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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
678/845

武器と防具と⑧

******


 まあ結論からすれば上手くいかなかった。


 いや、最初から成功するとは思っていなかったけどさ。


 ほら。万が一ってこともあるだろ?


 難しい顔でもしていたらしく、珍しくファルーアが柔らかい声で「魔法大国ドーン王国ならいいやり方の助言が得られるかもしれないわ」なんて言ってくれた。


 俺は頷いて暗くなった空を見上げる。


「そろそろ夕飯かな……今日はここまでか」


「おーい三人とも! そろそろ戻っておいでよー」


 俺が口にすると広場の端からボーザックに呼ばれた。


 彼は鎧を纏っておらず身軽な格好で、こっちまで来ると意味深な笑みを浮かべて声を落とす。


「今日の夕飯、びっくりするよ。――なんと」


「なんと?」


「龍ステーキ!」


「うわっ、本当か? やった……!」


 思わず拳を握り込むと〈爆風〉が「ふむ」と腕を組む。


「龍の肉か。それは楽しみだ」


「そういえば地龍グレイドスは食べなかったの?」


 ボーザックが聞くと彼は歯を見せて笑った。


「その発想はなかった。――あのときはただ倒したことに満足していたからな。素材の一部で防具を作る案が出た程度だ。……それも結局運ぶのに時間が掛かるんで〈爆炎〉の爺さんの杖を作っただけだった。美味いとは聞くが飛龍タイラントは食べたのか?」


「うん、すっごく美味しかったんだよ……最高だったなぁ」


 うっとりと思いを巡らせるボーザックだけど――そうなんだよ、美味かったんだよな。


 涎が出そうな気がして腕で口元を拭った俺は皆と一緒に戻ることにして歩き出す。


 すると〈爆風〉がボーザックに尋ねた。


「ところで鎧はどうしたんだ?」


「うん? ああ、もう預かられちゃったんだ。グランもだね」


「そうか。少しは堪能できたか?」


「勿論! 生まれ変わってもっと格好よくて硬い鎧になってくれるよう頼んだ感じ」


「……ふ。巨人族に腕を振るってもらう必要があるな」


「それなら平気よ、ミラが言うにはここで作られる武具にはかなりの値段がつくそうだから。当然素材がいいというのもあるはずだけれど、職人たちの腕は間違いないと思うわ」


 ファルーアがくすくすと笑うと、ボーザックは胸の前で右の拳を左の手のひらに受ち合わせてにっと口角を持ち上げた。


「それなら期待してもいいよね」


 俺はその話を聞きながら、そっと双剣に触れる。


 ――明日には預けて生まれ変わらせることになるから、なんとなく感慨深かったんだ。


 いままでありがとう、またよろしくな。


 胸のなかで呟くと〈爆風〉が俺の肩を軽くぽんと叩いて――。


「目を閉じろ」


「……っ、い、一、二、三ッ……!」


 いや、なんでいまなんだよ。


 それでも咄嗟に反応した俺は数えてすぐに意識を切り替える。


 この遊び(・・)も久しぶりだ。


 ――そういえば町の周りもずいぶんと気配が増えたように思う。


 息を殺して身を潜めていた生き物たちが活動を始めたんだな、きっと。


 

 ……まあ、そんなこと考えていたんで、最後になったんだけどさ。



******


 岩龍ステーキは……残念なことに固かった。


 いや、なんか塩とか砂糖とか香草とかを擦り込んで熟成させたって話だったのに、それでも固いんだよ。


 食べられないほどではないのが不幸中の幸いなのか、はたまたいっそ食べられないほうがよかったのか……皆の表情は微妙だ。


 けれど巨人族たちは相当お気に召したらしい。美味い美味いと言ってガハイガハイと笑っていた。


 顎も強そうだもんな――でかいし。


 俺たちは〈爆風〉に聞かれて道中で食べた美味いものを挙げながら食事を終え、就寝。


 翌日から本格的な鍛冶が始まったのだった。



 ――それから二日。



 俺たちは広場に集められたんだ。


 青空が広がる昼前。まだ暖まりきらない空気は肌に心地よく、清々しい森の匂いに満ちている。


 目の前にはトラさんともうひとり皺だらけの優しい顔をしたお爺さんがいて、その後ろに巨人族たちがズラリと控えていた。


 いや、まあ、そのお爺さんも当然デカいんだけどな。


「……ところであれ、誰だ?」


「こっちが側の町の族長よ、トラさんは対岸の族長だから」


 ファルーアは前を向いたままさらりと答えたけど……おお、そういえばこっちにも長がいたんだな。


 納得していると馬に似た生き物がギシギシと音を立てながら荷車を引いてきた。


 運ばせているのは運び手であるソナの父親だ。


 荷台には真っ黒な布が掛けられているけど、どう考えてもあれは……そう(・・)だろう。


「なんかちょっとだけ緊張するね」


 ディティアが隣でくすりと笑うので、俺は頬を緩める。


「中身がわかっていてもわくわくするな」


 どんな柄で、どんな刃なんだろう。


 手に馴染むだろうか、重さはどうだ?


 ちらと皆を窺えばそれぞれが期待に満ちた面持ちで、こんなふうに清々しい気持ちはいつぶりだろうかと感慨深い。


 考えていると……トラさんがばっと右腕を上げた。


「それじゃあお披露目ッといくンナ! さあ、受け取ンナ!」


本日分です!

昨日分を朝投稿したのでこれで!

少し忙しくしていますが、そろそろ自由国家カサンドラ編は終了かなと。

(しかし巨人族の町はどちらにも属していないので微妙です)

引き続き何卒よろしくお願いします!

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