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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
669/845

共闘と勝者と⑨

 ――だけど。


「治れサッ……耐えるんサ! 必ず治すサ!」


 意識は途切れなかった。


 温かな光が暗くなる視界に灯り、じわじわと神経が繋がっていくような奇妙な感覚が胴体から指先へと伸びていく。


「……がはッ……う……」


 咽せるだけで信じられないくらいの激痛が頭をぐらぐらさせる。


 体中が異常を訴えて軋み、(よじ)れているみたいだ。


 いくらヒールがあったって一瞬で治せるわけじゃない……それはわかっていた。酷い痛みに何度も意識が遠のいては引き戻される。


 そのとき、俺の体が浮いた。


「……ッうぅ⁉」


「少し気張れハルト。移動するぞ!」


 ……グラン……?


「よくやったわハルト。これで麻痺毒が撃ち込める――だから休みなさい」


 ファルーア……。


「本当にさぁ、ハルトは心配ばっかりかけるよね! あとは任せて」


 ボーザック……。


 俺は「は……」と息を吐いて体の力を抜いた。


 ディティアは俺の手を握ったままで、酷く泣きそうな顔をしている。


 ――大丈夫だから、そんな顔しないでくれよ。


 なんとか髪を撫でようとしたけど……うまく動けないな、と思った……そのとき。


「〈豪傑〉! 来るぞッ!」


〈爆風のガイルディア〉の……珍しく焦ったような声が遠く聞こえた。


 朦朧とする意識の向こう、岩のような巨躯が迫るのが見える。


 ――ああ、俺たちを踏み潰そうとしているんだ。


 どこか他人事みたいに感じたとき、俺はグランの腕からあまり丁寧とは言えない勢いで地面に寝かされた。


「……ぐ、う」


「くそ、すまねぇ……ディティア、ハルトを頼む!」


「……グランさん……! で、でも……!」


 切羽詰まった様子のグランが問答無用で背を向ける。


 俺はもごもごと唇を動かして……その名を呼んだつもりだ。


 でも感じたのは血の味で、開いた口からは空気がこほれただけ。


 岩龍ロッシュロークの脚を受け止めようとしている……それが理解できて、でもどこか遠い出来事みたいで。


 それでも俺はディティアの握る左手をなんとか翳そうとした。


 ――バフを。バフを、かけないと……俺は、バッファーだから。


「しっかりするんサ! 意識を手放すんじゃないサ⁉ 治れサ……ッ、治れサ!」


 サの巨人族ヒーラーの声が頭の中にガンガン響く。


 グランは俺を庇うように大盾を構え、その隣に〈爆風〉とボーザックが並ぶ。


 その少し後ろでファルーアの金の髪が靡き、握る杖――龍眼の結晶が煌めいた。


 そこでディティアがそっと俺の額に貼りついた髪を梳き、一度瞼を下ろして深く息を吸って……呟いた。


「……私……私も皆と一緒に戦うよ。それをハルト君も望む……そうでしょう? ――必ず耐えてみせます、だから……頑張って〈逆鱗のハルト〉」


 瞼を持ち上げたその向こう、意を決した彼女の瞳は力強く輝いていて……ああ。



 その瞬間、俺は四肢に血が巡るのを感じた。



「…………は」


 毎回毎回、本当に不甲斐ない。こんなことばっかりだな……俺。


 立ち上がり背を向けた彼女に、震える腕を伸ばして手を広げる。


 恥ずかしいような、悔しいような、自分に腹立たしいような。


 感情の波が目まぐるしく押し寄せて……俺は完全に自己を取り戻した。


 ヒールが効いてきたのもあるはずだ。


 でも〈疾風のディティア〉が引き戻してくれたんだって……そう思う。


 血の味をなぞるように唇を湿らせ……俺は掠れた声を絞り出した。


「……大丈夫、補助は、任せろ……」


 はっとして肩越しに俺を振り返る彼女に、俺は懸命に笑みを浮かべた――うん。浮かべられた、と思う。


「……ッ、お願いします……!」


 そう言って笑みを浮かべ、泣きそうなのを必死で堪えた彼女の表情。


 ……俺は小さく頷いて、腕の先……手のひらに集中した。


「――――『肉体強化』、『肉体強化』、『肉体強化』、『肉体強化』、『肉体強化』……ッ!」


 体が壊れそうな痛みに知らず眉を寄せ、噴き出す脂汗に耐える。


 バフを切らすわけにはいかないんだ!


「……そこで待ってろハルト、あとは俺が止める」


「そこは『俺たちが』だよねグラン」


「ははは。手伝ってやろう」


「馬鹿言ってないで集中なさい? ……ティア、いくわよ」


「はいっ!」


 頼もしい仲間が、頼もしい言葉をもって岩龍ロッシュロークと対峙する。


 ――そして。



「度胸は美徳ンナ! けど無謀ッてもンナ? ここは共闘、それ一択ンナッ!」



 ずしん、と地面が揺らぎそうな勢いで足を踏み出したトラさんがガハイガハイと笑うと、巨人族たちが次々と集まり、何種類あるのかわからない語尾を使って互いを鼓舞した。


 まるでそれを合図にするかのように岩龍ロッシュロークが脚を折って身を低くする。


 魔法を使うつもりだ。


 円を描くように飛び回る岩が一瞬動きを止めた――そう思ったとき、その岩が真っ直ぐに放たれた。


 俺は必死で息を吸ってバフを練り上げ、巨人族たちに投げる。


「『肉体強化』、『肉体強化』……ッ、ぐ、『肉体強化』……ッ」


 まだ激痛は走るけど――ここでやめるなんて絶対にありえない!


「うおおぉぉッらあああぁ――ッ!」


 俺の思いに応えてくれたみたいに、グランが気合を吐きながら大盾を振り抜く。


 ――そして。


 ガゴオオォォッ!


 鈍い音とともに岩が白い大盾にぶつかり、その後ろをボーザックや〈爆風〉、巨人族の数人が支えて踏ん張る。


 それでも全員の足が地面を滑るほどの威力だった。


 だけど、俺たちはそれだけで終わらない。


 トラさんを含めた巨人族が次々と岩に両手を当て、押し返し始めたんだ!


「……さあ、待たせたわね。いくわよ! ボーザック、乗りなさい(・・・・・)!」


「あっはは、それいい案かも! ……グラン! 肩借りるよ!」


 そこでファルーアの声が響き、ボーザックが大剣を構え直す。


 ぶる、と岩が震えるのに怖じ気づくことなく、ボーザックはグランの肩を踏み台にして一気に岩の上に駆け上がった。


「ぐっ、おい……ほかにやり方があるだろうよ!」


「私も行きますッ! グランさん、ごめんなさいっ!」


「うおッ⁉」


 間髪入れずにディティアもグランを踏み付けて跳ぶ。



「……振り落とされないように気を付けて! ――飛びなさいッ!」



 ファルーアが杖を突き出すと――岩龍ロッシュロークが纏っていたはずの岩、それが矢のように放たれた。



ちょっと遅れました、よろしくお願いします。

いつもありがとうございます!

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