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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
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王族たるもの。⑤

謁見申し込みが承認されるまで、俺達は礼服を準備したり、簡単な依頼をこなして過ごした。

いつでも謁見に行けるようにしておきたかったしね。


そんな中で、王都の奴隷制度も少しずつわかってきた。


まず、目を被うほど虐げられている奴隷は王都ではそれ程多くないこと。

基本的には、見かけることはないみたいだけど。


普通はお給料なんてものはなく、食事と衣服、眠る場所が用意されていること。

基本的に自由はあって、働く時間以外は外出だって出来るらしい。

もちろん、その間に逃げ出す奴隷もいるそうだ。


ノクティアのバルティックで見た、馬車の後ろに繋がれた奴隷なんてのは、ハイルデン王都にはいなかった。

バルティックのギルド長、ガーデンが言っていた通りで、そういう奴隷を持つ輩は何故か地方に多いらしい。


そんで、奴隷の殆どは、両親が奴隷ってこと。

あとは、暮らせなくなって奴隷になったり、武力闘争に負けたり。

極め付けは、奴隷狩りにやられたり。


一応、ハイルデンの名誉のために言うと、奴隷狩りってのは禁止されてるみたいなんだ。

ただ、裏で横行しているのは明らかで、王族は、それを見て見ぬ振りをしてるって声も、国民から上がってるんだってさ。


後は、奴隷は奴隷だとわかるよう、首輪…チョーカーが必要だそうだ。

基本は首につけている。

手首や足首でもいいらしいから、わざと目立たないところに着けさせている貴族もいるんだって。


そういえば…カイは首に着けてたなあ。


そんなハイルデン王都は、中央に高い壁に囲まれた宮殿がそびえていた。

白い壁面に金色をした屋根部分があり、屋根の上部に翼を持った獅子の像があるみたいだ。

よくは見えないけど。


宮殿には王様や宰相達が住み、兵士達が巡回していて、その宮殿から8方向に真っ直ぐ道が延びていた。

その8本が、ハイルデン王都のメインストリートである。


俺は、フェンを連れてその内の1本を歩いていた。


「悪いなフェン、付き合わせて」

「わふっ」

探しているのはフェンのための雨用ポンチョ。

マントタイプだったら、帽子部分を直してもらうとかして使えるかもしれないなあ。


最近、会った頃に比べるとフェンは大きくなってきていた。

今はディティアの膝に乗るには大きすぎる。

…まあ、元々はみ出てたけど。


銀色の毛並みはますます艶とボリュームを増して、どんどん神々しくなる。

しかし、触ろうとすると尻尾で叩かれるので、性格は全く可愛くない。


露店を順番に覗いていると、綺麗なエメラルドを見付けた。

「へぇ、ディティアの眼みたいだな」

サイズは色々あって、加工されてネックレスやブレスレットになっていたりする。


あげたら喜ぶかなあ。


買えそうな価格のも結構ある。


確か前に、ファルーアが魔力の入りこんだ宝石が実は価値が高いって言ってたなぁ。

値段が安くても、もっと価値のあるものがあるのよ、とか言ってさ。


……見てみようかな?

俺は魔力感知を重ねがけして、宝石を見てみることにした。


そこに。


「なあ、店主」

ひょこりと、ローブの男がやってきた。

店主は奥に座っていたんだけど、訝しげな顔をして出てくる。

「この宝石…不純物も無くてだいぶ綺麗だ。どこら辺で採れたものだ?」


あれ?このローブの男…。


俺は横目で確認した。

青色の眼が見える。


あ、やっぱりあの時ぶつかった…。


裾から覗く白く艶のある肌は女性みたいなのに、纏うローブがあまりに傷んでいる。

何ていうか……すごく違和感があった。


店主は、男が目利きだと判断したのか、急に愛想良く対応し出した。

「これは西のラナンクロスト産ですぜ」

「ほお…ハイルデン産はあるか?」

「おや、ハイルデン産は結構不純物があるけどいいのかい?」

「比べたい、見せてもらえないか」

「はいよ」


出されたのは同じエメラルド。

確かに、ハイルデン産って方は中が曇っている。

「こんなに違うか…」

心なしかがっかりして見えるローブの男。

でも、俺には見えている。

「へえー、綺麗だな。…これ、ハイルデン産の方がいっぱい魔力入ってるよ」

何とはなしに口を挟んでしまった。

驚いて振り返るローブの男と眼が合う。

彼は青い眼を見開いたけど、すぐにさっと顔を背けられてしまった。


そんな邪険にしなくても…。


…と思ったら、話し掛けてきた。

「こ、これに魔力があるとわかるのか?」


シャイなだけなのかもしれないな。


「ああ。見てみるか?」

「見る?どうやって……」

「魔力感知、魔力感知」

「お、おお……」

せっかくだから範囲にして宝石商にも二重にかけてやると、2人は食い入るように宝石を見つめだした。


エメラルドグリーンに渦巻く、キラキラした流れ。

ラナンクロストの遺跡で見た魔力よりも、なんていうか、金の粒を散りばめたみたいな美しさ。


「こりゃあ…売れる」

宝石商が他の宝石もいくつか出してきたんだけど、どれもハイルデン産はキラキラしていた。

「すごい……我が国の宝石にこんな魔力があったとは」

フードの男はぱっと札を取り出すと、1番光っていた宝石を手に取った。

「提示額より高く置いていくから、ひとつわけてくれ」

宝石商はそれを快諾。

そして、嬉しそうな男はお金を置いて走って行ってしまった。


残された俺と宝石商は、顔を見合わせる。


「あー、何て言うか、兄ちゃん。ありがとうな」

「は、はぁ」

「ハイルデン産も売り方次第でかなりいい商売になりそうだ。…それで、あんたはどんな宝石探してたんだ?」

「えっ?ええっと……」


結局、ブレスレットをひとつ、破格(とはいえ、そこそこ高いんだよなぁ)で買うことになってしまった。


肝心のフェンは、ふすー、と、呆れたように鼻を鳴らしたのだった。


******


マントタイプの雨避けを買って、帽子部分に耳を付けてもらった。

小さな露店で、手作りの服を売っていたんで聞いてみたら、快く引き受けてくれたんだ。

俺と同じか、年下くらいの女の子は、フェンのサイズを図りながらうっとりしていた。


すべすべふわふわだからなあ、フェン。


出来上がった水色の雨避けは、前脚を通してお腹の部分で止められるように工夫も凝らしてくれてある。

フェンは気に入ったのか、雨も降ってないのに着たまま、上機嫌でとことこ歩いていく。


こう見てると、ほんとに犬みたいだ。


俺は、手に提げた小さな包みを気にしながら、宿に戻ったのだった。


******


「謁見は明日ですって」

部屋にいたファルーアが教えてくれた。

「明日?そっか、急だな」

「そうね。まあ、早いほうがいいわよ」

「ま、それもそっか」

話していると、グランとボーザックが戻ってくる。

手にはヤマシシの煮込みを持っていた。


確かに、それホントにうまかったもんな。

っていうか持ち帰りとか出来るんだ…?


「今日のつまみだ」

グランがにやりと笑う。

「良い匂いだー、謁見も決まったし、たべとかなくちゃってなってさー」

ボーザックも嬉しそうに言う。

「そんじゃあ何か飲むもの買ってこようか?」

「それには及ばないよハルト君」

「お?」

戻ってきたディティアが、両手いっぱいに瓶を抱えていた。

名産らしい果実酒だった。


その手首を眺めながら、俺は密かに、ブレスレットをどうやって渡そうかと考えてしまった。



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