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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
662/845

共闘と勝者と②

******


 やることは決まった。


 俺たちは巨人族との合流を急ぎつつ、アブラッムンナの麻痺毒をどう使うかについて話し合った。


 サの巨人族ヒーラーが言うには、麻痺毒は矢や剣に塗って使うそうだ。


 直接獲物に撃ち込むって感じか。たしかにアブラッムンナも噛み付いていたもんな。


 毒は狩人たちが作るらしいけど、未精製でも十分効果があるという。


 うまく麻痺させることができれば、あとは体内にバフで強化した魔法を叩き込む――というわけ。


「もし麻痺毒が効かなくてもやることは変わらねぇ。外皮が硬いなら内側を焼くだけだ」


 グランの言葉に頷いたところで……俺たちはようやく巨人族の町へと戻ってきた。


 こっちは最初に俺たちが訪れた岸で、上層の開けた場所に篝火が焚いてあるはずだ。


 空はまだ暗いけど岩龍はそんなに離れていない。狼煙が上がっていれば確認できるだろうけど――どうやらまだ動きはないみたいだな。


 ただ、このあたりの気配はどこか張り詰めていて……ひっそりと息を殺しているようだった。


「……真っ暗ナ」


 ぽつりとこぼしたのはソナだ。


 夜通し歩くことになって疲れているだろうに、彼は弱音のひとつもこぼさなかった。


 ソナは足を止めると対岸にも目を凝らし、少しだけ水の流れが緩やかになった黒い川を見詰める。


「……橋も家も……なくなってるのナ」


 その肩を抱いた彼の父親は頷いて言った。


「大丈夫だ。復興は成る。巨人族は以前も岩龍を退けているのだから」


「うん、そういえば聞いていなかったな。過去に目覚めた岩龍はどうなった?」


〈爆風〉が聞くと、ソナの父親は苦笑する。


「七日七晩、魔法を撃たせ続けた。魔力切れを起こした岩龍が眠りにつくまで」


「えぇっ⁉ ずっと戦い続けたってこと?」


 目を剥いて聞き返すボーザックだけど……いや、そうだよな。


 あんなの相手に七日七晩って……。


 思わず眉を寄せた俺に、サの巨人族ヒーラーは鼻の頭を掻きながら眉尻を下げた。


「昔はもっと力があったんサ、巨人族にも――あんたたち小さな人にもサ」


「――力」


 そうか、俺たちだけじゃなく巨人族にも古代の血みたいなのがあるのかもしれない。


 彼らも弱体化して……いまに至るのだとしたら。


「なあ、ずっと昔に巨人族にも病気か流行ったとか……そんな話はある?」


 俺が聞くと、ソナの父親は間を置かずに頷いた。


「ああ、ある。多くの巨人族が倒れた酷い病があったそうだ。我らが山奥に移り住んだのもそれが理由だよ。嫌な言い方になるんだが、小さな人から移った――そういう噂があって交流自体が縮小したという。……昔の話だから気にしないでほしいんだが」


「あら、それならあなたも気にする必要はないわ。 私たちにとっても知るべきものだもの」


 ファルーアの言葉に彼は安心したように口元を緩めると、今度はきゅっと頬を引き締める。


「……ありがとう。しかし残念ながらもう以前の方法を試すのは無理ということだ。討伐、これが我らに残された最後の手段だろう」


「最後の手段……か。滾るじゃねぇか」


 グランは呟くと、いつのまにか整えたらしい顎髭を擦りながらにやりと笑みを浮かべる。


「災厄だって倒してきたんだ、全員でやって負けることはねぇ。相手にとって不足なし、お前らやるぞ!」


 ……その言葉はいつもどおり豪胆で豪快。


 やっぱりグランはこうでないとな。


「はい! 勝ったら装備の新調ですね!」


 ディティアもやる気に満ちた表情で応え、ボーザックが唇の端をぐいと持ち上げて頷く。


「ふむ。龍の肉は美味いと聞くからな、そちらも堪能するとしよう」


 そう言ったのは〈爆風〉で、それを聞いたソナが目を丸くした。


「食えるんナ?」


 俺はそんな彼の肩を叩いて片目を瞑ってみせた。


 ――うん。肩、すごく高い位置にあるんだけどな。


「聞いて驚けよソナ。これがもう……最ッ高なんだ、あふれる肉汁にとろける旨み……一生に一度食えるかどうか!」


「そりゃ興味しかないサ! 俄然やる気になるってもんサ!」


 サの巨人族ヒーラーまでそう言って口元を腕で拭うので、俺は思わず笑ってしまった。


 はは、その仕草ですら迫力あるな!


 巨人族と大規模討伐する日がくるなんて考えたこともなかったけど、これなら絶対やれるって気持ちになる。


 ――復興は大変だ。


 時間もお金も掛かる。なくしたものは戻らない、そのつらさを抱えたまま……心がすり減ることもある。


 だけど……俺たちが見てきた場所はちゃんと……再び立ち上がった。


 新しい皇帝ラムアルが納めるヴァイス帝国帝都も、自由国家カサンドラの首都も。


 だからこの町もきっと大丈夫、そう思う。


 俺たちはソナを促して再び歩き出し、ほかの巨人族たちがいるはずの場所に急ぐのだった。


だいぶあきました、すみません。

ぼちぼち落ち着いてきそうなので更新再開します、来てくださっていた皆様に感謝を!

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