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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
682/845

護衛と商人と③

******


 山を抜けるのは本当に楽だった。


 山脈は長く険しいものの、俺たちが進む山道自体はそう長くなかったからだ。


 魔法大国ドーン王国と自由国家カサンドラを往来する商人たちが最短の道のりを確立させてくれたんだな。


 道中、俺は休憩ごとにファルーアと〈爆風〉に『魔力活性』を試させてもらった。


 バフの形を変えて――彼らの感覚を頼りに調整を繰り返すのである。


 なんていうのかな、こう、少しずつ活性化させる場所をずらしていくって感じか。どこを活性化させるのか――それがわかればいいんだけどな。


 ……いまは昼を食べ終えてひと息ついたところで、俺は手頃な木に背中を預けて何度もバフを練っているところだ。


 山道を抜けたものの、しばらくは森が広がっているらしく視界はあまりよくない。


 だから警戒は必要で、それを担うディティアがうずうずした顔をしながら行ったり来たりしていた。


 俺のバフが気になって仕方ない感じが滲み出ているというかなんというか……。うーん。集中できない。


 すると。


「――あのっ、ハルト君! それって私にも効果があったりしないかなっ?」


 意を決した表情で、眉尻をきりりと上げたディティアが口にする。


 俺は堪えきれずに噴き出してしまった。


「ふはっ……はは! そういえばどうだろうな? 試してみるか?」


「うん!」


 途端にぱっと頬を緩める彼女は今日も可愛い。


 そうだな、今回もリスとかそういう小動物みたいだ……そういえば動物へのバフって魔物と一緒なんだろうか。


 俺はそう考えてふと気が付いた。


 あ、待てよ? 俺たちは外から大半の魔力を取り込んでいるけど。


 魔物は食事から――つまり体内で取り込んでいるはずで。


 だから口のなかにバフを突っ込むわけだけど……だとすると古代の魔力はどこから来るんだ? 外から取り込むのか? 体内で取り込むのか? それとも……。


 瞬間、俺はごくりと息を呑んでいた。


「…………ハルト君?」


「……ディティア、手、貸して」


「えっ? ……ひゃッ⁉」


 俺はぽかんとしたディティアの両手を、立ち上がって問答無用で握る。


 温かくて柔らかくて、だけど剣を握るひとのそれ。


 そこに流れる彼女の命、受け継がれる血――。


「は、はる、ハルト君……あ、あの……」


「――これだ」


「う、え?」


「あのとき血が巡る感じがした、そうだ、そうだよな!」


「……??」


 俺は大きく瞼を瞬く彼女の手をそのまま胸のあたりまで持ち上げる。


 あれはアルヴィア帝国でのこと。……毒をくらって動けなくなった俺は自分に魔力活性をかけた。……そのとき確かに四肢に血が巡るような感覚を覚えたはず。


 それを思い出したんだ。


 なにより血結晶の材料――それは古代の人をレイス化させて得た血じゃないか……!


 ファルーアとだって活性化することで材料になる可能性について話したっていうのに。


 俺は目を閉じてバフを練り、形になったのを感じてから瞼を上げる。


「……『魔力活性』」


 それからそっと口にして、ディティアの手から直接バフを送り込んだ。


 そのバフは、たぶん普通にかけるよりもはっきりとした形を保ったまま――彼女のなか、その血に届く。


 そこに俺が活性化させたいものがあるはずだ、きっと。


 俺の魔力とは違う形の……魔力が。


 最初からわかっていたのに、どうしてこの方法を思いつかなかったんだろう。


「……っ、あ」


 瞬間。ディティアの双眸が見開かれ、エメラルドグリーンの瞳が俺を映す。


「感じるか?」


 聞くと、彼女は俺を映す瞳を困惑に泳がせてから――頷いた。


「……すごく熱い、気がするよ。血が巡る感じって……これ、なんだね……ハルト君」


「ディティアも……きっと古代の人の血を継いでいるんじゃないかって思うんだ」


「え?」


「古代の人はもっと強かった――魔法都市国家のひとも、古代都市国家のひとも、いまとは違う魔力をたくさん宿していてさ。だから〈爆風〉だけじゃなくてディティアもそうなんじゃないか? って」


「えと。どう……かなぁ」


 少し困ったような顔をする彼女を見詰めて、俺は小さく頷く。


「きっとそうだ。それがキィスを――いろんなひとを助ける切っ掛けになってくれるかもしれない」


「――切っ掛け」


 ディティアは僅かに瞳を伏せて呟くと、頷いて真っ直ぐ俺を見た。


「誰かを助けられるなら……それは嬉しい。……私もハルト君の力になれるかな」


「……」


 俺はその瞬間、言葉を詰まらせてしまった。


 握った彼女の手が優しく俺の指先を包んでいるのを唐突に意識してしまったというか、なんというか。


「……なってる。ありがと、な」


 言うと、ディティアはぱあっと笑顔を煌めかせた。


「うんっ、それじゃあ……」


 そしておもむろに手を放すと――


 シャアンッ!


「とりあえず一戦しましょう、〈逆鱗のハルト〉!」


 ――生まれ変わった双剣を抜き放ったじゃないか!


「ええッ⁉」


「バフの効果、確かめなくちゃね!」


 効果を試すためとあらば仕方ない……のか? 本当に?


 俺は所在のなくなった両手を泳がせ、最終的には頬を掻いて双剣の柄に手を伸ばす。


「……お手柔らかに頼むよ」


 ここで断れるわけがない……よなぁ。


こんにちは!

いつもありがとうございます。

なかなか平日更新のペースを戻せず恐縮です。

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