昏々と捲し立てるアルミラさんに、トレジャーハンターの三人組――青ざめた男と困惑を隠せない女ふたりが反論さえも許されない状況に置かれている。
まあ……一獲千金だなんてなかなか狙えないもんな。
冒険者と違って報酬もそんなによくないし……夢はあるけどさ。
けれど……そこに。
「待たせたわねミラ。足留め助かったわ」
金色の髪を右手でさらりと払いながら――ファルーアが現れた。
おお、そういえばいなかったな……!
「あらファルーア。もういいの? 私的にはまだまだ詰めたいところだけれど」
すぐに応えたアルミラさんにトレジャーハンター三人組が『助かった』と言いたげな表情をする。
けれどファルーアは妖艶な笑みを浮かべ――彼らの期待を粉々に砕いてしまった。
「こっちは支部長との話を纏めたから、あとは私たち『裏ハンター』の采配ね。助けを求めるために私たちが連れてきた子供を勝手に追い出すような言動、トレジャーハンターとしてあるまじき行為だわ。裁かれる覚悟はできているのよね?」
「う、裏ハンターだってぇ⁉」
青ざめた男の声が裏返り、後ろの女ふたりは身を寄せ合って震え出す始末。
野次馬……というより逃げる機会を失った周りのトレジャーハンターや職員らしき人たちもざわめくほどの衝撃らしい。
俺はため息をこぼして手を振った。
「ファルーア、ディティアたちも待たせてるしそんな奴に時間かけるのも勿体ないだろ。……なあそこのトレジャーハンター。ジェシカに――あんたが怒鳴った女の子にちゃんと謝ってもらうぞ、ここで。……いいな?」
「あ、謝ります! 謝りますから勘弁してくださいッ!」
青ざめた男は半泣きで懇願し、女ふたりもぶんぶんと首を縦に振る。
それを見ていた〈爆風〉は口角を吊り上げてから口を開いた。
「ドルアグとやらが遺跡を荒らしていると怒鳴ったらしいな。それだけ言うからにはなにか証拠でもあるのだろう? 〈豪傑〉、彼らへの『聞き込み』は俺が引き受けようと思うがどうだ? なに、素直に吐けば手荒なことはしない。安心するといい」
渋くていい声で朗らかに紡がれる言葉は物騒だ。
グランは大きく頷くと男たちに向き直った。
「ああ。悪いが任せていいか? ――聞いてたな? 俺たちもドルアグについては詳しく知らねぇし、しっかり聞かせてもらうぞ」
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大人げなかったと謝られたジェシカは涙をいっぱいにしながら唇を引き結ぶ。
それを見たカミューが男の腹――鎧を拳でドンと叩いた。
「姉ちゃんは優しいんだ! 姉ちゃんを泣かせやがって……俺は許さないぞ! 父さん母さんのことだって……その、なんとかってやつに入ってるのかもしれないけど――悪いことは絶対してないんだからなッ!」
「……わ、悪かったよ……」
「悪かったじゃねーよ! ごめんなさいだろ! お前、母さんに習わなかったのかよ!」
「あ、あぁ……その、ごめんなさい……」
めでたしめでたし……とはならず場の空気が相変わらず気まずいのは――トレジャーハンターたちがこの男女と同じようにドルアグに対してよい印象を抱いていないからか。
俺はぐるっと周りを見回して不満そうな顔をしている奴を何人も確認した。
うーん……なんか嫌な感じだな……。
「はいはーい。遅くなってすみませんでしたね! 支部長のロロカルさんですよ! 彼らの話はトレジャーハンター協会で責任を持って対応しますから、皆さんはお仕事に戻ってくださいねー」
そのときパンパンッと手を叩いて奥から出てきたのは……ほかの人よりも淡い色の緑髪をした青年だった。
くすんだ朱色のローブの下、裾のあたりが膨らんだ黒いパンツを履いている。
「さあ皆さんは奥へ移動を。そこの三人組からは聞き取りをしますよー」
「その聞き取りは俺が対応するつもりだ。職員も同席するか?」
〈爆風〉が笑うと、支部長のロロカルさんと名乗った男は胸元に手を当ててゆったりと礼をした。
「ああ、では同席でお願いいたします。本部への報告も行わなくてはなりませんしー?」
「本部に? なんでー?」
ボーザックが聞き返すとロロカルさんは微笑んだまま答えた。
「あなたたち〔白薔薇〕に無礼を働いたなんてほかから知れたらロロカルさんの首が飛んでしまいます! 輸送龍に噛み潰されるのも御免ですー」
彼の後ろ、どうやら援護射撃をしてくれたらしいカンナが控えているのに……俺はそこで気が付く。
おお、やるなカンナ!
しかしロロカルさんは続けて両腕を広げ、謎の質問を投げてきた。
「ところで皆さん、魔物退治は得意ですか? 得意ですよねー?」
……は? 魔物退治? ……どういうことだ?
本日分です。
よろしくお願いしますー!
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