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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
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共闘と勝者と⑦

 脚を折った岩龍の体勢が低くなる。


 それでも巨人族さえはるかに凌ぐ山のような大きさからは威圧感しか感じない。


「……〈逆鱗〉、俺の速度アップを五重にしろ」


 身構えて緊張が奔った俺たちのなか、ひとり〈爆風〉がギラギラと眼を光らせた。


「え……速度アップ?」


「革鎧程度では肉体硬化でも難しいだろう。当たれば負けだ」


「…………わかった」


 俺がバフを練り始めると同時、ゴウッと空気を切り裂く音と風圧。


 岩龍ロッシュロークの纏う岩が舞い上がり、円を描きながらぐるぐると回り始め――。


「『速度アップ』、『速度アップ』、『速度アップ』、『速度アップ』……最後ッ! 『速度アップ』ッ!」


 俺のバフが〈爆風のガイルディア〉を包み込んだ。


 シャアンッ!


 ディティアと似たその音はより力強く、伝説の〈爆〉の冒険者は唇に笑みすら浮かべて踏み切る。


「やれるな! 〈光炎〉!」


「ええ!」


 岩龍ロッシュロークの操る岩が正面方向の俺たちに向かって放たれるのを、信じられない速度で回り込んだ〈爆風〉の姿が隠れる。


 その瞬間にはファルーアの杖が煌々と光を放った。


「――凍りなさいッ!」


 ゴ、バァッ!


 瞬時に現れる氷壁。


 俺たちの前に出たグランが体勢を低くして大盾を構えるが、氷壁にぶち当たった岩はその壁を打ち砕くと縦に弧を描いて戻っていく。


「そう何度も受けられそうにないわ……すごい威力よ」


「とどめを刺すのに魔法がいるから温存すべきね。グラン、私たちを守れるわね? 気張りなさい」


 唇を噛むファルーアの隣にアルミラさんが歩み寄ってにやりと笑う。


 そのとき、視線を岩龍ロッシュロークから逸らしていなかった俺は吹き荒れる風を見た。


「――ッは!」


 どうやって……というのは愚問かもしれない。


 舞い踊る岩壁の向こう側に苦もなく到達し、岩龍の表皮に取りつく彼は荒々しく両腕を振るう。


 時折岩の向こうに隠れて……次の瞬間には移動している。


「はっ、すげぇな……伝説の冒険者は」


 グランはごくりと喉を鳴らし、ボーザックが苦笑しながらもやる気に満ちた顔をした。


「ハルト、あれ、俺もやりたい。今度はバフを保てないとか言わないよね?」


「……当たり前だろ。最高のバッファー舐めんなよ?」


 俺はガツンと拳を打ち合わせてボーザックに笑い、速度アップを五重に。


 ――当然、俺と〈疾風のディティア〉にも、だ。


 守りに徹するはずのグランには肉体強化二重と肉体硬化三重で五重。


 ファルーアとアルミラさんには持久力アップ二重と威力アップ三重で五重。


 動けなくなるかもしれないけど構わない。ここを切り抜けるんだ、必ず!


「ありがとう――ここで仕留めましょう〈逆鱗のハルト〉」


「ふ。頼りにしてるからな〈疾風のディティア〉?」


 凜とした空気を纏う〈疾風〉は微笑んで左の拳をちょんと突き出す。


 俺はそれに左の拳で応えて頷く。


 互いの手首でエメラルドが瞬き、それだけでやる気が伝わった気がした。


「……巨人族が弓を引いているわ。麻痺毒つきよ。彼ら腕はいいけど飛び込まないようになさい」


 アルミラさんの助言に頷いて、俺たちはそれぞれ踏み出す。


「最悪、毒が効かなくても口を開けさせりゃいい。頼むぞ」


「任せろグラン!」


 駆け出す俺たちより先、トラさんの号令で矢が放たれる。


 大半は岩に弾かれて地面へと落ち、残りは硬い皮膚に弾かれる。


 ……それでもアルミラさんの氷の槍が執拗に岩龍の眼を狙うことで、最初に遭遇したときに比べれば攻撃は緩い。


 いける……ッ!


 俺は大きな黒い岩が行き過ぎるのと同時に体勢を低くして一気に前へと駆け抜けた。


 目の前には巨大な岩龍の頭。


 その上にまで登った〈爆風〉がちらと過る。


「ハルト君! 私を跳ね上げて!」


 そのとき並走していたディティアが足を止めて叫ぶ。


 俺は咄嗟にバフを練って少し先で地面を踏み締め、膝を曲げて手を組んだ。


「『腕力アップ』、『腕力アップ』、『腕力アップ』ッ! ……いいぞ、いけ!」


 ディティアが助走をつけて俺の手に足を掛ける。


 俺は彼女を思いっ切り跳ね上げた。


 ディティアに気付いた岩龍が鼻面を向けたところに〈爆風〉の一撃が襲い掛かって――彼女は無事に巨大な頭に到達。


 すぐにその頭を駆け上がっていく。


「たああぁぁ――ッ!」


 その足下、岩の守りを突破したボーザックの大剣が白い線を描き、皮膚の表面を浅く削った。


「ハルト!」


「任せろ――ッ!」


 身を翻して詰め寄っていた俺はそのままボーザックの付けた傷をなぞるように双剣を振り抜く。


 ……けれど。


「避けろ!」


 轟く〈爆風〉からの叱咤に俺とボーザックは散開。


 俺たちがいたまさにその場所へと、巨大な岩がひとつ叩き込まれる。


 ズゴアァッ!


 地面を抉る岩にひやりと肝が冷えるけど……ここで止まったら負けだ。


 俺とボーザックは浮き上がる岩を横目に再び攻撃を仕掛けた。


 硬いなら何度でもやってやる。口を開ければこっちのものだ――さあこいッ!



 そこにトラさんの号令が轟き、ギリリと弦のしなる音がした。


「次の矢がいくンナッ! 気を付けるンナッ! ……てぇッ!」



本日分です。

よろしくお願いしますー!

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