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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
680/845

護衛と商人と①

******


 翌日、俺たちは出発すべく準備に勤しんでいた。


 といっても、まとめる荷物もそうはなくて、食糧もアルミラさんが用意してくれていたんで……あんまりやることはなかったんだけどな。


 昼を食べてから出発だーって話だから俺はそれまでの時間に少しだけ町の様子を見にいくことにする。


 ――堰堤(えんてい)はほとんど修復が済んでいると聞いたな。


 抉れた町の下層。流れる水は穏やかで当然水位も下がっていたので、俺は対岸とこっち側を繋ぐ橋のたもとまで下りることに決めた。


 巨人族の町はなにもかもが大きくて自分が小さくなってしまったんじゃないか……なんて錯覚を覚えるし、ドーン王国に行ったら建物が小さく感じるかもしれない。


 いまとはっては世話になった巨大なベッドをもう少し堪能すべきだったと思わなくもないな。


 俺は少しだけ頬を緩めて空を仰ぐ。


 昨日より雲が少なくて、出発するのにはもってこいだ。


 いろいろ考えながら濁流で崩壊した橋まで来た俺は、そこで汗を流す巨人族たちに気付いた。


「……おお」


 驚いたことに、橋の修復はかなり進んでいる。


 あと数日で向こう岸と繋げられるんじゃないか?


 体がデカいのもあるんだろうけど、力仕事を早く正確に進める職人たちには頭が上がらない……。


 すると橋の先で顔を上げ額の汗を拭った巨人族が、俺に気が付いて大きく腕を振った。


「おうイ! どうしたイ?」


「ん。その声……スイか?」


 俺が踏み出すと、スイも周りの巨人族に会釈をしてこっちに向かってくる。


 頭に汗が落ちないようにするためか布を巻き付けていたんでわからなかった。


 彼のベルトに掛けられた様々な道具がぶつかり合ってガチャガチャと音がする。


「――もうすぐ出発だから少し町を見ておきたくてさ」


「そうなのイ」


 俺が言うと、スイはデカい頭をブンと縦に振って橋を振り返った。


 大人が集まって夜にわいわいしているのは知っていたけれど、そのときの空気とは打って変わって真剣な表情で作業を進める巨人族たち。


 なんとなく胸がじわりと熱くなった。


「……たくさん流されたイ。家族がいなくなったひとも多いイ。だけど皆、町をなんとかしたくて頑張っているイ。俺も手伝っているイ!」


「そっか。……この橋もまた行き来できるようになるんだな」


「そうイ。橋を支える柱はちゃんと残っていたんだイ。だから修復はそんなに時間が掛からないって大人が言うイ」


 仲違いしていた二部族が協力して町の復興に当たっている。


 それは感慨深くて……そうだな、この橋もその象徴みたいなものなのかも。


「もう喧嘩するなよ?」


「しないイ! ……俺、ソナとももう二度とあんな間違いは起こさないって約束したイ。たまに意見がぶつかっても必ず仲直りはするイ」


「……そっか」


 彼らは前を見ている。いや、まだ見られていないひともいるかもしれない。


 でも……なんだか。


「格好いいな、スイもソナも!」


 こんな世代が続くんだから、きっと巨人族は安泰だ。


 俺が笑うと、スイはちょっとだけ驚いた顔をしてから盛大に眉をひそめた。


「急にどうしたイ……熱でもあるイ?」


「真面目に褒めてるのに失礼な奴だな……」


 俺が返すと、スイも笑った。……いつものように、ガハイガハイと豪快に。


******


 それからまたふらふらと町を歩いていた俺は……言いようのない気配に顔を上げた。


「……ん、うわぁッ⁉」


 黒々と光る巨大な塊が迫ってきて、俺は咄嗟に飛び退く。


 しかし酷く軟らかくて湿ったものが伸びてきて、俺の顔を打った。


 べちゃあっ


「うぶっ……く、臭ッ……ごほっ」


『キュウイッ、キュイーッ!』


「……ふ、はは。相変わらず、好かれてんだねあんた……!」


 興奮気味に鳴く黒い塊の上から覗き込んでそう言う人物を見上げ、俺は顔を擦りながら呻くように口にした。


「……カンナ……ゲホッ、久しぶり…………」


 ――彼女と最初に出会ったのは俺と〈爆風〉がふたりで行動していたときである。


 俺たちをこの真っ黒な輸送龍で自由国家カサンドラへと送り届けてくれたトレジャーハンター協会所属の女性で――あ、いや、うん。……たぶん協会所属だと思う。そういえばちゃんと聞いたことあったっけな? ……まあいいか。


 その容姿は短い落ち着いた色の茶髪に、きりりとした同じような色の眼。


 中性的に見える顔立ちで、以前は少し頬が痩けて輪郭がはっきりしていたと記憶しているけど、いまは少しふっくらした気がする。


 よく焼けた小麦色の肌とそれなりに鍛えられた体躯は健在で……今日は白い襟付きの服に黒いだぼついたパンツを履いていた。


『ピュウィッ』


「お前も元気にしてたか? ……うぐっ」


 俺が手を伸ばすと輸送龍は鼻面を俺の腹に突き込んだ。


 こいつは俺を一番乗せてくれた奴で、かなり助けてもらったんだよな。


 だけど相変わらず容赦ないというかなんというか……。


 俺が悶絶しているとカンナが言った。


「舐めたってことは乗れってことだよ。早く乗りな」



 ――聞けば彼女はトレジャーハンター協会本部を訪れていて、そこで会長のマルレイユから巨人族の町へ向かうよう指示されたらしい。


 俺たちが飛ばした鳩が到着していたんだな。


 俺はカンナの後ろに乗って町を駆け抜けていた。


 輸送龍は軽やかな足取りで、前よりもさらに滑らかに走ってくれている。


 ひとの生活の匂い……っていうのかな。誰かがいる空気感は柔らかくて、耳元を掠めていく風が心地よい。


「残りの輸送龍は町の外に待機させてる」


「ほかの輸送龍もいるのか?」


「そう。あたしの仕事はあんたたちを輸送することだから」


「えっ? 輸送?」


「ドーン王国まで送る。マルレイユ会長からのせめてもの御礼だって」


「……!」


『ピュウィー!』


 思わず言葉を呑んだ俺を笑うように輸送龍が嘶く。


 すると、微かにカンナが笑ったのを彼女の背中越しに感じた。


「……カサンドラ首都の像、見たよ〈逆鱗のハルト〉」


「⁉ あれはっ! 俺のせいじゃないからな!」


 思わず声を上げると輸送龍が長い首でぐるりと弧を描き俺を見る。


『ピュウィッ』


 馬鹿にされているような気がするのは気のせいだ、たぶん。


 鼻を鳴らすと、今度は前方から呼ばれた。


「派手な帰還だな〈逆鱗〉」


「……ん、ああ〈爆風〉?」


 輸送龍はゆるりと脚を止めてフスーッと鼻息を吐き出す。


 カンナは輸送龍の背から上半身を乗り出し、ふ、と笑った。


「あんたも元気そう」


「カンナか。久しいな、そちらも元気だったか?」


「元気」


 俺が輸送龍から降りると、なんだなんだとばかりに巨人族たちが集まってくる。


「わー! 輸送龍じゃん! おーいハルトー、どういう状況ー?」


 皆も一緒で、ボーザックが歓声を上げて手を振った。



上半期の決算期で忙しくしておりました、来てくださっていた方、ありがとうございます。

ドーン王国までどうぞよろしくお願いします。

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