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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
683/845

護衛と商人と④

******


 ギィンッ


 受け流した白銀の刃とは逆、向かって左から次の刃が閃く。


 淡く金色を含む冴えた月の色をした左の剣で受け止めた俺は、退かずに前へと踏み込む。


 しかし既に引き寄せられていたディティアの左手、握られた刃が踏み込む俺の腹を狙って突き出され、受け止めようとしたけれど――間に合わなかった。


「……ッ」


 俺の剣にディティアの剣が触れるより先、脇腹に刃が添えられる。


 くそ、全然駄目だ……勝てない……。


「……遠いな……」


 はーっとため息を吐き出しながら呟くと、ディティアは双剣を収め首を傾げた。


「遠い?」


「……。『いつか〈疾風〉を追い抜くから待ってて』って言ったろ? それなのに全然距離が縮まらないなってさ」


 俺も双剣を収め、大袈裟な動きで肩を竦めてみせる。


 すると彼女は驚いたように目を丸くした。


「それ……ハイルデンで……」


「そう。〈疾風のディティア〉にボコボコにされて転がったときに俺が言った台詞」


 ハイルデン王国。俺たちの故郷である大陸『アイシャ』の東部、山岳地帯の国だ。


 マルベル王と側近の〈鉄壁のガイアス〉が治めていて、俺たち〈白薔薇〉はマルベル王のために奮闘し――奴隷制度をなくす手伝いをした。


「ぼ、ボコボコにはしていないと思うんだけどなぁ……でも、ふふ。あのときハルト君、バフ切れて動けなかったよね」


 ディティアは瞳を泳がせて言ってから微笑んで続ける。


 俺はゆっくり頷いて……す、と息を吸った。


「――もう『いつか』なんて言わない。必ず〈疾風〉を追い抜くから待ってて」


「!」


「ともに強くありたい、そう思えるくらいには――成長したからさ」


 すると――彼女の頬がぶわあっと赤くなる。


 俺は笑ってその髪をぽんぽんと撫でた。


「相変わらず可愛いなあ」


「…………」


 ディティアは恨めしそうな顔をすると、きゅっと唇を結んで離れた俺のその手を握る。


 ……ん、あれ。


「ハルト君、わ、私も成長したんだからね」


「うん?」


「い、一緒に……強くなりませんか。〈逆鱗のハルト〉。いまは弱くても、もっと強くなれる。私も――ハルト君も」


 ――ディティアの触れている手が熱い。


 彼女はあのときと同じ台詞を口にして、あのとき差し出されたのに俺がバフ切れで取れなかった手を……自分から優しく握っている。


 紅潮した頬の上、どこか潤んだエメラルドグリーンの瞳は俺を見詰めて逃がさない。


「……いまもハルト君の強さは私の憧れだよ。だから――」


「…………」


「えぇと。だから、その? なんだろう、ほら、が、がんば……る? え、あれ?」


「ぶはっ、はは! なんだよ、それ?」


「ええとね。ちょっと、頑張りすぎたみたい……」


 彼女はそろりと手を放して、そのまま両手で真っ赤になった頬を覆う。


 でも、正直助かった。


 気付いたら止めていた息を吐き出し大きく笑ってみせたものの、し、心臓が痛いくらいに跳ねてるんだ。


 最近、なんか変だな……俺。


「……ところで、さっきのバフ、なんだけど……」


「んっ? あ、ああ、そうか。そんな話だったな」


「う、うん……あのね、肉体強化とか、あっちのほうが効果は高い気がしたよ。なにかが違うって感覚はあるんだけど……」


「そっか――魔力活性じゃディティアや〈爆風〉にはあんまり意味がないのかもな――」


「やっぱりファルーアみたいに魔法を使えるひとのほうが検証には向いているかもしれないね」


「うん。……けど、ありがとな。それがわかるだけでも助かるよ」


◇◇◇


「なんなの、あれは。私、そわそわするのだけど?」


「あ? ……ああ。ハルトとディティアか? 俺らは慣れたもんだぞ。……つっても楽しそうだな姉貴」


 焚火の後始末をしていたアルミラは少し離れた位置でやり取りするふたりを眺めながらグランに言うと、腕を組んだ。


「そりゃあ楽しいわ。ご馳走よ?」


「はぁ? なんだそりゃ……」


「こんな感覚そうは味わえないわ。……ティアもファルーアも恋してきらきらしているほうが可愛いじゃない?」


「……そ、そうか……?」


「はっ、あんたも恋のひとつやふたつしてみなさいよ。すぐにわかるわよ」


「…………」


 冒険が楽しい。〔白薔薇〕で旅する毎日が楽しい。


 ファルーアのことを心配したこともあったが、彼女はともに行くことを選んでくれた。


 ……ともに歩きたいと思うこの気持ちは恋に似ているのかもしれない。


 思わず視線を巡らせた先ではボーザックとファルーア、そして〈爆風〉が輸送龍の世話をするカンナを手伝っていた。


 グランのその思いを汲み取ったアルミラは肩を竦めてみせる。


「護衛と商人もそうよね」


「あ?」


「一期一会の冒険と似ているわ。意気投合すればそれこそ家族みたいになれる」


「……そうだな」


 けれどアルミラは、そんななかで行方知れずとなった。


 グランも両親もそれで護衛を辞めたのだ。


 だから。


「……耐え難い別れもあるだろうよ。俺は二度と御免だ」


 顎髭を擦り、唸るようにこぼしたグランに……アルミラは笑った。


 歳を取ったようには見えない、別れた頃のままの顔で。


「いい出逢いなのね。あんたにとってこの場所は」


「ああ」


「それで? ティアはあんな感じだし……やっぱりファルーアなの?」


「あぁ?」


「なによ、あんな美人なかなかいないわよ?」


「――美人だってぇのは認めるが……」


「あら、認めるの?」


「あ?」


「あぁ? なによ、文句ある?」


「……」


 なんだかんだ言っても、アルミラに頭が上がらない。


 グランは諦めのため息をこぼしてファルーアを眺めた。


「…………家族みてぇなもんなんだよ」


 たぶん、きっと、離れることも考えられないほどに。


「ふ」


 アルミラは笑うと傍らのグランの肩に一撃を見舞ってディティアとハルトのほうへと向かう。


「じゃあ私の弟、妹ってところかしら? 護衛と商人って関係だけじゃなくて。……いいわね、それも」


「……ふん」


 グランは鼻を鳴らすと、出発の準備を始めた。


こんばんは!

本日もよろしくお願いします!

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