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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
675/845

武器と防具と⑤

******


「いたいた! ねえ〈爆風のガイルディア〉! 部品にできるって本当?」


 軽くトトンと扉を叩いて返事を待たずに踏み入ったボーザックに、双剣を磨いていた〈爆風のガイルディア〉は顔を上げた。


「うん。言いたいことがさっぱりわからないな。説明してくれないか〈不屈〉」


 言いながらも笑顔なのは彼らしい。


 ボーザックはつられたようにカラカラ笑うと〈爆風〉の近くに座った。


「あー、そうだよね。ちょっと気持ちが先走ったっていうか! ……俺、自分の鎧を新調するか迷ってたんだけど。〈爆風〉がハルトにいまの双剣を素材にできるとかなんとか……そんな話をしたって聞いてさ」


「……ふむ。つまりいまの鎧を部品に使った新しい鎧が作れるか――それを聞きにきたと」


「わぁお、話が早くて助かるよー」


「……たしかお前の鎧はそれなりの業物だったな。まだ現役でも困らない状態か?」


「うん。……あれ、カルアさん――〈完遂のカルーア〉さんが俺のために用意してくれた鎧なんだ。俺の二つ名をくれた人なんだけど」


「ああ、〈逆鱗〉から聞いた。いまは〈重複〉と夫婦なのだろう? お前たちは出逢いに恵まれているな」


「あはは、俺もそう思う。……でもきっとそれを持っているのはティアなんじゃないかな――そのぶんつらい思いもしてきたんだと思う。だからこそ俺たち、強くなりたいって考えたんだ」


「そうか。……安心しろ、みっちり鍛えてやる。俺も〈爆突〉の気持ちがわかってきたからな」


「うん、お願いします!」


「いいだろう。……さて、鎧の話だが、一度溶かすのか一部を切り取るのか……やり方は巨人族任せになるが可能だ。俺の双剣もそうやって鍛え直してきたものだからな」


「えっ、そうなの?」


「……〈爆辣のアイナ〉の話は覚えているか?」


「……うん」


「あのとき俺は初めてひとを狩った(・・・)。これは戒めだ――後悔しているんじゃない、二度と躊躇うことのないように。俺は剣を抜くたびに何度でも――あのときの気持ちを思い出すことができる」


「戒め……」


 ボーザックがきゅっと唇を結んだのを見て〈爆風のガイルディア〉は笑みを浮かべた。


「そんなに難しい話じゃない。お前はお前が手放したくないものを持っていけ」


「……俺の手放したくないもの……かぁ。〈爆風のガイルディア〉はその『戒め』を――つらい気持ちを手放したくはないの?」


「……ああ。〈爆辣〉を亡くしたのは俺の落ち度だ。決して手放すわけにはいかない。これはもう俺の一部も同然だからな」


「そっか……」


「はは。そんな切なそうな顔をするな、やりたくてやっていることだ。俺はむしろ誇りにすら思っているのだからな」


「うん――わかった。それじゃあ剣はそのままってことかな。〈爆風のガイルディア〉は鎧を作るの?」


「いや、双剣にしようと思う」


「あれ、そうなの?」


「鎧は着ているが基本的には『躱す』のが俺の戦い方だ。であればより速く仕留めること――これが重要になる。龍素材の剣は切れ味もよさそうだがどうだ? ……地龍グレイドスを屠ったときに素材にしたのは〈爆炎〉のじいさんの龍眼の結晶だけだったからな」


「俺の剣、すごく軽くて強いよ。まあ、岩龍の皮膚にはいまひとつって感じだったけど」


「最終的に刃を突き通したのは〈不屈〉だろう。もっと誇ってもかまわないぞ」


「……ふ、〈爆風のガイルディア〉って面白いこと言うよね」


「ははは。心外だな。どこをどう解釈したらそうなる」


「え? 解釈ってほどでもないよ。〈爆風のガイルディア〉は……本当はもっとやれたんじゃないのかなって思ってさ。岩龍の上にいたときも本当は眼を狙うつもりだったんじゃない?」


 胡座を掻いた上で自分の手のひらに視線を落としたボーザックが応えると〈爆風〉は笑ったまま双剣の刃に爪を当てた。


「――なるほど、よく見ている。たしかに眼は狙っていたが、傷を穿つのは俺である必要がないと判断した。実際、お前たちはよく戦ったぞ」


 その言葉にボーザックは視線を上げると黒い瞳を瞬かせる。


「……もしかして褒めてくれてる?」


「当然だ。……ふむ。〈不屈〉、お前たちは優しすぎる……と言ったのを覚えているか?」


「……うん。ハルトと一緒にボコボコにされたときだね」


「そうだな。いまもそれは変わらないだろう――ただ、お前たちの目指すものがあるというのも否定はしない。少なくとも俺はギリギリまで付き合ってやるつもりでいるぞ。……だが、お前はお前の手柄を認めていい。誰かに功績を譲る中途半端な優しさは必要ない。お前の功績はお前の背で増えて(かせ)にもなるだろう、それを目指したらどうだ」


「え? (かせ)?」


「そうだ。期待という名の枷。〔白薔薇〕が有名になるだけ積み上がっていくものだ」


「……あぁ……。なんとなくわかる。ティアは……それを背負っていたよね」


「うん。期待を背負うのは容易いことではないが、それが己を強くする」


「〈爆風のガイルディア〉も背負っていたりする?」


「ははは。どうだろうな、俺は期待に応えるだけの強さがあるからな」


「あははっ、否定できないや! ……でも、うん。わかった。その期待に応えるためにも俺、もっと強くなる」


 拳を握り締めて頷くボーザックに〈爆風〉は磨き終えた双剣を収めると立ち上がった。


「よし、呑むか〈不屈〉」


「えっ?」


「男同士、杯を交わすのも大切だぞ。鎧も持ってこい、思い出を聞いてやろう」


 いったいどこから仕入れたのか……〈爆風〉は棚に置いてあった大振りの瓶を手にして笑う。


「……うん、そうする!」


 ボーザックは破顔すると、いそいそと鎧を取りにいく。



 ――夜も更けた頃。盛大に潰れてベッドで爆睡するボーザックを見て、戻ったグランはハルトの部屋で眠ることを決めるのだった。


皆様こんばんは!

今週もよろしくお願いします!


なんだかブクマや評価が増えていてとてもうれしいです。

引き続き精進します!

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