表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
65/845

王族たるもの。④

屋敷の入口に来たとき、漸く人の気配がした。


「ご用件は何でしょうか」

メイド姿の女の子が、中から出てきてくれる。


俺達は馬車の手形を見せて、サーシャに言われて訪ねてきたと伝えた。


「サーシャ様の。かしこまりました、今暫くお待ちくださいませ。……奥様!お客様ですー!」


ぱたぱたと屋敷に入っていくメイドを見送り、待つこと数分。

慌てた様子でやってきたのは、ドレスのご婦人だった。

「あらあら、まあまあ!貴方達、白薔薇の皆様ね?」

少しふくよかな身体で、くるくると巻かれた紅い髪。

ぱっちりした猫目は、サーシャと似ていた。

「ああ。突然で申し訳ないんだが、少し相談があってきた」

グランが頷くと、ご婦人はおっとりと微笑んで、両手を胸元でパチンと合わせる。


サーシャが手紙でも送っておいてくれたんだろう。

助かった。


「そんな、かまいませんわ!うちのサーシャがご迷惑をおかけしたと伺いましたの」

「いや、そんな大したことはしてねぇんだ、だから気にしないでほしい」

「まあまあ、折角なのでお茶でも。エリーゼ、エリーゼ!」

「はい、奥様」

エリーゼというのか、さっきのメイドが奥から出てくる。

「お茶の用意をお願いするわ。では、皆様はこちらへ」

一瞬、フェンを気にしたけど、彼女はフェンのこともすんなり招き入れた。

優しい人みたいだ。

「良かったなフェン」

声を掛けたら、尻尾で叩かれた。


可愛くない奴!



そんなわけで。

お茶を飲みながら、俺は代わる代わるやってくるメイド達を眺めていた。

老若男女、たくさんの人達がこの屋敷にいるみたいだ。


…でも、それってつまり、彼等は奴隷ってことなのかな?


「そうですの、これが菓子白薔薇ですのね」

他愛ない話は全てファルーアとディティアが受けてくれる。

サーシャとカイの話も、ご婦人はにこにこと嬉しそうに聞いていた。

「そう!カイとは仲良くやっているのね。嬉しいわ」

思いを馳せる表情は、やっぱり母のそれだと思う。


やがて、話は本題へと移った。


「実は、私達は王様への謁見をしたいの。けれど、ギルド長が1カ月戻らないみたいで」

ファルーアが言うと、ご婦人……サーシャの母、ルーシャさんは口元に手を当てた。

「あらあら、大変ですわね。つまり、私に謁見を申し込んでほしいのね?」

おっとりして見えるけど、中々に頭が良いんだろう。

俺達が頷くと、ルーシャさんは少し考えて言った。

「ギルドからの使者ですもの、うまく伝えれば1週間で会えると思いますわ。……サーシャの恩人ですもの、お任せくださいな」

「本当か!助かる」

「ただし」

「おお?」

「ひとつ、お願いがあります」

したたかなご婦人は、意味深な笑みをたたえていた。


……結論から言えば。

ルーシャさんは冒険者のドルムと同じく、奴隷制度の廃止を訴えてきた。

それを、王に打診しろ、と。


「別に、やらないと仰ってもかまいませんわ。謁見申し込みは必ずいたします」

にこやかに告げられたけど、俺達としてはそんな言い方をされたら良心が痛む。

たぶん、完全に見透かされてる。


「……ひとつ確認してぇんだが」

「何でしょうか?」

「俺達は、ただの冒険者だ。何でそれを頼もうと思うのか、よくわからない。自分で話せないのか?」

グランは、あえて答えず、質問を返す。

ルーシャさんは頷いた。

「この国で、奴隷制度に当てはまらない冒険者は本当に貴重な存在ですの。ギルドを見ましたわね?冒険者の少ないこと…。他国はもっと活気があります」

「それは、確かに少なかったね」

ボーザックはクッキーを口に放り込んだ。

「牽制……でもあるかと思うのです。奴隷制度をやめたら?と言ってくださる冒険者達がいることを上の者に悟らせることは。私達の国のことに、貴方達が関係ないことは重々承知しております。けれど、冒険者のその言葉は、ギルドの言葉の一部分ですから。完全に排除するには恐いはずなのです」

「……つまり。それに俺達を利用しようってことだな?」

「はい」

まっすぐ返ってきた返事に、グランは肩を落とした。

「ふー。随分な覚悟だな。……どっちにしろ、ドルムって冒険者にも頼まれてる。ギルドの様子も知ってるってことは、知り合いじゃねぇか?」

ルーシャさんは、そこで驚いた顔をした。

「まあまあ!ドルムが既に話していましたのね?…これは失礼を。あの子ったら何も言わないんだから……」

「ん?」

グランが、訝しげな顔をする。


ルーシャさんは、おっとりと微笑んだ。


「あらあら、失礼致しました。私、ドルムとサーシャの母、ですのよ」


ぶは。


「ええっ、あいつ、あれで貴族なのか!?…っ」


ファルーアがテーブルの下で蹴飛ばしてくる。

痛い。


「いや、ちょっと、貴族にしては、ほら。鍛えてるっていうか」

取り繕うと、ルーシャさんはころころ笑った。

「いいんですよ、あの子は冒険者に誇りを持っているんですから。…サーシャも、兄があんななので冒険者になったんです」

「そうなんですか?」

ディティアが身を乗り出すと、ルーシャさんは楽しそうに話してくれた。


サーシャが奴隷を欲しいと言ったとき、哀しかったそうだ。

けど、よくわかってない子供故の考えなのかもしれない、現状を学ばせる機会なのかもしれない、と思い立ったらしい。

そこで、虐げられているのを知っていたカイを、かなりの金額で買い取ることにしたそうだ。


案の定、それを見たサーシャはカイを大切にすることを決めてくれた。


「本当は、人を買うなんてあり得ないと思ってますのよ。…ここのメイド達にも、毎月給料を出してます。いつでもこの国から出て行けるように。…皆、どうしてか残ってくれていますけど」

少し困った顔をするルーシャさんを見て、控えていたエリーゼが、ちょっと首を竦めた。

ディティアがそれを見て微笑む。

「皆さん、ルーシャさんが大好きなんですね!」

「お給料があるなら、それは本当に仕事ってことだもんな」

俺が頷くと、ルーシャさんは首を振った。

「それでもこの現状は変えられてないのですから、情けないのですけどね。…サーシャの考えを聞けたので、皆さんには本当に感謝しておりますの」


奴隷を持つ立場にいながらこういう考えの人も、ハイルデンには存在している。

そう知っただけで、俺にとっては実りある事実。


俺達は、確約はできなくても努力することを伝えて、宿に戻ったのだった。



本日分の投稿です。

毎日更新しています。


平日は21時から24時を目安に更新しています。


すごい!

とうとう100ポイントを超えることができました!


読んでくれる皆様、初めましての皆様にも、

この場をおかりしてお礼させてください。


ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ