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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
679/845

武器と防具と⑨

 ふぁさーっ、と。


 黒い布が宙で翻る。


 思わず身を乗り出した俺は息を呑んだ。


 並んでいる武器と防具はなんだかこう、神々しいというか。


 うわ、すごいな――見ただけで業物だってわかる気がするぞ。


 すぐにでも手にしたかったけれど、そこでトラさんがグランを呼んだ。


「お、おお? ひとりずつなのか?」


 グランもちょっと面食らった様子だったけど、〈豪傑〉らしく堂々とした足取りで歩み出る。


 ふ、満更でもなさそうだな。



 ――彼の鎧は紅。これはもうグランだし当然に思えた。


 前は艶消しの紅だったけれど、今回は少し光沢があるように見える。


 形はゴツゴツとより強そうで厳つい見た目になっていて、左の肩当ての部分に大きく花開く一輪の薔薇の模様が彫り込まれていた。


 その線と鎧の縁が白銀で彩られていて――いや、これ格好いいんじゃないか?


「……こりゃ、軽いな」


 持ち上げたグランが呆けたような声でこぼすと、トラさんがガハイガハイと笑う。


「強度は格段に上がっているンナ! 軽くて硬くて強くて長持ちンナ!」


「そりゃあすげぇ……」


 グランが鎧に落としていた視線を上げると、トラさんの隣でこっち側の長が頷いた。


「着てみるとよいンガ」


「ンガ……、……ッ!」


 ボーザックが思わずといった様子で反芻するのをファルーアがさり気なく踏み付けている。


 あれは自業自得だと思うな、うん。


 そうこうしているうちにグランはすぐに鎧を被って、留め具を固定して身に纏った。


「グランさん、格好いいです……!」


「なんか物語にでも出てきそうだね」


 ディティアが前のめりに褒めたところでボーザックが笑う。


「動きも悪くねぇな。可動域も広いぞ」


 嬉しそうに言ったグランはそのまま巨人族たちに頭を下げた。


「……最高の鎧に恥じないような冒険をするつもりだ。感謝する」


「ガハイガハイ、いいってことンナ! さあ次はアンタッだンナ!」


「あら、二番手は私ね?」


 呼ばれたのはファルーアで、彼女の鎧がどんなものになるのか気になっていた俺は覗き込むように上半身を倒す。


 いままでは金属を編み込んだ水色の服で、防御力はそれなりにあるって話だったな。


 ダダンッムルシに刺された腹部分は――そういえばいつの間に縫ったんだろう。


 そんな彼女がそっと手にしたのは……おお?


 胸元と腹の部分を守るその白銀の鎧は内側に細かな刺繍が施された薄い生地が縫い付けられていて、ぱっと見は袖のない上着のよう。


 細い金属を編んで作ってあり、ところどころに隙間があるけれど……なるほど、剣を通すのは難しそうだ。かなり軽量化されてもいるだろうな。


 編まれた模様というか、そのあたりが繊細な絵画みたいで……丁度腹部の側面あたりに薔薇の形があった。


「ファルーア綺麗ー!」


 着る前からディティアは頬を紅潮させて手を叩く。


「うん。たしかに〈光炎〉なら着こなせそうなものだな」


〈爆風〉のお墨付きもあってファルーアは妖艶な笑みをこぼすと早速鎧を纏った。


 側面が薔薇の部分で外れて前後に開くため、頭から被れるようになっているらしい。


 肩は大きく開いているし、そんな柔な生地じゃ鎧を支えられないんじゃないかと思ったけど……なんと、あの生地にも龍素材を編み込んであるという。


 贅沢だな――。


 ファルーアはいままで着ていた服の胸元から肩にかけてを覆っている布地は外すことにするそうだ。



 ――次はボーザックが呼ばれた。


 彼の鎧はやはり前の形を踏襲していて、胸元に薔薇の形の浮き彫りがあるのも変わらない。


 ただし、以前は艶消し銀だったのに対して少し金色が混ざっている気がするんだけどな。


 全然嫌な感じじゃなくて、洗練された色だ。


 肩当ての形は前より少し派手――というか、なんだろうな……段が増えて可動域が増やされ、凝った作りに変わっていた。


「……これ、前の鎧も素材になってるんだよね?」


「当然ンナ。岩龍から採れた原料を混ぜてしっかりと打ち直してあるンナ」


「そっか……へへ、なんかやっぱり嬉しいや」


 ボーザックは前にやっていたように手のひらで鎧をゆっくりと撫でると頷いた。


「着てみる」


 ――そうして着終わると、うん。


「なんかいいな……!」


「うんっ、すごく似合うよボーザック」


 呟く俺に前のめりなディティアが重ねる。


 ボーザックはへへ、とはにかんだ。



 ――そして。



 三対の双剣は鞘に収められて置かれていた。


〈爆風のガイルディア〉、〈疾風のディティア〉の双剣と俺の双剣が一緒に並べられているのは、こう、ぐっとくる。


 俺たちは三人で同時に双剣を受け取ることにしたんだ。


 鞘は岩龍の革、刃はそれぞれ己の双剣だったものの一部を使い、柄は岩龍の骨だという。


 それぞれ異なった模様が黒い鞘に白銀で描かれていて、触れると思いのほか硬い感触が指先を通して伝わってきた。


「うん……いいぞ」


「形も完璧です!」


 どこをどう評価したのかわからないが、〈爆風〉と〈疾風〉は眼を輝かせて満足そうである。


「それにこの模様……」


「あ、前の鞘にもあったな」


「うん――こんなところにまで遺してくれるなんて」


 双眸を細めて呟いた彼女の頭に俺は手を載せた。


「⁉ な、なにかな⁉」


「いや、なんというか思わず?」


「駄目だからね、思わずとかでやったら駄目だからねハルト君!」


「ちゃんと考えてからならいいのか?」


「そっ、それは――そのですねっ……!」


 ぶわーっと赤くなるディティアはやっぱり可愛い。


 ……よかった。新しく生まれ変わった双剣に……ディティアを思う〔リンドール〕の同級生たちの気持ちが載せられて。


 へら、と笑う俺に盛大に頬を膨らませたディティアは「もう!」と怒る。


「そろそろ抜きたいんだが、構わないか?」


 黙っていた〈爆風〉はそう言うと返事を待たずにシャァンッ、と双剣を抜き放った。


「ほう、いい音色だな」


「革張りだけれど内側は金属ンナ」


「わ、私もッ……」


 トラさんが応えると同時にディティアもいそいそと双剣を抜くけど……うん。いい音だった。


 俺はそっと剣を持ち上げて、ゆっくりと引き抜く。


 少し金色が混ざったような――そう、冴えた月みたいな色の刃が日の光でキラリと光る。


 鞘と同じ模様がきめ細かく彫り込まれていて眼を瞠るほどに美しい剣だ。


 重さも丁度よく、握り心地もしっくりくる。


〈爆風〉の刃は黒っぽい鈍色と白っぽい銀、ディティアの刃はそれよりさらに白が強い白銀で、微妙に反りの部分に違いはあるけれど兄弟のように似ていた。


 そして、柄の先端、柄頭には白薔薇の彫刻。


「〈爆風のガイルディア〉もすっかり〔白薔薇〕だね」


「これはこれで悪くないかもしれん」


 ボーザックが笑うと、剣をくるくるっと回して何度か振り抜いた〈爆風〉は歯を見せて口角を吊り上げた。


 ――これが俺たち〔白薔薇〕の新しい武器と防具か。


「ハルト君、ちゃんと毎日磨こうね! ふふ、砥石も見直さなくちゃかな?」


「えっ? お、お手柔らかに頼むかな……」


 やってやったぞーって気持ちが湧き上がったところにディティアの弾んだ声がこだまし、俺は首を竦めるのだった。


長めです!

いつもありがとうございます。

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