王族たるもの。⑧
少しだけ、沈黙があった。
ふぅー、と息をついたのは、ファルーアだ。
長い金の髪をさらりとはらって、彼女は優雅にお酒を飲む。
「……まず、マルベル王。私達はギルドからの使者よ。つまり、私達が個人的に受けてしまったら、使者が国政に関わることになってしまうわ。それだと…私達はちょっと動きにくい」
「その通りだ。ギルドの看板を背負っちまってるんでな、ギルドが国に介入したと同義になっちまう」
グランが彼女の後を続けると、マルベルは腕を組み、深く頷いた。
「わかっている」
「……つまり。ギルドに正式に依頼を出すということでいいのかしら?」
ファルーアが聞く。
王は、再度頷いた。
「秘密裏に、俺から直々に出す。……協力してくれるなら、詳細を話そう」
俺達は、顔を見合わせた。
そもそも、国からの直々の依頼ってのは、確かにある。
ラナンクロストから書状を預かったのも、国からの依頼を俺達が受けたからだ。
そして、国からの依頼を受けるのに何が必要かって、名誉勲章なのである。
もちろん、名誉勲章なんてもの自体イレギュラーで、大きな討伐依頼とかであれば、認証カードで事足りる。
ただ、今回のような内容だと、この名誉勲章は相当な力を発揮する……はずだ。
近くに持っている冒険者がいれば、ギルドは当然、俺達に回してくるだろうな。
それはつまり、逆に言えば……。
「お前達を指名することは、なんらおかしいことではない。そうだろう?」
マルベル王が、不敵に笑う。
そう、そういうことなのだ。
これ、もう、決まりだよな?
「うわあ、俺達、どんどんすごいことになっていくね」
ボーザックが肉の塊を口に放り込む。
グランもグラスの中身を一気に空けた。
「仕方ねぇなあ、もっと有名になっちまうか?」
「私は賛成ね、早いところ2つ名も欲しいわ。そのためには爆炎のガルフに見せ付けてあげないとならないし」
「あはは、そうだね。グランさんのために鉄壁も捜さないとならないし。名前を売ったら向こうから来てくれるかもしれないよね」
口々に語る皆を、マルベルは満足そうに眺めながら、控えているガイアスに言った。
「予想外にいい話だな?」
ガイアスは苦虫をかみつぶしたような顔で頷いた。
「本当に、予想外な話だ」
俺は、盃を王に向けた。
「決まりみたいだぞ、マルベル」
「ああ。こんなにすんなりいくとは、正直思ってなかった。…良い時にお前達に会えたよ。…頼んだぞ、逆鱗のハルト」
心地よい音で、盃が鳴った。
******
詳細は書面に残せない。
そのため、ガイアスが口頭で説明を始めた。
……我がハイルデンは、奴隷制度に反対する王と、奴隷制度を止めない宰相ヤンドゥールによって割れている。
宰相ヤンドゥールは、古い貴族達とのパイプが強く、奴隷の廃止を認めることが無い。
本来は王がそれをまとめ、決断して、書状を下ろして政治を執り行うが、ヤンドゥールはマルベルがまだ若いことを理由に、権利を握ってしまっている状態だ。
いつの間にか、雇われた兵士はヤンドゥールの息がかかった者ばかりになり、謁見の間の兵士は王を守るのではなく、監視するために置かれている。
さて、ここまで来たらわかるな?
奴隷狩りの首謀者は、ヤンドゥールを含む古い貴族達だ。
実は、尻尾も掴んでいる。
近々、大きな奴隷狩りが行われるはず。
そこを押さえ、奴隷商人に首謀者を吐かせればお仕舞いだ。
奴隷狩り自体は既に前王の時から禁止令が敷かれているので、ヤンドゥールを糾弾することが出来る。
そこで、マルベルが立つ。
奴隷制度の廃止を謳い、国をまとめる王として。
奴隷には給料を払い、正式に雇うよう法を変える。
奴隷制度が無くても豊かな国を目指すんだ。
「シナリオは出来てるってわけね」
ファルーアが笑う。
「その通りだ。情報を集めるのに、俺は相当苦労したぞ。…そして、豊かな国を目指すための第1歩、それがこれだ」
マルベルは、目の前に置いていた腕輪の宝石を、こつり、と、指で叩く。
「この宝石が価値ある物だと知らしめる。奴隷だった者には、今の主人に不満があれば、宝石商の元で宝石を磨く職や、鉱山の仕事も与えたいと考えている。それ以外だと、この王宮の新しい兵士とメイドだな!……逆鱗のハルト、出来るか?」
俺は、頷いた。
「いいよ、任せろ。バフの腕、磨いとくからさ。…ところで、一般の国民は反対しないのか?」
「それは私が説明しよう。…国民は奴隷制度を不満に思っている。自分達がいつ狩られるかを心配しているんだ。実は、それがヤンドゥールの首を緩やかに絞めていることに、あいつは気付いてない。……証拠を集めるのは比較的楽だった」
俺は思わずへぇ、と感嘆の声をこぼした。
「ギルドに流れる奴隷狩りの阻止の依頼は、私が流したものもある。国民が、狩られることを心配して警戒するようにしたかったんだ。警戒すれば、自ら依頼を出す者もいる。阻止出来れば、尚のこと警戒する」
なるほどなあ。
この流れも、王の画策していた作戦の一部分だったらしい。
ガイアスは、少しだけ笑った。
整った顔なのも相まって、ものすごくイケメンだった。
「この国を変えたい。そのマルベルの気持ちは、王族たるものだ、と、私は誇りに思っているよ」
そして、その言葉に呼応するように、マルベルが立ち上がった。
「白薔薇。お前達を巻き込む形になってしまったこと、申し訳なく思う。しかし、作戦には奴隷商人に対抗しうる戦力がどうしても必要だったんだ。……約束しよう。俺が立ったからには、ハイルデンは変わる。同時に、お前達の未来に力添えをしよう。……王族たるもの、約束を違えることは無い」
格好いい、と思った。
国を背負う王の気持ちなんて、ちっともわからないけどさ。
それでも、王として国を憂い、立ち上がることを決めたマルベルを助けたい。
俺は、そう思った。
自分がどれくらい弱いのか、わかってるつもり。
だけど、こんな微力でも、零じゃないんだ。
「それと……グラン」
突然、マルベルはグランに向き直った。
「ん?」
グランが顔を上げる。
「さっき、疾風のディティアが言ってたな。鉄壁を捜しているのか?」
「………あ?ああ。大盾使いのな」
「そうか。なら、それも報酬にしよう」
「え?」
「この作戦が成功したら、鉄壁の居場所を教える。俺の知ってる奴だ」
悪戯っぽく笑った王に、グランは危うくグラスを取り落としそうになっていた。
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