表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
663/845

共闘と勝者と③

******


「ソナ……!」


 篝火が燃える広場で、俺たちに気付いて向こうから走ってきたのはスイだった。


 まだ夜明けはもう少し先のはずだけど、薪を背負っているのを見るにスイも働いていたようだ。


 広場には多くの巨人族たちが身を寄せ合っていて、眠っているひとたちもいる。


 対岸の巨人族たちだけじゃなく、スイのようにここから離れた場所に避難したはずの巨人族も戻っているのかもしれないな……。


 ふと考えているとスイはすぐに後ろを指す。


「狩人たちが討伐の準備をしているイ。合流するだろイ? 食べ物は必要イ?」


「うん。そうだな、腹が減っては力も出ないだろう」


〈爆風〉が頷くとスイは「わかったイ」と応えてソナを見た。


「……ソナ、悪かったイ。喧嘩なんてしている場合じゃなかったイ……こんなことになるなんて思ってなかったイ」


「スイ……それは俺も同じことナ。ごめんナ。……父さん、俺もスイを手伝ってくるナ。母さんを捜しておいてほしいナ」


「……あ。それなら心配ないイ! おばさんは母さんと一緒にいるイ」


「本当ナ⁉」


「本当イ。……ソナとおじさんのこと、すごく心配していたイ。だけどオマエったち小せぇのが助けに行ったって聞いたから…………一緒に待っていたイ」


「……そうか。スイ、ありがとう」


 そこでソナの父親がスイの肩に優しく触れる。


 スイは口をへの字にして瞳を何度か瞬き、大きく息を吸うと背を向けて目元を擦った。


「……本当によかったイ。喧嘩なんてしなければよかったって思ったんだイ。……こっちだイ、ついてくるイ!」


 大きいのに巨人族のなかではまだ小さな背中。ソナの父親が眉尻を少し下げてそれを見詰め、柔らかな声で告げる。


「――すまなかった。それは我ら大人のせいだ。責任はしっかり取らなければならない。俺は狩人たちと話をしてから向かうから、ソナ。先に母さんを安心させてやってくれ」


「……わかったナ」


 俺は駆けだしたソナとスイを見送り、そのやり取りに胸が温かくなって思わず唇を引き結ぶ。


 そうだよな、喧嘩なんてしなければって……そう思える関係なんだよな、スイもソナも。


  すると、ボーザックが首を傾げた。


「ねえ、おじさんは語尾になにも付けないのー?」


「いや、ボーザック……それいま聞くか……?」


 思わず突っ込んじゃったけど、まあ、気にはなるよな。


 すると彼は茶色い目を瞬いて笑った。


「ああ、自由国家カサンドラの首都で店を構えていた時期があるんだ。そこで身に付けた」


「へえー、やっぱり細工とか売ってたのか?」


 俺が聞くと、彼は瞳を細めて応えてくれる。


「そうだ。妻が作った装飾品をね。けれど運び手として家業を継ぐことになって帰ってきたんだ」


「装飾品……それなら龍の素材も加工できるかしら?」


 食い付いたのはファルーアだ。


 珍しいなとは思ったけど、なるほど。岩龍ロッシュロークの素材で作ってもらうつもりだな?


 ソナの父親が「それは勿論」と不思議そうに頷くと、彼女はすっかり乾いた金の髪を払って妖艶な笑みをこぼす。


「いいわね。……ふふ、楽しみだわ」


「ファルーア、なんだか悪そうな笑み……痛っ、ごめんっ、ごめんってば!」


 思わずといった感じでこぼしたボーザックの頭に龍眼の結晶の杖でぼこりと一撃が叩き込まれる。


「うん。若者はやはりこうでなくてはな」


「あんた、俺らをなんだと思ってんだ……?」


 さらりと言った〈爆風〉にグランが呆れ、ディティアがくすくすと頬を緩める。


 やっと俺たちらしくなってきた……そういうことだ。



 ……そうして俺たちは狩人たちと合流し……すっかり忘れていた彼女に再会した。



「戻ったわね? ……仲間は無事だったようね」


 頭の後ろに結われた長い紅髪に紅鎧。


 短い杖をベルトの腰あたりに挿し、腕を組んだ堂々たる佇まい。


「アルミラさん、ただいまー」


 ボーザックが言って右手をひらりと振る。


 彼女は頷くと傍らにある使い込まれた荷車をトントンと叩いた。


「それじゃあ商談といきましょうか。この麻痺毒、買わない?」


 その台詞に渋い顔をしたのは当然……グラン。


「おい……たしかに考えてはいたが……この状況で売るつもりか? ……うぐっ」


「当然よ。私は慈善活動をしているわけじゃないわ。安くしてあげることはできるけれど交渉次第よ?」


 アルミラさんはグランの鼻に右の人さし指を突きつけて笑ってみせる。


 はあ、さすが商魂たくましいというか、なんというか。


 思わず苦笑すると……白い足がするりと視界に入った。


「あら、強そうな鎧だからトレジャーハンターかと思ったわ。わかりにくいけれど、あなた商人なのね」


 ファルーアだ。 


「ええそうよ? あら、ずいぶん酷い格好ね。泥だらけじゃない。肌にいい薬もあるわよお嬢さん?」


 いや、でもなんかちょっと恐いな……。


 目をあわせたふたりのあいだ、心なしか火花が散っているような気が。


 ……ふと見るとグランが苦虫を噛みつぶしたような顔で顎髭を擦っていて……俺はその腹を肘で突いた。


(おいグラン……もしかして……) 


(そのもしかしてだ。……ファルーアに姉貴の話をするのをすっかり忘れちまってた)


(えーっ! ちょ、ちょっと止めたほうがよくないー? 俺は無理だけど!)


(ふむ。〈豪傑〉には姉がいたのか。これはまた、なかなか肝の据わった女性だな)


 ぎょっとした顔で口を挟んだボーザックとは対照的に〈爆風〉は楽しそうだ。


(わ、笑ってないで止めましょうガイルディアさん! ほら、ハルト君も!)


 最後にはディティアがおろおろと言うけど……うん。


(ははは。行ってこい〈疾風〉。俺は止められる気がしない)


(同感……)


(そんなぁ……)


 すると顎髭を擦る手を止めてグランが深々とため息をこぼした。


(くそ、仕方ねぇな……)


こんばんは!

よろしくお願いします。

ワクチン1回目でしたが……舐めてました。

でも回復しつつあるので投稿!


誤字のご指摘大変感謝です。

いつもありがとうございます✨

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ