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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
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共闘と勝者と⑩

 まさか自分の鎧として纏っていた岩を反対に撃ち込まれるだなんて思わなかっただろう。


 無防備だった顔面にぶち当たった岩の反動で、山のような巨躯が咆哮を上げながら踏鞴を踏んだ。


 同時にディティアとボーザックが岩龍の頭上を走り出して踏み切る。


 まずディティアが己の双剣を掴んで引き抜き、くるくると回ったあと柔らかな体裁きで地面へと着地。


 ボーザックは彼女と入れ代わるように穿たれた傷へと大剣を閃かせ、勢いそのままに切っ先を深々と捻じ込んだ。


『グゴオオオォォォッッ!』


 激痛に違いない。


 頭を振るう岩龍ロッシュローク。


 しかしそれを見据えるファルーアの杖――その龍眼の結晶は未だ煌々と光を放っていた。


「黙ってじっとしていなさいッ!」


 瞬間、岩龍の頭上に浮いていた岩から無数の()のようなものが突き出し、ドゴォッと鈍い音を立てて撃ち込まれる。


 岩龍はその衝撃で再び踏鞴を踏み、懸命に食らい付いていたボーザックが声を上げた――んだけど。


「いけるよっ……トラさんッ! 矢を――」


「それには及ばん、〈不屈〉」


「――って、えぇッ⁉」


 飛来したのは氷の槍――そして、いつの間にか移動して氷の槍に乗って(・・・)いた〈爆風のガイルディア〉だった。


「はっ! 穴が開けばこっちのものだわッ!」


 ……そういえば、こっちにはアルミラさんがいたんだったな……。


 そう思ったのと同時に氷の槍が眼球に炸裂。


 合わせて跳び上がっていた〈爆風〉は、拾い集めたらしい矢の束をボーザックの大剣に滑らせるようにして思いっ切り突き込んだ。


『グゴオオオォォォッ、オオォォッ!』


 岩龍は今度こそ頭を振り回し、前脚を浮かせる。


〈爆風〉はそのまま瞼に手を掛けてぶら下がり、反対の手で腰の革袋から瓶を出す。


眼薬(・・)をくれてやろう。手伝え〈不屈〉」


「うっ、うん……」


 大剣を握ったまま硬い皮膚に足をかけていたボーザックが振り落とされまいとしながら頷く。


 そこでファルーアがくるりと杖を回し、地面に突き立てた。


「ハルト。意識があるならバフを頼めるかしら」


「……当然……! く、いてて……『威力アップ』『威力アップ』『威力アップ』『威力アップ』……『威力、アップ』ッ!」


「――ありったけの魔力を使うわ」


 そこにディティアが駆け戻ってきてグランの隣に立つ。


 やがて岩龍の周りを回っていた岩が浮力を失い、ズン、ズン、と落ち始め――その巨躯がゆらりと揺れた。


「麻痺させたら口を開けてやるンナ!」


 トラさんが巨大な手斧を振り抜くのを横目に……俺はずっとヒールをかけてくれているサの巨人族ヒーラーと目を合わせ、頷いてみせる。


「ありがとう、もう平気……」


「馬鹿いわないサ! まだ酷い状況サ!」


 ……怒られた。


「――あとはトドメを刺すだけか。気は抜けねぇが――」


 グランが言うと、その向こうからボーザックと〈爆風〉が戻ってくる。


「あるだけの麻痺毒は全部注いできたよ!」


「さて、効果はありそうだが――お手並み拝見といくぞ〈光炎〉」


 その言葉どおり、岩龍ロッシュロークの頭が地響きを立てながら地面を弾む。


 立っていられなくなったのだ。


 太陽の光が木々の枝葉を抜けて薄く届き始めた空の下、泥と土、草と花の匂いを纏う龍に巨人族たちが次々と組み付く。


 巨大な顎を何人もの力で持ち上げる彼らのなか、交ざっていたトラさんがファルーアを見る。


「さあッ、やってやるッンナ!」


「――ええ、準備完了よ。……行きなさいッ!」


 応えたファルーアの杖からキンッと甲高い音が響き、白く見えるほどに輝く小さな光球が数個撃ち出された。


 それが岩龍ロッシュロークの喉へと飛び込み――。


「凍りなさいッ!」


 アルミラさんがその喉に氷の塊を突き込んで蓋をする。


「散開するッンナ!」


 トラさんの号令で巨人族たちが一斉に顎を放し散開して――。




 ズドオオオオォォォォンッ!




 寝かされていた俺の体が弾むほどの衝撃。


 飛んでくる破片を皆を背にしたグランが受け、木々の枝葉がなぶられてザアザアと揺れる。


 ――そして。


「ははは、なかなかの爆風だ」


「は、あんたは毎回楽しそうだな……!」


 いつものように歯を見せて。目尻の皺を深くした〈爆風〉が笑うのに、グランが鼻を鳴らして呆れた声で突っ込む。


 吹き荒れる風が駆け抜け……残されたのは静寂だ。



「…………終わったみたい、だね。……はあー……」



 ボーザックがそう言って地面に座り込むと、ファルーアも膝を突いた。


「ファルーア⁉」


「大丈夫よティア。ふうー……」


 心配そうに駆け寄るディティアに頷いて、彼女は肩の力を抜く。


 肩から滑り降りた金色の髪に差し込み始めた日の光が瞬いた。



「――はっ! やったわね、私たちが『勝者』よ!」



 そこにアルミラさんがやってきてグランの背を思いっ切り叩くと――巨人族たちがガハイガハイと笑って歓声を上げる。



 ――勝った。そうだ、勝ったんだな……俺たち。



 煙を上げて沈黙した巨大な岩山。


 隙間から見え隠れする岩龍ロッシュロークの姿に、俺は強ばった肩の力を抜く。


 瞼をゆるりと瞬くと、目を合わせたグランが深く頷いてくれた。


「よくやったぞ、ハルト。酷ぇ怪我したんだ……少し休め」


「ん。……なんか、思い出したら……痛い、すごく」


 応えたところで、さっきまで感じなかったような痛みがズクズクと全身を襲ってくる。


 すると隣に膝を突いた〈爆風〉が俺の下から双剣を抜いた。


「……?」


「うん。お前の双剣も酷い有様だぞ〈逆鱗〉。ダダンッムルシを狩ったあとに確認できていなかったからな、気になっていたところだ。……とはいえ。お前、粘液をそのままにしただろう〈逆鱗〉」


「げ……いまそれ言う?」


「はは。新しい双剣に生まれ変わるのも悪くないかもしれんな」


「…………あー。そっか……そうだな、でも……それ、ディティアが選んでくれた双剣なんだ。手にもしっくりくるし……まだ大事にしようかなって」


 俺が言うと〈爆風〉はちょっとだけ眼を瞠って……琥珀色の双眸を細めた。


「ならこれを素材にというのも悪くない。とりあえず一度戻るとしよう」


******


 しかし。……しかし、である。


 なるべくして、この大惨事は訪れたんだ――。



今週もよろしくお願いします!

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