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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
666/845

共闘と勝者と⑥

******


 先陣を切るのは荒々しいまでの風――〈爆風のガイルディア〉だ。


 唸る切っ先が岩山のような岩龍の巨躯に突き込まれると……巨人族たちが大きな獲物を手に次々と飛び掛かった。


「たぁぁ――ッ!」


 ボーザックが切っ先を前にした白い大剣を体の右側に構えて突っ込み、〈爆風〉が後ろへと跳んだのと入れ代わる。


 その剣は深々と突き立つ――訳もなく、彼は飛び離れるとブンと剣を一振りして苦笑した。


「あっはは……やっぱり硬いや」


「『肉体強化』、『肉体強化』ッ! 岩龍が動くまではこれでいこう」


 俺は直ぐさまバフを広げ、速度アップを書き換えてさらに肉体強化を足した四重を作り出し、巨人族たちにもバフを投げ、全体の力の底上げをする。


 ガキイィンッ!


 そこで重く鈍い音が響き、岩龍ロッシュロークの纏う岩が剥がれて舞った。


 巨人族の巨大なツルハシが採掘の如く唸ったのだ。


「はあぁ――ッ!」


 気合一閃、体勢を低く保ったディティアが岩が剥がれた箇所へと剣を振るう。


「……ッ、思ったよりずっと硬い……!」


 ぎゅっと眉を寄せた彼女が軽い足取りで戻ると同時に、ファルーアが龍眼の結晶を煌めかせた。


「――燃えなさい」


 ギュルギュルッと音を立てて炎が凝縮される。


 薄明るい空気のなかで眩しいくらいの光を弾けさせた魔法は、ディティアの狙った箇所を寸分違わず焼き焦がす。


 ――すると。



 ぶるり、と。



 岩山が――震えた。


 ぱらぱらと小石が崩れ、グゴゴ……と重低音が地を揺るがす。


「動くぞ! 離れろ!」


 グランが怒鳴り巨人族が散開。


 俺はありったけの速度でバフを広げた。


「『肉体硬化』、『肉体硬化』ッ……!」


 巨人族の体躯を考えると、速度を上げるよりはこっちだろう。


 俺は全員のバフが四重になったのを確認してから双剣を構える。


 ――ここからだ。一度は撤退したけど……今度こそ!


 岩山がギシギシと軋み、まるで膨らむようにして太い脚がズズ、と引き出されていく。


 爬虫類に似た(あぎと)。伸ばされた太い首はまるで崖。


 形は亀に似て、盛り上がった背中には甲羅の代わりに白や黒の岩を纏う龍。


 爛々と光る金の眼が見え、巨人族たちが息を呑んだ……その瞬間。



「貫きなさいッ!」



 シュルシュルッと紙が擦れるような音と同時に声を轟かせ、意気揚々と杖を突き出したのは――アルミラさんだった。


 寄り集まって練り上げられたのは氷の槍。


 それが間髪入れずに放たれて――。


 ガギイィインッ!


 およそ氷とは思えない重厚な音とともに岩龍ロッシュロークの()にぶち当たった。


「あぁっ……くそ、龍眼は貴重なんだぞ……!」


 思わずこぼしたのはグランだったけと、ファルーアがその隣で弾けた槍を見詰めながら心底残念そうな顔をしている。


「それ、いま気にするか……?」


 俺が言うと彼らは我に返って互いにちらと視線を交わした。


「ハルトに言われるのは心外だな」

「ハルトに言われるのは心外ね」


「は? ちょっと酷くないか、それ……」


「はっ、悪ぃな。この先がだいぶ楽しみなんだよ」

「装備の新調がこうも待ち遠しいのは初めてだもの」


「ああ、そう……」


 なんかもう。締まらないなぁ。


 肩を落としたところで……アルミラさんが鼻を鳴らしたのが聞こえる。


「はっ! 貫きたかったけれど眼まで硬いのね。柔らかいと思ったのに」


「飛龍タイラントの眼は槍で貫けたから、龍眼の結晶になる前はもう少し柔らかかったと思うけど」


 ふと応えると紅い髪をぱっと払いながらアルミラさんは強気な笑みを浮かべた。


「それはいい情報ね。眼に突っ込めばあとは麻痺毒入れ放題よ。穴が開くまでやってやるわ」


 うーん、さすがグランの姉。


 そのとき岩龍の向こう側からトラさんの怒声が轟いた。


「ぼさっとするんじゃあないッよ! 尻に一発入れてやンナッ!」


「――うん。そこは盲点だったな」


〈爆風〉がくるくると双剣を回して言うと、ディティアがぎゅうっと眉を寄せる。


「それは、ちょっと……」


 そこで『グゴオオォッ』と岩龍が嘶く。


 太い右前脚が持ち上がり、巨人族たちが一斉に離れた。


「踏まれるんじゃねぇぞ! ついでに蹴りがくるから気を付けろ!」


 グランは大盾を構えてそう言うと地面を蹴る。


 狙うのは――脚を下ろす瞬間か。


「おおおぉっらあぁ――ッ!」


 ガゴォッ!


 巨木のような脚に叩き込まれた白い大盾。


 岩龍は一瞬だけ怯んだように脚を止めたが、すぐに踏み付けるような勢いで地面へと脚を叩きつけた。


 ズン、と震動が足下を伝わったかと思ったときには、岩龍の左前脚が持ち上がっている。


 グランは体の前に盾を構えて声を張った。


「ファルーア!」


「任せていいわ――突き上げなさいッ!」

 

 蹴りを読んでいたのだろうか。ファルーアの生み出した氷の柱は岩龍の脚を下からすくい上げて狙いを逸らす。


 重心を崩した岩龍は一瞬だけ左右に体を揺らめかせたけど……すぐに体勢を整えた。


 ――そして。


 首筋がチリリとする感覚に、俺は思い切り息を吸う。


「くるぞ……魔法だッ!」



こんばんは!

遅くにすみません。よろしくお願いします!

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