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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
672/845

武器と防具と②

******


 しばらくしてソナの父親である運び手が馬に似た動物に荷車を引かせてやってきた。


 一台とか二台って話じゃなくて、それはもう何台も何台も……だ。


 考えてみたら採掘した鉱石も運ぶって話だし、この荷車と船、両方使っていたのかもしれない。


 こんな状況だし、まとめて運んでもらえるなら助かる。


 ――まあ俺のせいなんだけど。うん。


 そんなわけで、俺たちは順番に荷車に詰め込まれて揺られながら帰ることになった。


 荷車と一緒に戻ってきた〈爆風〉とディティアもトラさんの指示で一緒に乗せられ、アルミラさんだけは『素材の採取の相談』とかなんとか言ってどこかに行ってしまった。


 たくましいなぁ……本当に。


******


 それから五日は大忙しだった。


 とはいえ、そのうち二日間は俺のところにサの巨人族ヒーラーが付きっきりだったんだけど。


 そこまで酷い怪我だったとは……。まあ、腕とか変な方向にいってたような気はする。


 そんなわけで俺は動けるようになってすぐに巨人族たちと狩りに出ることにした。


 まずは食糧の確保が必要だったし、素材の剥ぎ取りとか、堰堤(えんてい)の修理とか、まして崩れた建物の修繕なんていうのはできそうになかったからな。


 グラン、ボーザック、〈爆風〉も一緒で、ディティアは町に残った。


 双剣の柄が嫌な音を立てたのもあるし、武器に不安があったんだ。


 彼女自身もわかっているようで、炊き出しとかを手伝うつもりらしい。


 ファルーアとアルミラさんも素材の交渉をすべく残ったんだけど――ふたりがうまいこと打ち解けられたのかは――不明なままである。


「うん、今日はこのへんでいいだろう。そろそろ素材も集まるんじゃないか?」


 そこで、倒れた猪のような魔物を前に〈爆風〉が言う。


「いよいよか――」


 グランがにやりと笑みを浮かべて顎髭を擦り、ボーザックはさっさと縄を取り出しながら頷いた。


「新しい武器と防具……全部作れるといいけど」


「そこはファルーアがうまく交渉してくれるだろうよ」


「アルミラさんもいるしな」


 俺がボーザックを手伝いながら言うと、警戒していたグランは盾を背負い直してため息をこぼした。


「自分の取り分、俺たちに売るぞ」


「はは。それはありそうだ、なかなか商売上手な姉だな」


〈爆風〉は俺とボーザックが縄を結び終えたのを確認すると、少し離れた位置にいる巨人族たちに合図を送る。


 彼らも別の個体を仕留めていて、準備ができたようだ。


 今日の収穫は上々。大きめの魔物四体とダダンッムルシである。


 滋養強壮、気付けにダダンッムルシ――って感じで、巨人族たちはかなり喜んでいた。


 あんまりいい思い出はないけどなぁ……ダダンッムルシ……。



 ――そんなこんなで。



「お疲れ様、すっかり狩人だね」


 ディティアから串に刺さった肉を受け取り、俺はそのこんがりと焼き色のついた肉の香りを楽しみながら肩を竦める。


「まあ、こんな状態なのを放っておくわけにもいかないしな」


 ……家が問題なかった巨人族たちはそこを宿として解放してくれていた。


 俺たちはそのうちの一件――スイの家に世話になっていたりする。


 大変だろうからと断ったものの、スイの父親であるガルと母親であるラキが『恩返し』だと譲らなかったのだ。


 俺たちは分配された肉をありがたく調理して食卓を囲んでいるってわけ。


「武器と防具を作ってもらうあいだ、しばらくは留まる必要もある。互いに最善の役割分担だろう」


 早速肉にかぶりついた〈爆風〉がそう言うので、俺は頷く。


「トレジャーハンター協会本部にも報せを送ったし……武器と防具ができる頃には商人たちが集まってくるんじゃないか?」


「龍の素材目当ての商人も来るわね! 早いところ分け前を確定しておかないと」


 ――ちなみに、アルミラさんも一緒である。


「……それなんだけれど、素材の剥ぎ取りと運搬が今日終わったわ」


 ファルーアが言うと、肉を呑み込んだボーザックがぱっと顔を輝かせた。


「終わった? それで、俺たちの装備は作れる?」


「たぶん剣と鎧分くらいはなんとかできるわ。……これ」


 ファルーアはそこで机の上にコトリとなにかを置く。


 金にも銀にも見える……鉱石だった。


「アルヴィア帝国の漁師長が持っていたのと同じ鉱石か。やっぱり岩龍の一部だったのか?」


 グランが聞くとファルーアは神妙な顔で頷く。


「龍のかさぶた――そう呼ばれているそうよ」


「かさぶた?」


「ええ。傷口をこの鉱石が覆うらしいわ。だから巨人族は岩龍を少しだけ傷付けてそこから採掘していたってことになるわね」


「…………」


 答えたファルーアに、俺は思わず眉をひそめて鉱石を眺める。


 ……そっか、これ……岩龍の血、とか、そういうのだったんだな……。


 体を少しずつ傷付けられるのを想像すると――なんとなく岩龍が可哀想にも思えてしまう。


 それに、なんていうか、こう……血の塊――血の結晶っていうのが……少しだけ引っかかったんだ。


「強度、魔法耐性、それぞれかなり高いから鎧には向いているそうよ。しかも軽いみたいだわ」


「それは願ったり叶ったりだな。せっかくの素材だ、存分に活用させてもらうとしよう」


 続けたファルーアだけど、どこか重くなった空気を吹き飛ばしてくれたのは〈爆風〉だった。


「……そうだな。この先もどんな魔物を相手にするかわからねぇ。装備の強化は必須だろうよ」


 グランが頷き、俺たちも応える。


「はっ、やらなきゃやられていたんだもの。そんなしんみりする必要なんかないわ。……それで、誰がなにを作ってもらうのかしら? 量を調整するから教えなさい」


「えっ、調整って……アルミラさん手伝ってくれるのか?」


「あら、どういう意味かしらハルト。私があんたたちの功績を横取りするとでも?」


「鉱石だけに……痛ッ⁉」


「黙りなさいボーザック。消し炭になりたいの?」


 なぜかファルーアに踏まれたらしいボーザックに憐憫の眼差しを送ると、アルミラさんは腕を組んでにやりと笑った。


「……次の目的地は魔法大国ドーン王国でしょう? そこまでの護衛料よ」


「あ? 護衛料だ?」


「あぁ? 文句あるのグラン。丁度いいじゃない。ファルーアに古代魔法の研究者も紹介するわ」


「……え、研究者?」


 俺が聞き返すと、ファルーアがいつもの妖艶な笑みを浮かべてみせた。


「ええ。ミラを診ていた方が古代魔法に通じているそうなの。いい条件でしょうグラン?」


「み、みら……? 姉貴のことか? お前、いつの間にそんな仲良くなったんだファルーア?」


「あら。ちゃんと紹介してくれなかったのによく言うわね」


「うっ……それは悪かったよ……」


「ふふ。……決まりね。明日の朝、なにが必要か確認するわ。全員、ひと晩考えておいて」


 どこか嬉しそうなファルーアに苦笑してグランが頷く。


 俺は――知らず自分の双剣にそっと指を這わせていた。


 ……どうするかな……。


かなり開いていて申し訳ないです。

引き続きよろしくお願いします!

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