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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
684/845

不安と暗雲と

******


 蔦が絡み合って大樹となったような木々のあいだを抜けること三日、道はいつしか均されて走りやすくなった。


「一応ここはまだ山脈扱いで自由国家カサンドラとの国境――つまり広大な『両国どちらのものでもない場所』よ。もうすぐ国境沿いの町だけれど、そこからは方々に馬車が出ていて人も多いわね。昼には着くわ」


『ピュイ!』


 アルミラさんが説明してくれたところで、何故か輸送龍が一番最初に返事をする。


 なーんか……こいつらがいるお陰か、魔物に出会すこともないんだよな。


〈爆風〉がいれば正直五感アップも必要ないし……。


 そこまで疲れるような進み方でもないから持久力アップも使わないし……。


 あれ、俺がいる意味って……なんだ?


 考えながらひとりで顔を顰めたところで、前にいるグランがぼやいた。


「これなら雨は降らねぇな。ちと寒ぃぐらいか」


 道が平らなんで輸送龍の速度は少し上がっているようだ。耳元を過ぎる風は力強く、たしかにちょっと肌寒い。


 ……そうか、そうだよな。肌寒いか。肌寒いよな!


 俺は手を上げてバフを広げた。


「任せろっ、『体感調整』!」


「おー、ハルトありがとうー」


 後方のボーザックがそう言って笑うのが聞こえる。


「ようやく出番がきたわね」


 さらりと言ったのはアルミラさんの荷台と併走するファルーアだ。


「おう。丁度自分の存在意義を見失ってたところだからな!」


 肩越しに笑って返すと、妖艶な笑みが浮かぶ。


「ははは。見張りは任せていいぞ〈逆鱗〉。バフでも練習していたらどうだ? 完成までもう少しだろう?」


「私も見張り頑張るよハルト君!」


 どうやら聞こえていたらしい。前方で〈爆風〉とディティアが言うので、俺は苦笑した。


 練習、ね。


 ――『魔力活性』バフはかなり形になっているし、ファルーアも効果を感じてくれたみたいだったからな。


 あとは古代魔法が使えるほかのメイジにも試したいってところか。


 古代の魔力――それを持っているひとを捜さなくちゃならないってことだ。


「そういえばアルミラさん、古代魔法の研究者を紹介してくれるんだよな?」


 ふと思い出して俺が聞くと、荷台の上で荷物に背を預けていたアルミラさんが伸びをした。


「あ? ……そうよ。私を助けてくれたひとがメイジであり研究者でもあるから」  


「そのひとに『魔力活性』を試させてもらえるよう頼みたいんだけどいいかな?」


「ハルトが練習しているバフね? 大丈夫よ、むしろ喜ぶと思うわ。……この大陸(トールシャ)ではアイシャ以上にバフが珍しい気がするし」


 両腕と背中を伸ばし終えて今度は肩を回すアルミラさんの髪が揺れる。


「ありがたいけど、うぅん……」


 俺は唸って枝葉の隙間から空を仰いだ。


 ……いまさらだけど俺たち『バッファー』は不人気地味職で、普通は重ね掛けができない。


 ひとつでもそれなりの効果はあるけど、敢えてバッファーを名乗るかっていうと微妙である。


 まぁ……珍しくもなるかもなぁ……。


 自分で言ってて悲しくなるけど。


「どっちにしてもまずは国境沿いの町ね。王都はもう少し先だもの」


 アルミラさんがどこかグランに似た顔で笑うので――俺はとりあえず頷いておいた。


 ま、手紙も出さないとだしな。


 あいつに送るっていうのは不本意だけど、事情が事情だし仕方がない。


 古代魔法の本を集めて本屋を営むソイガさんのことも伝えないとだし、次の町では早々に動こう。


 俺の先生的な存在である〈重複のカナタ〉さんにバフの本も渡してもらわないと。


 あー、話したいなあカナタさん。


 魔力活性バフについて助言がもらえるかも。


 そこで俺はふと気が付いた。


「……あれ、国境沿いの町ってトレジャーハンター協会はあるのか? 伝達龍もいるといいんだけど」


「あるし、いるわね。魔法大国だからっていうのが正しいかはわからないけれど、一攫千金を狙うトレジャーハンターがうじゃうじゃ集まってくるから」


 アルミラさんが言うとボーザックが反応する。


「一攫千金? 宝があるってことだよね。遺跡でもあるの?」


「たしかに遺跡は多いわ。広大な森があちこちにある国だから、忘れ去られてしまった領域もまだ残っているのよ」


「うわ! それってすごくない?」


 声を弾ませるボーザックだけど、アルミラさんは微妙な顔をした。


「――すごいかどうかは微妙ね。遺跡には大量のレイスが出たりもするそうだから危険だし」


「……!」


 瞬間、ボーザックだけでなく……俺もファルーアも息を呑んでしまった。


 レイスだって? 忘れ去られてしまった領域に?


 背中を冷たい手で撫でられたような寒気は風のせいじゃない。


 ユーグルたちも目を光らせているだろうから大丈夫。そう、思いたいけど――。


 聞こえていたであろうグランが低い声でゆっくりと口にしたのはそのときだ。


「早ぇところドーン王国に入るとしようや。やることが多いぞ」



 ――自由国家カサンドラを背に、向かうは魔法大国ドーン王国。


 シエリアのいる国、そして――どうやら不穏な空気が満ちる国。


 俺はグランに頷いて、木々の先を見据えるのだった。



自由国家カサンドラ編はここまでとなります。

ちょっと投稿したいお話があるので、少しこちらは開く予定です!


引き続きよろしくお願いいたします。


ここまでありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん⁉︎待って⁉︎もう一年以上たったのか⁉︎
[気になる点] そして魔法大国なんて一体どれだけファルーアが成長するのか…‼︎ ついでにすっごいはしゃいでるようなワクワクしてるようなファルーアも見たいw [一言] 五日前ぐらいかな?1話から読み直さ…
[一言] 12話でハルトが属性強化も出来るって言ってたしいつか見てみたいなぁ…
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