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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
688/845

古代魔法は身近ですか④

******


 郊外の小さな天幕がジェシカたちの家だった。


 天幕の天辺に突き出した旗は各家の紋章だという。


 入口部分にも旗を立てていたりするんで、それを目印にして人を訪ねることもあるのだとか。


 ジェシカたちの旗は空色に首の長い白い鳥が描かれていた。


 ――そして中は、というと。


 さっき食事した巨大な天幕とは違い入ってすぐが台所兼居間のような場所。木と布で作られた仕切りの向こうが部屋となっているらしい。


 小さな天幕……と思ったのに、俺たち全員が居間に入ってもまだ余裕がある。


 所々に玩具らしき木の細工物が転がっている以外は整頓されていて、足下は水が入らないよう外側が返されている丈夫な布張りだ。


 ――ちなみに靴は脱ぐようで、専用の棚が置いてあった。


 その棚もそうなんだけど、置かれた家具は使い込まれた木製ばかりで……温もりの感じられる家である。


「わぁー、素敵なおうちだね!」


 ディティアが手を合わせて言うと隣にいた長男のカミューが得意気に鼻の下を擦る。


「へへん、あんまり広くないけどすごくカイテキなんだぜ?」


「……片付けもできないのに偉そうに言わない。……こっちがお父さんたちの書斎」


 ジェシカは呆れたように応えると俺たちを奥へ案内してくれる。


 まだ小さいのによくできた子だなぁ……なんて呑気なことを考えていたんだけど――書斎に入った俺たちは息を呑んだ。


「うわ、なに、ここ……」


 呟いたのはボーザックだ。


 ズラリと並んだ棚には瓶詰めの液体やら鉱石らしき物がびっしり。床に積み上げられた本や書類にはどこかで見たような文字が書かれている。


 そして当然のように……紅い――血色の結晶もそこかしこに見て取れた。


 ……前より少しだけ見る目は変わった。それは確かだ。


 だけど俺たちは……これが作られることをずっと恐れてもいる。


 落ち着こうと深く息を吸った俺の耳にファルーアの声がした。


「これ、古代文字ね。……古代魔法の研究をしていたのは間違いなさそうだわ。ジェシカ、お父さんたちが書いた本……どれかわかるかしら?」


「……この青い本はそう。そっちの黒いのも」


「ありがとう、助かるわ」


 屈んだファルーアは置いてあった書類を一枚だけ手に取って本と見比べてから、アルミラさんを振り返る。


「ミラ、これが署名だと思うのだけれど――組織名に見覚えはないかしら?」


「どれ? ……ああ、ええ。わかるわ。ドルアグ――古代魔法習得に熱を上げている研究組織ね。……なるほど、あんたたちの両親はドルアグの一員か」


「ふむ。そのドルアグとやらは随分と危険な場所の探索も行っているようだな?」


 そこで話に入ったのは〈爆風〉で、彼はいつの間にか一冊の本を手にしていた。


 古ぼけた革張りの深緑色をした本は表面が劣化してヒビ割れている。


「遺跡の地図だ。手書き箇所も多い――自ら探索して書き記したものだろう。そこらの手記と筆跡は同じだ」


「だとするとこいつらの両親は戦えるってことか」


 グランは下の子供ふたりを両腕にぶら下げて遊んでやっていたけど、その言葉にふと体を捻った。


 動きが出たことで下の子供ふたりはキャッキャと笑い声を立てる。


「古代魔法が使えるのかはわからないけれど……少なくとも魔法には明るいはずね。戦える者が大半じゃないかしら。それに遺跡からは古代魔法の手掛かりがよく見つかるのよ。……だとすると行き先は」


 アルミラさんが続けると……ディティアがはいと手を上げた。


「遺跡の可能性大ですね! トレジャーハンター協会で十日前後で戻れる遺跡の場所を聞きましょう!」


「古代魔法の話題なんかが新しく出てると確率高そうだね」


 ボーザックが頷くと、ファルーアが少しだけ考える素振りを見せる。


「――そうね。私も聞きたいくらいよ。……でも、ねえミラ。古代魔法はこの国ではそんなに身近なのかしら? 使えるひともいるということ?」


「身近? ……まあそこそこ、か。……少なくとも古代魔法と称した強力な魔法を操るメイジはいるわ」


「どうしたファルーア。なにか気になるのか?」


 聞き返すグランの腕で子供たちがキャッキャと笑い続けているけど……さすがグランである。


 俺はあんなに長くぶら下げていられない。


 するとファルーアが指先で金色の髪をひと房滑らせて、難しい顔をした。


「……知ってのとおり古代魔法を使うのは骨が折れるのよ。私が使ったときはハルトのバフを重ねて精一杯だったでしょう? この国の人たちがそれを使っているのだとしたら……それだけの魔力を宿しているってことになるわ。〈爆炎のガルフ〉が改良してくれたようにいまの時代に合わせているかもしれないけれど」


 俺たちはその瞬間、息を呑んだ。


 それだけの魔力――それは古代の魔法都市国家に属していた人々と同じ魔力って意味だろう。


 遺跡にはレイスがごろごろしているっていうし、忘れられた領域も多いって話だし……。


「それならグラン、ドルアグって組織のことも少し調べてみよう。なにかわかるかもしれないし」


 俺が言うと、グランは子供たちをぶら下げたまま顎髭を擦って頷いた。


「それがいいだろうよ。……おい、そろそろ一旦下りろー」


「グランさん、ジェシカちゃんたちのこともトレジャーハンター協会でお願いしてみましょう。調査に行くにしても放ってはおけません」


 ディティアが言うので、俺も頷く。


「このあたりに住んでるひとたちにも聞いてみたほうがいいよな……お前、親戚とかいないのか?」


 俺は長男のカミューの頭をわしわしして問い掛ける。


「ちょ、やめろよ! 親戚なんていねぇよ!」


「そうか。じゃあ仲いい友達とかは?」


「…………と、友達なんて別にほしくねぇし……」


 ……ん、しまったな。あんまり聞くべきじゃなかったか。人付き合いのある家じゃなかったのかも。


 俺は一瞬止めた手をまた動かして頷いた。


「じゃあ俺が最初の友達だな。グラン、手分けしよう。俺このへんの聞き込みしてからトレジャーハンター協会に行くよ」


「……!」


 カミューは吊り気味の双眸を見開くと口をポカンと開ける。


「あはは、じゃあ俺二番目ね! グラン、俺もハルトと行くよ。遺跡とか古代魔法のことってあんまりわからないし」


 ボーザックが言ってくれて、俺は笑って頷く。


「ならば保護者が必要だろう。俺も行こう」


 さらには〈爆風〉が乗ってくれるけど――。


「いや、なんだよ保護者って……」


 思わずこぼすと〈爆風〉は歯を見せて笑った。


本日分です!

よろしくお願いします!

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[一言] 初めての出会い♪初めてのときめき✨ 新しいお友達出来たーー‼︎
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