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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
67/846

王族たるもの。⑥

******


翌日。

宮殿の外壁に行くと、門で案内人が「お待ちしておりました」と言って、先導してくれた。


今日は礼服だ。

ハイルデンの礼服はゆったりしたローブで、ちょっとこう、足元がすーすーするんだけど…。

聞いたら、フェンもいいって言うんで連れて行く。

実際、フェンが魔物であることは事実だからな。

太っ腹だと思う。


通された先は、庭園。

色とりどりの花、噴水から溢れる水と、小さな小川。

それを横目に進んで、中央に聳える宮殿に入る。


中は天井が高く、天井には獅子の絵が描かれていた。


さらに進むと階段があり、その上の入口をくぐれば応接間、その先に謁見の間があるらしい。


辺りを窺うけど、あまり人がいるようには見えなかった。


応接間まで来ると、案内人はこちらでお待ちくださいとだけ言っていなくなる。


「もっと兵士達がいるのかと思ってたわ」

ファルーアが小声で言うと、ボーザックも頷いた。

「…五感アップ、魔力感知」

俺はバフをまとめて投げて、もう一度辺りを窺う。

「人は…ほんとに少ないなぁ」

「うん、なんとなく、謁見の間にはいそうな気がするねー」

確かに、こう、気配っていうのかな。

そういうのを感じることが出来る。

「よし、さっさと渡して、依頼もこなしちまうぞ。…聞く感じ、宰相が厄介そうだから、多少手荒くいくからな。……つねるなよ、ファルーア」

「あら。なんのことかしら?」

「ふ、まぁいいけどよ」

グランが意気込んだところで、応接間の奥にある大きな扉がぎしりと軋んだ。

装飾の施された白い扉の向こうから、兵士が扉を開けている。

「どうぞ」


******


…うわ、すご。


中には、兵士達が左右にわかれてずらりと並んでいた。

こ、こんなにここに兵がいる必要あるのかな?


その真ん中を真っ直ぐ行った先が一段高くなっている。

その上に玉座があって王が座し、横には大きな手帳とペンを携えた50くらいの男が見えた。


あれが宰相なんだろうな。


俺達は真っ直ぐ進んで、一礼した。

「ギルドを通して、ラナンクロストからハイルデン王に書状を預かった。俺達は白薔薇だ」


顔を上げて…。


「あれ?」

思わず、声がもれる。

正面の少し離れた先に座る男…つまり王は、その瞬間に俺達から眼を逸らした。


細く白い肌には艶があり、眼は青。

髪は、くるくるとウェーブした金髪だ。


どう見ても、昨日宝石屋で会ったローブの男に見えるのである。

まあ、髪は見えてなかったけどさ。


「どうかされたか?」

宰相らしき男に言われ、俺は「いや」と首を振った。

何かを察してくれたのか、グランが前に出てくれる。

「お目にかかれて光栄だ、ハイルデン王」

グランが言うと、宰相が答えた。

「本来であれば中々時間が取れぬ御方なので手短に」

グランはそれをスルーする。

「伝えた通りだ。ハイルデン王に渡したい書状を預かってきた」

「では、私が受け取ろう」

またも、少し前に出て宰相が答える。

「…いや、これはギルドから正式に預かってるんでな。申し訳ないが、直接渡したい」

グランは宰相の態度に、イラッときているようだ。


王はその間に、ちらりと俺を見た。

俺は、その左腕の腕輪に填まる宝石が昨日の物だとわかったので、そっと自分の左手首を指差して見せた。


「……」


王は応えるように、腕輪を擦る。

なんとなくだけど、わかっている、と言っているような気がした。


「…申し遅れた、私はこの国の宰相、ヤンドゥールだ」

「ああ、宰相さんだったか。これは失礼したな。けど、俺達はギルドからの正式な使者。謁見の手続きはイレギュラーになっちまったが、それはわかってくれ」

「……ヤンドゥール。俺がもらえば済む話だろう。…仕方ない、下がれ」

「………」

ヤンドゥールは忌々しいものでも見るかのように俺達を見た。


そうか、もしかしたら中身を知らないのかも。

俺達、ギルドからの使者が何を持ってきたのか気になってるんじゃないだろうか。


この人が奴隷制度の廃止を阻止してるとしたら、奴隷に関する書状と勘違いしてたりすんのかな。


「ところで、ヤンドゥール。彼等は白薔薇と名乗ったが、何者だ?」

すると王は突然、宰相に話を振った。

ヤンドゥールはため息をついて、語る。

「俗世のことなど、貴方には…いや、まあいいでしょう。彼等は、彼の飛龍タイラントを屠った冒険者と聞いています」

その瞬間、王の口がにやり、としたのを、俺は見てしまった。

ヤンドゥールはじろじろと俺達を見ていたから、気付いてないだろう。

「何だと?あのタイラントを?…彼の龍には我が国も襲われた。…ヤンドゥール。俺は彼等の話を聞きたい。確か夜は少し余裕があったな。夕食に招待せよ」

「何と……王、今夜は私は会議で…」

「仕方ないが俺は忙しい。時間が今日しか無い。俺と、近衛で出るからお前は会議に出席せよ」

「………かしこまりました」


王はその後、グランから書状を受け取ると、その場で開いた。

ヤンドゥールは後ろからじっとそれを見ていたが、それが終わると急に声音が変わる。

「是非とも、夕食を。…内容についてお伺いしたいこともあります故、よろしければ明日の昼頃にお訪ねしたい」


なるほど。

あからさまな掌返しってこんなにわかりやすいんだなぁ。


俺達が情報を持ってるってことに、興味を持ったんだろう。


「わかった、詳細はギルドに連絡しといてくれ」

グランがふんと鼻を鳴らす。

ヤンドゥールは案内人を呼び寄せると、俺達を夕飯まで持てなすよう指示を出した。


俺は、ちらりと王を見る。

王も、俺を見ていた。


満足げな雰囲気が滲んでいた…と思う。


******


夕食の場は、小さな部屋。

美しい装飾の風景画が飾られて、少し暗めにとられた灯りが心地良い。

「待たせたな」

王がやってくると、近衛らしき兵士がひとりだけ扉の脇に控え、俺達はテーブルを囲むことになった。

すぐに料理とお酒が運ばれてくる。

よく見ると、配膳してくれる人の首にチョーカー。

…奴隷だ。


彼等が下がってから盃を交わし、王は一言目に言った。


「気付かぬふりをしてくれて助かった。逆鱗のハルト。外に出ているのはヤンドゥールに気付かれてはならないんでな」

「ああ。ちょっと驚いたけどな」

「ええっ、なに、何なのハルト??知り合いなの?友達なの!?」

ボーザックが変な声をあげ、皆も唖然。

俺はへへーっと笑って、昨日のことを話した。

フェンがわふっ、と鳴く。

「御陰で俺は、この国の宝石に価値を見出せた。これは外交への強い売りになるだろうな」

王はそう言って、ふふっと笑うと話し始めた。


何故、自分が城下町に出ていたのかを。



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