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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
665/845

共闘と勝者と⑤

******


「話は終わったンナ?」


 武装した巨人族たちが殺気を放つなか、赤い髪を団子状に纏めた屈強な女性――対岸の部族の族長であるトラさんがニヤリと笑みを浮かべた。


 一斉に注がれる視線は緊張と高揚感を含み、俺は知らず姿勢を正す。


 大規模討伐が始まる――その空気感だ。


「彼らは最初の迎撃で協力してくれたカ。岩龍ロッシュロークを止めてくれたのも彼らカ」


 声を上げたのは蒼い髪の巨人族、ガル。


「俺も助けてもらった」


 そこにソナの父親である運び手の巨人族も合流した。


 周りの人々は頷いたり睨んだり視線を逸らしたり、と、思い思いの反応を見せたけど……そこをトラさんの大音量が包み込む。


「おまえッたち! 手伝ってもらっているンナ、最大の敬意を払うンナ! さあ、これで全員だンナ」


「――族長、聞こえていたかもしれねぇが……アブラッムンナの麻痺毒を用意した。使えそうか?」


 そこにグランが声を掛けると、トラさんは大きな団子状の赤髪を揺らして頷いた。


「いい判断ンナ。直接体に撃ち込む必要はあるンナ、それでも効果があればこっちのものだンナ」


「やっぱり試してみねぇとわからねぇってことか――岩の下の皮膚を狙えりゃいいが」


「それだンナ……岩龍ロッシュロークは魔法を使うって話だンナ?」


「ああ。――ハルト、いけるか」


「おう。…………いくぞ、『知識付与』ッ!」


 俺は手を上げてバフを練り、一気に広げた。


 だけど――その瞬間に違和感を覚える。


 ――あれ、いまなんか……バフが歪んだ、か?


「……岩山みたいな奴ンナ」


 ひと呼吸の後、巨人族たちがざわめくけれど……俺は〔白薔薇〕の皆を振り返った。


「ちゃんと見えた……?」


「……えっと。見えたけど少し……ぼやけていたかな?」


 俺の情けない声にディティアが首を傾げる。


 ボーザックもうんうんと首を縦に振り、続けた。


「細かいところまでは見えなかった。大きさとかは伝わるだろうけど」


「やっぱりか……少し歪んだような気がしたんだ。さすがに広範囲に広げるっていうのは無理なのかも」


 俺が唸ると〈爆風〉が首を傾げ言う。


「〈逆鱗〉。お前、自分の魔力を活性化して試したことはあるか?」


「え? 活性化……? いや、ないけど……」


「もしかしたら例の『古代の血』の魔力を選んで活性化させるという方法、あれが使えるかもしれん」


「……キィスを治すための方法のこと?」


「そうだ。いま使ったバフ自体が秘匿魔法だったなら、古代の血――つまり古代の魔力との相性がいいはずだろう? それを活性化させたうえで使えば威力が増すかもしれん」


「あ、そうか……いや、でも〈爆風〉、それだと俺に古代の血が濃く受け継がれていないと……」


「いいえ、そうとも限らないわハルト。薄くなっても受け継いでいるのは間違いないはずだもの。活性化することで変わる可能性もあるわ――ただ」


 ファルーアはちらとあたりを窺って声を落とした。


「いまある血の多くは『病』を克服した者たちの血のはず。もしそれが古代の血に近づく結果となるなら……それは材料(・・)になり得るかもしれないわ」


「……!」


 なんの、というのは愚問だ。


 俺たちは互いの視線を交わして唇を結ぶ。


「効果は短いとはいえ、万が一もあるってこと……だな」


 俺が応えるとファルーアは「ええ」と金の髪を揺らす。


「なんにせよ試していくしかないわ」


「そうだな。……それがわかるまで詳細を伝えるときは少人数で使うことにするよ。危険は犯したくない」


 俺が言うとボーザックが小さく笑った。


「ハルトが危険を犯したくないって言う気持ちはわかるけど……俺たち結構危険な橋を渡ってる気がするなー、毎回」


「うん。でも私たち〔白薔薇〕は全部なんとかしてきたよね」


 ディティアがゆっくり瞬きながら頷く。


「そうね。今回もさっさと片付けましょう、久しぶりの龍狩りよ?」


 ファルーアもそんなふうに口にして……心なしか明け始めた空を見上げた。


 すると耳を傾けていたグランが言った。


「よし、やるぞお前ら。――族長、魔法で纏った岩が飛び回る。狙うならその下、少しでも柔らかそうな場所だ。最終的には体内に魔法を撃ち込んで仕留める、いいな?」


******


 薄明るい朝特有の青さに、静寂な空気が満ちている。


 ――岩龍ロッシュローク。


 彼の龍が体を丸めた姿は岩山そのものだった。


 仮にこれが川沿いに横たわっていたとして、俺たちが気付けたかというと怪しい。


 五感アップなら気配を感じることができただろうけど……見た目にはわからない擬態能力の高さに俺は正直舌を巻いた。


 この先、こうやって擬態能力の高い魔物がいるかもしれない――やっぱりバフをもっと勉強しておかなきゃならないな……。


「魔力の消耗がかなり補われている可能性があるわ。魔法を撃たれたら散開すべきね」


『魔力感知』バフを二重にしたファルーアは岩龍が纏う岩に目を凝らしてそう告げる。


 巨人族の狩人たちが静かに頷くのを横目に、グランが大盾を構えた。


「短期決戦だ。長くは戦えねぇ。魔法を発動したら防御に徹してくれ」


「わかったンナ。…………お前ッたち、麻痺毒の準備はいいンナ?」


 応えたトラさんに狩人たちが再び頷く。


「さあ! 大規模討伐の開始よ!」


 けれど……どういうわけか号令をかけたのはアルミラさんだった。


 呼応した巨人族たちが一斉に踏み出す傍ら、グランが渋い顔をする。


「いいところ持っていくんじゃねぇよ……」


「はは、さすが〈豪傑〉の姉だな!」


 ひとり、〈爆風〉だけはやたら楽しそうだけど……。


 彼はすぐにシャアンッと高らかに双剣を引き抜き、腰を落として一気に踏み切る。


「って、おい〈爆風〉! 『肉体強化』、『肉体強化』、『速度アップ』!」


 慌てて広げたバフが〈爆風〉を含めた俺たち〔白薔薇〕を包み、ファルーアの『魔力感知』バフが上書きされた。


「締まらないけど俺たちらしいかもね!」


 ボーザックが白い大剣を胸の前で構えると、ディティアが〈爆風〉と似た音を響かせて双剣を抜く。


「そうだね。…………それじゃあ、行きましょう!」


こんばんは!

なんだか開きがちで大変申し訳ございません!

いつもありがとうございます。

そろそろ投稿頻度を戻したいです。


別件ですがなろうコンの一次、通っておりました。

よかったら『神聖王国ヴァルコローゼ』もよろしくお願いしますー!

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