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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
671/845

武器と防具と①

 ――最初に異変に気付いたのは〈爆風〉だと思う。


「……む」


 ぴくりと足を止めた〈爆風〉のすぐ後ろ、まだ治りきっていないから大人しくしておけとグランに背負われていた俺は顔を上げた。


 空はすっかり明るくなって鳥のさえずりが耳に心地よい。


 岩龍の素材の採取は道具を準備してからってことで、一度巨人族たちが集まる広場に戻るところなんだけど……。


「どうした……? ……うわっ、……痛ッ」


 一瞬の浮遊感。そして投げ出される衝撃。


「うぐ……」


「グラン⁉」


 突っ伏した俺が慌てて上半身を起こすと――突然。


 ばたり、ばたり、と。


 歩いていた巨人族の狩人たちが次々に膝を突き、倒れ伏していく。


「なんだ⁉ って…………あぁ……しまっ……た……」


 ついには自分の体さえ言うことを利かなくなり、俺も再び地面に転がった。


 まあ、うん。理由はわかったんだけどな……。


「なンナ⁉ どうしたンナ!」


 トラさんの焦燥が声に滲んだところで……俺と同じように突っ伏したグランがぷるぷると腕を上げる。


「…………すまねぇ族長。ハルトのバフが切れた。反動でしばらくこうなっちまうんだ……」


「ははは。やってくれるな〈逆鱗〉。さてはお前、忘れていただろう?」


「――ひ、人聞きの悪いこと言うなよ〈爆風〉! 忘れていたというか、そんな余裕がなかったというか、ほら……あるだろ? いろいろ……」


 っていうか、なんであんたは元気なんだよ……。


 やっぱり鍛え方が違うのか? そういうことか?


 考えつつも俺が乾いた笑みを送ると、〈爆風〉はぐるぐると肩を回して至極楽しそうな笑顔を返してきた。


「うん、この程度なら問題ない。ひとっ走りして誰か呼んできてやろう。誰に声を掛けたらいいか指示をくれ、族長」


「それなら運び手が適任ンナ。こっちもちょいッと怠い程度ンナ、ここは見ておくから頼むンナ」


 ええ……トラさんもピンピンしているのか。ちょっと衝撃なんだけど……。


 顔を顰めていると〈爆風〉は俺を見てもう一度笑った。


「では行くとしよう、早めに治せよ〔白薔薇〕」


 ――そうして彼が木々の向こうに見えなくなると、少し離れた場所で転がっているボーザックがこぼす。


「なーんかさー、俺たちこんなのばっかりだよねー……」


 グランはなんとか体をひっくり返して仰向けになり、深々とため息をついた。


「まあなぁ……」


「えぇと…………お、お水とか飲みます……?」


 そこにおどおどやってきたのは我らが〔白薔薇〕の〈疾風〉だ。


 そういえばディティアも五重バフが切れた程度じゃそんなに問題ないんだったな……。


「水か……それより腹減ってきたかも」


 濃茶の髪をふわりと揺らして困った顔をしている彼女に笑うと、ディティアは慌てたように頷いた。


「そ、そうだね! 出発前に少し食べただけだし……なにか用意しようか!」


「あはは、ティアも動けるんだったねー。食事は……うーん。こんなに人数いたら難しいんじゃない?」


「……うう、たしかにそうかも……」


 ボーザックが返すと、ディティアは所在なさげに視線を泳がせる。


 すると気怠い吐息とともにファルーアの声がした。


「ティア、あなたも疲れているでしょう。休んだほうがいいわ」


 なんとか視線を持っていくと、彼女は動けなくなるのを察したのか、うまいこと木に寄り掛かって座り込んでいる。


 ……けれど。


「……私のバフはまだ切れないのかしら」


 その隣、腰に手を当てたアルミラさんが堂々たる佇まいでこっちを見ているじゃないか。


 え、嘘だろ。


「……いや、アルミラさんのバフも切れているけど……?」


「え? ……あら、そうなの。」


 思わず言うと、彼女は首を捻って少し考える素振りをみせる。


「――まあいいわ。動けるに越したことはないでしょうし」


「アルミラさんって本当に商人なのか? ……俺、ちょっと情けないんだけど……」


 肩を落とす――実際には動けないんで比喩だけど――俺に、アルミラさんはどこかグランと似た顔でふふと笑った。


 ……そこで。


「そういえば……ハルト君」


「ん?」


「岩龍に『知識付与』を使っていたよね? あれって……なにを見せたの?」


 どうやら大人しく座ることにしたらしいディティアが聞いてきた。


「あ、それ俺も気になるー」


 ボーザックも便乗するんで、俺はゆっくり瞼を下ろして答えた。


「あれは……『災厄の黒龍アドラノード』を見せたつもり」


 山のように巨大な黒い龍。


 俺たち〔白薔薇〕が最初に倒した災厄であり、鎖で大地に繋がれ、飛び立つこともできなかった過去の『誰か』。


 幸運なことに俺たちはそのブレスを回避できたけれど、もし喰らっていたらと思うとゾッとする。


「……ああ、確かにあれなら怯むかもしれねぇな……」


 グランが納得したように言う。


「そうね、岩龍よりも大きかったし……」


 ファルーアもそう口にすると……ふと気になった様子で続けた。


「そういえばハルト。あんた『魔力活性』も使っていたわね? 効果はどう? なにか反動は?」


「え? 反動?」


「ええ。前回のときはそもそもあんたの魔力が不活性化していたからいいとして……今回はちゃんと機能している魔力を活性化させたわけでしょう?」


「え、あ、うーん。そっか、そうなるはずだけど……」


 そんな考えはさっぱり浮かばなかったぞ。


 俺は首を捻りたいのを断念して続けた。


「……確かに『知識付与』のバフは安定した気がする。あの感じならかなり細部まで再現できたんじゃないかな。広げても使えるかも……ただ、反動かぁ……そうだよな、『治癒活性』だと治りにくくなるわけで――」


「あれ? そうするとほかのバフの効果も上がったってことなのかな?」


 そこでディティアが被せてきたので、俺は首を振ろうとして……諦める。


「それはないと思う。どっちかというと安定したってだけで――ええと、たぶん広範囲に広げるのはもっといけるんじゃないかな。……ん、そう思うと夢中だったから今回はあんまり意識できてなかったのが悔やまれるな」


「バフのことはよくわからないけれど、たしか自分の魔力を違う形にして人に渡す……ような感じだったわね。だから形がはっきりするだけってことなのかもしれないわ。私みたいに魔力を別のものに変換するのであれば威力が増す可能性があるんじゃないかしら」


「おお、それも気になるな! そっか、そうしたら威力アップも重ねたらもっといい感じに……っと、そうだ、いまは反動の話だよな。……活性化させたのが静かになるんだとしたら…………『肉体強化』」


 俺は重く痛む腕を少しだけ上げてバフを練る。


 ……だけど。


「……ああ……駄目だな、安定しにくい……」


 うーん、これは使いどころが難しいかもしれない。


 ファルーアにかけたとして、あとあと魔法が使いにくくなるってことだ。


 困った顔をしたかもしれない。ファルーアは俺の考えを理解しているらしく、目が合うと妖艶な笑みをこぼした。


「このあと落ち着いたら試しましょう、素材の交渉も必要だもの」


昨日分です!

おはようございます、よろしくお願いします。

いつもありがとうございますー!

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