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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
658/845

名誉と負傷と④

******


 ディティアたちはソナの家……つまり運び手の一家にお邪魔したそうだ。


 岩龍の話を聞こうとしたところソナの父親が声を落として舟に案内してくれたという。


 ……部族間で揉めている内容、その核心だもんな。あんまり大きな声で話せなかったんだろう……。


 ソナの母親は職人で家にはいなかったらしい。捜す時間は取れなかったけれど、上層にいたはずだと聞いている……とディティアは言った。


 そんな話を聞くうちに夕方に差し掛かり、ディティアが小さくため息をこぼして空を仰ぎ見る。


 その表情に疲れが出ている気がした俺は、彼女が休まず歩き通しだったのではと思い当たった。


「……ディティア、もしかして眠ってないのか?」


「え? ……ああ、うん。そろそろ丸一日かなぁ……でも早く行かないとだもんね。ファルーアもガイルディアさんも頑張ってくれたんだもん。ここで私が頑張らないと」


「…………」


 笑ってみせる彼女はしっかりと頷くけど、疲れていないわけじゃないだろう。


 俺は少し考えて……口にした。


「倒れたら元も子もないし、どこかで休んだほうがいいな。このまま岩龍ロッシュローク討伐もあり得るから……休むときは俺が背負うよ」


「……え?」


 すると……彼女は目を丸くして固まった。


「そうだねぇ、今度こそハルトが背負うべきかな」


 後ろにいたボーザックが笑う。


「えぇっ! ちょ、ちょっと、ボーザック……」


「……? だからなんだよ? ……! もしかしてディティア、俺が背負うの嫌なのか……?」


「ち、違……!」


「ぶはっ。ははっ、いや、ごめんハルト……そうじゃなくてさ! そういえば俺も背負ってもらったんたよね、ありがとう」


 ボーザックがますます笑みを深くするけど……本当になんだよ、もう。


「……あ、あの岩、あの向こう側です!」


 そこでディティアがぱっと顔を上げ、木々の向こうに見える岩を指さした。


「――ようやくだな」


 グランが言うので、俺は我に返って深く頷く。


「うん――どれだけ心配したか教えてやらないとな。ここからじゃ狼煙(のろし)も見えないし……早く戻ろう」


 遠くでギロギロ音はしているけど、このあたりは大丈夫そうだ。


 ……ただ、渓谷沿いはどこか緊張に満ちた気配でいっぱいになっていて、俺は唇を引き結ぶ。


 きっと岩龍から逃げてきた生き物たちが息を潜めているんだろう。


 ――まさかトールシャでも龍を相手にするとは思わなかったな。


******


「……目を閉じろ」


 その声が聞こえた瞬間、反射的に瞼を下ろしてから俺は慌てて応えた。


「――って、いまそれどころじゃないだろ!」


 ぱっと瞼を持ち上げれば風がふわりと舞い、俺たちの目前に革鎧の男性が着地する。


 その革鎧の一部は金属で、防御力を上げているものだ。


 どうやら岩の上で見張りをしていたらしいけど――その左腕を見た俺は息を呑む。


「お、おい……それ……!」


「うん、少し派手にやられてしまってな。名誉の負傷だ。とりあえずお前たちは無事なようだな?」


 白髪混じりの黒髪を右手で掻き上げた〈爆風のガイルディア〉はさらっと言うけど……応急処置の施された左腕、その包帯は真っ赤な血に染まっていた。


 しかも持ち上がらないのか、折れているのか、自分のローブを使って首に吊っている。


「なにが名誉の負傷だよ……!」


 俺はそう言ったものの、おろおろと両手を泳がせるしかできない。


 ソナを庇ったとは聞いていたけど、本来〈爆風〉なら避けられたんだろう。


 つまり〈爆風〉は――それでもソナを優先して守ったんだ。


 そう思ったら胸が熱くなって……俺は唇を噛む。


「ははは。まあ命に別状はない程度だ」


「その状態で無理するんじゃねぇよ……まったく。すまねぇがヒールを頼む」


 続けて笑う〈爆風〉にはグランが呆れた声で応えたけど、やっぱり伝説の〈爆〉は――正直言って格好よかった。


「任せるサ! それ、治れサッ!」


 そこでサの巨人族ヒーラーが槍型の杖を突き上げ、ぽわりと柔らかな緑色をした光が浮かび上がる。


〈爆風〉はその光が腕を包むのを見詰めながら、ふ、と息を吐いた。


「――とはいえ双剣を使うのに片腕が動かないというのは気分が悪くてな。助かる」


「お安い御用サ。……ヒーラーにとっては傷が酷くなるほど集中も魔力も体力も必要サ。あんたのその傷、見た目よりはるかに悪いサ。……運び手たちを守ってくれたこと、感謝するのはこっちサ」


〈爆風〉は頷くと左手を握ったり開いたりしながら顎で後ろを示す。


「この岩の向こうだ。〈光炎〉には無理をさせてしまってな――まだ起きていない」


「……早く薬を飲ませてあげないとです、グランさん」


 ディティアが応えていそいそと薬を差し出すと――差し出されたグランが眉を寄せた。


「……ああ」


 なんとなくグランの気持ちはわかる。


 アイシャで災厄の黒龍アドラノードを相手にして……ファルーアが昏睡状態に陥ったのを思い出したんだ、きっと。


 あのときも薬を飲ませたのはグランだった。


 俺とボーザックはちらと視線を交わし、グランの肩をそれぞれ叩く。


「早く起きてもらわないとな」

「消し炭は嫌だけど……そろそろファルーアに怒られるのも一興だよね」


 グランはそれに苦笑すると、ディティアから魔力回復の妙薬を受け取った。


爆風合流!

今週もよろしくお願いします。

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