武器と防具と⑤
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「いたいた! ねえ〈爆風のガイルディア〉! 部品にできるって本当?」
軽くトトンと扉を叩いて返事を待たずに踏み入ったボーザックに、双剣を磨いていた〈爆風のガイルディア〉は顔を上げた。
「うん。言いたいことがさっぱりわからないな。説明してくれないか〈不屈〉」
言いながらも笑顔なのは彼らしい。
ボーザックはつられたようにカラカラ笑うと〈爆風〉の近くに座った。
「あー、そうだよね。ちょっと気持ちが先走ったっていうか! ……俺、自分の鎧を新調するか迷ってたんだけど。〈爆風〉がハルトにいまの双剣を素材にできるとかなんとか……そんな話をしたって聞いてさ」
「……ふむ。つまりいまの鎧を部品に使った新しい鎧が作れるか――それを聞きにきたと」
「わぁお、話が早くて助かるよー」
「……たしかお前の鎧はそれなりの業物だったな。まだ現役でも困らない状態か?」
「うん。……あれ、カルアさん――〈完遂のカルーア〉さんが俺のために用意してくれた鎧なんだ。俺の二つ名をくれた人なんだけど」
「ああ、〈逆鱗〉から聞いた。いまは〈重複〉と夫婦なのだろう? お前たちは出逢いに恵まれているな」
「あはは、俺もそう思う。……でもきっとそれを持っているのはティアなんじゃないかな――そのぶんつらい思いもしてきたんだと思う。だからこそ俺たち、強くなりたいって考えたんだ」
「そうか。……安心しろ、みっちり鍛えてやる。俺も〈爆突〉の気持ちがわかってきたからな」
「うん、お願いします!」
「いいだろう。……さて、鎧の話だが、一度溶かすのか一部を切り取るのか……やり方は巨人族任せになるが可能だ。俺の双剣もそうやって鍛え直してきたものだからな」
「えっ、そうなの?」
「……〈爆辣のアイナ〉の話は覚えているか?」
「……うん」
「あのとき俺は初めてひとを狩った。これは戒めだ――後悔しているんじゃない、二度と躊躇うことのないように。俺は剣を抜くたびに何度でも――あのときの気持ちを思い出すことができる」
「戒め……」
ボーザックがきゅっと唇を結んだのを見て〈爆風のガイルディア〉は笑みを浮かべた。
「そんなに難しい話じゃない。お前はお前が手放したくないものを持っていけ」
「……俺の手放したくないもの……かぁ。〈爆風のガイルディア〉はその『戒め』を――つらい気持ちを手放したくはないの?」
「……ああ。〈爆辣〉を亡くしたのは俺の落ち度だ。決して手放すわけにはいかない。これはもう俺の一部も同然だからな」
「そっか……」
「はは。そんな切なそうな顔をするな、やりたくてやっていることだ。俺はむしろ誇りにすら思っているのだからな」
「うん――わかった。それじゃあ剣はそのままってことかな。〈爆風のガイルディア〉は鎧を作るの?」
「いや、双剣にしようと思う」
「あれ、そうなの?」
「鎧は着ているが基本的には『躱す』のが俺の戦い方だ。であればより速く仕留めること――これが重要になる。龍素材の剣は切れ味もよさそうだがどうだ? ……地龍グレイドスを屠ったときに素材にしたのは〈爆炎〉のじいさんの龍眼の結晶だけだったからな」
「俺の剣、すごく軽くて強いよ。まあ、岩龍の皮膚にはいまひとつって感じだったけど」
「最終的に刃を突き通したのは〈不屈〉だろう。もっと誇ってもかまわないぞ」
「……ふ、〈爆風のガイルディア〉って面白いこと言うよね」
「ははは。心外だな。どこをどう解釈したらそうなる」
「え? 解釈ってほどでもないよ。〈爆風のガイルディア〉は……本当はもっとやれたんじゃないのかなって思ってさ。岩龍の上にいたときも本当は眼を狙うつもりだったんじゃない?」
胡座を掻いた上で自分の手のひらに視線を落としたボーザックが応えると〈爆風〉は笑ったまま双剣の刃に爪を当てた。
「――なるほど、よく見ている。たしかに眼は狙っていたが、傷を穿つのは俺である必要がないと判断した。実際、お前たちはよく戦ったぞ」
その言葉にボーザックは視線を上げると黒い瞳を瞬かせる。
「……もしかして褒めてくれてる?」
「当然だ。……ふむ。〈不屈〉、お前たちは優しすぎる……と言ったのを覚えているか?」
「……うん。ハルトと一緒にボコボコにされたときだね」
「そうだな。いまもそれは変わらないだろう――ただ、お前たちの目指すものがあるというのも否定はしない。少なくとも俺はギリギリまで付き合ってやるつもりでいるぞ。……だが、お前はお前の手柄を認めていい。誰かに功績を譲る中途半端な優しさは必要ない。お前の功績はお前の背で増えて枷にもなるだろう、それを目指したらどうだ」
「え? 枷?」
「そうだ。期待という名の枷。〔白薔薇〕が有名になるだけ積み上がっていくものだ」
「……あぁ……。なんとなくわかる。ティアは……それを背負っていたよね」
「うん。期待を背負うのは容易いことではないが、それが己を強くする」
「〈爆風のガイルディア〉も背負っていたりする?」
「ははは。どうだろうな、俺は期待に応えるだけの強さがあるからな」
「あははっ、否定できないや! ……でも、うん。わかった。その期待に応えるためにも俺、もっと強くなる」
拳を握り締めて頷くボーザックに〈爆風〉は磨き終えた双剣を収めると立ち上がった。
「よし、呑むか〈不屈〉」
「えっ?」
「男同士、杯を交わすのも大切だぞ。鎧も持ってこい、思い出を聞いてやろう」
いったいどこから仕入れたのか……〈爆風〉は棚に置いてあった大振りの瓶を手にして笑う。
「……うん、そうする!」
ボーザックは破顔すると、いそいそと鎧を取りにいく。
――夜も更けた頃。盛大に潰れてベッドで爆睡するボーザックを見て、戻ったグランはハルトの部屋で眠ることを決めるのだった。
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