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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
659/845

名誉と負傷と⑤

******


「……! よかったナ、会えたのナ?」


 茂みを掻き分けて現れた俺たちに、気丈にも木の棒切れを手にしていたソナがぱっと笑顔を浮かべた。


 開けた岩場には焚火が煌々と燃えていて、少し離れた位置で川が轟々と渦巻く音がする。


 よく見ればソナとその父親らしき巨人族の服はいまだ濡れているようだ。


 川を下ってきたときに水を被ったんだろうな……。


 どうやら薪にしているのは大破した舟らしい。濁流に押し流されて岩場に乗り上げたんだろう。


 ――そして、その傍。


 ファルーアは岩に背中を預けるようにして眠っていた。


 濡れた髪の下、頬は白く、それが少し人形のようで。


 わかってはいるんだけど、規則正しく胸が上下しているのを確認して安心する。


「運び手! ソナ! 無事サ?」


「おお、来てくれたのか」


 そこで運び手と呼ばれた巨人族が、ヒーラーの巨人族の呼びかけに腰を浮かせた。


「いいサ、じっとしているサ! ……そっちも薬を飲ませるサ」


 サの巨人族ヒーラーがそう言ってソナと父親の状態を診始めたので、俺たちもファルーアを囲むことにする。


 グランはファルーアの隣に膝を突くと小瓶の蓋を開け、彼女の首の後ろに手を差し入れた。


 青く透き通る薬がファルーアの唇から流し込まれ、細い首で喉が上下する――。


 ――僅かな沈黙のあと、俺たちは誰からともなく「はぁー」とため息をこぼし各々岩場に腰を下ろした。


 これでファルーアは大丈夫っていう安堵と歩き通しの疲れが一気に四肢を重くしたからだ。


 ディティアに至っては眠ってもいない。少しでも休ませてあげないと。


「……今回はさすがに肝が冷えた。町はどうなっている?」


〈爆風〉が言うと、治療を終えたらしい巨人族三人もこっちを向いた。


 俺がゆるりと首を振ると、サの巨人族ヒーラーが瞳を伏せる。


 彼女だけじゃなくソナや父親にも酷な話だけど……濁して伝える場合でもないよな……。


 俺はひとつ吐息を挟み、唇を湿らせた。


「ごめん、気を遣った言い回しはできない。――はっきり言って酷い有様だ。こっち側の町は大きく抉られていて……町を結んでいた橋も決壊した。――堰堤(えんてい)が機能していないみたいなんだ。それはたぶん岩龍ロッシュロークが起きたから」


「岩龍ロッシュロークが起きた⁉」


 ソナの父親が座ったまま大きく身を乗り出す。


 俺が視線を合わせて頷くと、彼はソナによく似た茶色の目をぎゅ、と瞑った。


「なんてことだ。やはりこうなってしまったか……それで、その。対岸は……」


「対岸もかなりやられてる。俺たちはあっちで岩龍ロッシュロークと一戦交えてきたんだ。あれは少数でどうにかできる魔物じゃない。だから対岸の巨人族とこっちの族長……トラさんは合意した。――これから協力して討伐することになる」


 言い切ると、彼は力なく頷いて巨大な体を震わせた。


「――討伐か。わかった。では急いで戻らなければなるまい。堰堤(えんてい)修復のための材料を運ぶ必要もあるはずだ」


「……ふむ。御仁は岩龍ロッシュロークが起きていると知っていたのか?」


 そこで聞いたのは〈爆風〉だ。


 ソナの父親は一瞬だけ躊躇ったけれど……諦めたように口にした。


「起きるかもしれないとは考えていた。代々運び手の我らは、過去に岩龍が目覚めたときの知識を持っているからな」


「そうなんナ⁉」


 ぎょっと目を剥くソナをちらと一瞥してから、彼は大きな顔を大きな手で擦る。


「部族間の仲を取り持つことができなかった。大人の隠し事は子にバレる。ソナとスイにも喧嘩をさせてしまったようだ」


「目撃情報は早くから出ていたようだが、それはどうだ?」


「あ、〈爆風のガイルディア〉。それ、トレジャーハンター協会に調査させるための嘘だったみたい」


 ボーザックが応えると〈爆風〉は「そういうことか」と呟いた。


「そういうことって?」


 ……聞き返しながら見ればグランは渋い顔をしているけど、ここでアルミラさんの話をするのはちょっとややこしいから黙っておく。


「龍が通ったにしては谷が荒れていなかった。それが気になっていてな」


「そういえばガイルディアさん、舟に乗ってからずっと岩の形のことを尋ねていたような……それが理由ですか?」


「ああ。地龍討伐のときも罠を張るために痕跡から奴の進行方向を調べ上げたからな。龍は谷の地形に気を配るほど繊細じゃない」


 ディティアの疑問に応えた彼は己の腕を吊っていたローブを解き、血に染まった包帯を外しにかかる。


 腕の動きは問題なさそうだな。


 俺が凝視していると〈爆風〉は口角を吊り上げて笑ってみせた。


「そう心配そうな顔をするな〈逆鱗〉。この程度の傷はヒールなしで治すことも多かったぞ」


「いや、そりゃなんの安心材料でもねぇだろうよ……」


 呆れた様子でこぼすグラン。


 なにがおかしいのかますます破顔した〈爆風〉に、彼はひと呼吸挟んでから言った。


「〈爆風〉、ディティアと同じであんたもほとんど休んでねぇと思うがどうだ? 俺としてはここで少し休憩を挟んでから出発したい。ソナたちも連れていく必要があるからな。できうる限り万全な態勢がいい」


「ふむ。それは有難いが、岩龍のほうはどんな様子だ?」


「あいつ、魔法使うんだ。いまはどうも休んでいるみたいで動きがあれば狼煙(のろし)が上がる。……ここからは見えないかもしれないけど」


 俺が応えると〈爆風〉は首を縦に振って腕を組む。


「――方向がわかっていればなんとかなるかもしれん。天気も悪くないからな。ただし夜は期待できそうにない。……どちらにせよ判断に従うぞ〈豪傑〉。決めろ」


 さらりと言われ――グランは難しい顔で顎髭を擦った。


火曜分です!

オリンピックサッカー代表戦見ていたら書き上がりがこんな時間に!

おやすみなさいませ!

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― 新着の感想 ―
[一言] サッカー、三位決定戦ですね〜(⌒-⌒; ) おっとっと。関係ないことを。 ソナのお父さん(?)はナでもイでもワでもないんですね? これからが楽しみ〜
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