王族たるもの。⑦
ハイルデン王、マルベルは御年25歳。
何を隠そう、俺と同い年だった。
つまり、ディティアやボーザックとも同い年である。
少しだけつり目気味の青い眼に長い睫毛。
くるくるとウェーブしている金の髪。
白い肌は艶があって、ともすれば女性にも見えるくらいだ。
マルベルは俺達を見回して、話し出した。
「この国の奴隷制度を知っているな?……俺は城下に忍んで出かけて、その実態を探っている。……そこの近衛も実は奴隷を登用したんだ。…俺は奴隷制度なんてもんは嫌いなんだけど…おい、ガイアス」
「は。何でしょうマルベル様」
「かたっくるしいなぁ、ここでは良い。俺は白薔薇を信用してる」
「……わかった、マルベルがそう言うなら」
急に気さくになった兵は、こっちに来ると頭を下げる。
優しそうな青い眼に、マルベルよりは茶色がかったさらさらした金髪。
鎧は装備しているものの、持っているのは刀身が短めの剣だけだった。
背は…たぶん俺よりちょっと低いくらい。
近衛って言うくらいだから、マルベルを守っているんだろうけど…。
「私はガイアス。マルベルの近衛をしているが、奴隷の身分だ。元は地方でそれなりの貴族の家柄だったんだが、奴隷狩りにやられてな…。たまたま前王の眼にとまって王宮仕えになった」
「はー、お前本当に堅いよなあ。……俺は正直、ガイアスを兄弟みたいに思ってる。俺が王を継いだのは3年前だけど、その時も……まあ色々あって、ガイアスに助けられてきた。この宮殿で唯一、信頼している臣下だ」
「聞いてるだけでわかるくらい仲良しだなあ」
気さくな話し方が俺には好ましく、気付けば積極的に話し掛けていた。
「それで、何で俺達を夕食に?」
マルベルは頷くと、腕輪を外した。
「まずは逆鱗のハルト。礼を言いたかった。昨日は舞い上がっていたが、バフを重ねがけすることがどれほどか、帰って気付いた。すまなかったな。ちなみに、お前達の名誉のために言うが、飛龍タイラントを討伐した白薔薇のことは、当然知っていた。俺が外を知らない飾りだと思っているヤンドゥールへの一芝居だ。うまく夕食に誘う口実だな」
「昨日、本当に愛想無い奴だなあって思ったよ。おかげで俺も宝石を買うはめに…」
「えっ、ハルト君、宝石買ったの?」
「ええっ、あ、いや、それは…」
何でそこに食いつくかなぁディティア…。
俺が困惑していると、からからとマルベルが笑った。
「そう責めてやるな美しい方」
「…ふえあ!?う、美しい!?」
ディティアが椅子から飛び上がりそうになって、すぐに身を縮める。
顔が真っ赤だ。
「ははっ、可愛い反応をするな!小動物みたいだ」
「……!!」
「あ、わかる。俺もそれ言ったことあるよマルベル」
「お、そうか?気が合うな逆鱗のハルト。貴女は疾風のディティアだな。こんな可愛らしい方とはつゆ知らず。巨躯の魔物を一撃で屠ると聞いていたから、ふふっ、そりゃあたくましい女性だと思ってたよ!へぇ、可愛いなあ」
「や、その、ええと」
「うんうん、そうだろ?反応が可愛いよなー」
「ああ。疾風のディティア、もっと堂々としてくれてもいいが、俺は素の貴女が素敵だと思うぞ」
「………うあ」
周りで見ていた3人は、可哀想な顔をしている。
「うわあ……ハルトに似てる、本当に無神経だねー」
「あらまあ、ティア真っ赤よ、グラン、助けてあげたら?」
「いや、仮にも王様だしなあ。いいんじゃねぇか?褒められてるんだし?」
「じゃあ、ええと、ガイアス。うちの可哀想な双剣使いを助けてあげてよー?」
「すまないな…女性に対して…こと気に入ると、マルベルは本当に配慮が足りなくて…。言ってもわかってないんだ」
「あらあら。ますますハルトそっくりね。実は兄弟なのかしら?」
何やらひとり追加され、しかも失礼な会話が聞こえるけど、俺はマルベルと一緒にディティアを褒めまくった。
やがて。
「も、もうっ!!やめなさい!2人とも、すごく、すごく無神経なんだからねっ」
真っ赤になった上に涙目の彼女に怒られた。
俺とマルベルは、首をかしげる。
「そろそろ本題に戻ってやってくれ、マルベル」
「ハルト-、ティア可哀想だよー?」
「何故だ?まあ、確かに本題に戻らねばならないが」
「ええ?俺??」
そんなわけで、話は戻った。
「そうだな、とりあえず、だ。俺は城下で仲間を探している。奴隷狩りの首謀者を捕らえるために。そのついでに、ハイルデンの特産品である宝石や果物に眼を通すようにしているってわけだな。……そういえば数日前に果物を買った時もぶつかったな?逆鱗のハルト」
「あ、覚えてたのか?悪かったな」
「いや、あれくらいで弁償などと言ってくるから興味があってな。奴隷相手に弁償などと言ってくる奴はそうそういない」
「奴隷って……確かに最初そうかな?とは思ったけどさ。マルベル、お前、肌が綺麗すぎるんだよ」
「うん?」
「そ、れ、ね!私も気になったの。マルベル王、貴方、どんな手入れをされているのかしら?」
食いついたのはファルーアだ。
マルベルは驚いて、自分の腕を擦った。
「肌……綺麗か?」
「綺麗よ。とっても。ねぇティア」
「は、はいっ!……すごく綺麗です」
立ち直ったディティアが参戦。
マルベルは背もたれに寄り掛かって、困った顔をした。
「綺麗……こんなに複雑な気持ちになるとは。はっ、もしかして、疾風のディティア。綺麗と褒められるは嬉しくなかったか?」
「そ、それはっ、そこじゃない!そこじゃないんですよマルベル王!あとハルト君!!」
「えー、また俺も??」
「あー、ごほん。話を続けてくれー、ガイアース、お前も手伝え~」
グランが軌道修正する。
俺は納得いかないような変な気持ちで、続けた。
「あんまり生地の良くないローブなわりにさ、肌が綺麗すぎるってこと。俺は奴隷にも格差があるのかなーっと思ったけど、違和感はずっとあったよ。わかる人にはわかっちゃうんじゃないかな?」
「なるほど…それは盲点だった」
「宝石商も、お前を上顧客だと思ったみたいだし…奴隷に成りすますなら尚のこと気を付けないと。あんな大金ぽんと出すのもおかしい気がするぞ?」
「それは…ガイアスにも言われた。あまりに舞い上がっていたのでな」
「あとは、我が国、とか言っちゃってたけど?おかしくないかもしれないけど、やめとくのが得策だなー」
「………。マルベル。あれ程気を付けろと言ったのに…」
ガイアスのスイッチがここで入る。
「うわ!悪かった、悪かったよガイアス。と、とりあえずだ!」
マルベルは慌てて身を乗り出し、告げた。
「逆鱗のハルトが来ているのは宝石商のところから帰って気付いた。そして、ギルドからの使者であるという白薔薇から、謁見の申請があったこともそこで知った。しかも、それは奴隷制度反対派筆頭のルーシャを通してだ。さすがに、飾りの王にもそれくらいの情報は上がってくるんで助かる。これは使える!と思って、すぐにヤンドゥールにその使者にさっさと会ってしまおうと伝えた。ヤンドゥールが俺と同席できる時間帯を敢えて伝えてな」
それと、と。
マルベルは笑った。
「実はな、ギルドで聞いたんだ。ルーシャの息子ドルムが、白薔薇と話をしていたって。つまり、お前達がルーシャと会ったのは、奴隷制度反対派の意見を受け入れたから…って思ってな」
おー…賭けに出たなあ。
ルーシャさんの依頼を断っていたら危なかった気もする。
結果オーライだけどさ。
「っていうか、マルベル、ギルドにも出入りしてんの?」
気になって聞くと、マルベルはふふんと得意気な顔をした。
「ああ。奴隷狩りの情報掲示板を眺めるだけだがな。ただ、お前の反応を見ると、もしかしたらギルドの人間は俺を疑ってるかもしれない…」
「まあいいんじゃねぇか?仮にも王様だしよ」
「ギルドは国から独立しているからな。王が介入していると捉えたら嫌な顔されるかもしれん」
「そういうもんか」
グランが頷くと、マルベルはふうー、と息を吐いて、深く座った。
「さて、それじゃあ最後だ。…白薔薇、俺と協力して、奴隷狩りの首謀者を叩いてくれないか?」
………。
あー、なんか、すごいことに関わってしまった気がするなー。
俺はその時、人ごとみたいに、そう思ったのだった。
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