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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
646/845

失踪と帰還と①

******


 ――まず、岩龍の話だ。


 そう切り出したグランに、情けなく転がったまま俺は小さく頷いてみせる。


 アルミラさんが俺とボーザックの近くに腰を下ろし、一緒に来ていたガルもそれに倣った。


 岩龍――名はロッシュローク。


 古くから巨人族が『糧』としてきたのがこの龍だったそうだ。


 その体に纏う岩だけでなく、時折採れる金色にも銀色にも見える鉱石が巨人族の工芸を助け、発展させてきたからだ。


 採掘場として利用されてきたのは町より上流――巨大な湖に注ぐ瀧の裏側だという。


 今回決壊したと思われる堰堤(えんてい)はこの湖の縁にあり、湖の規模を考えると濁流はまだまだ収まらないだろうと巨人族は話した。


 おそらく岩龍ロッシュロークが活動を始めたのが原因――というのが巨人族の見解だ。


「『糧』にしてきたってさ……岩龍だって知っていて鉱石を採掘してたってことだよね? そのあいだ岩龍はおとなしかったってこと?」


 意識がはっきりしてきたのかボーザックの言葉は淀みなく、俺は密かに安堵する。


「そうだカ。少なくとも俺が生まれてからは一度も起きたことがなかったカ。でも半年くらい前から予兆があったカ……それで対岸の部族と揉めたのカ」


 応えたのはガルで、それに対してグランが胡座を掻いたまま腕を組み深々とため息をこぼした。


「……揉めたってぇのは今後の『採掘』について……そういうことだな?」


「そうなるカ。俺たちの部族は採掘を止めなかったカ。対岸の部族は危険を感じて止めようとしていたカ。……向こうは主に林業や狩猟、採取を生業にする部族で鉱石がなくても生きられる者が多かったカ――」


「ああ、それで意見が食い違ったのか――」


 俺が言うと……ガルは静かに頷く。


 採掘を止めたとしても岩龍ロッシュロークが起きるか起きないかなんて誰にもわからない――ガルたちは生きるために鉱石が必要と判断したそうだ。


 俺からすれば龍だと知っていて採掘していることが既に危険だと思うけどな……。


「ねぇ、半年前って……まさか」


 そこでボーザックが呟き、俺はその意味を理解して目を瞠った。


「……災厄の毒霧ヴォルディーノが起きた時期か……」


「カサンドラの首都を襲った魔物のことね?」


 アルミラさんに聞かれた俺は軋む体に鞭打って可能な限り大きく頷く。


 彼女は紅い髪を揺らし逡巡してから続けた。


「それと岩龍に関係があるということ?」


「断言はできないけど……災厄が動き出したことで岩龍がなにか感じたのかもしれない。生息地から逃げてくる魔物もいままでに何種類か見たから。ダダンッムルシもそうかも」


「……ダダンッムルシ……」


 応えた俺に返したのはボーザックだ。


 気が抜けるというか、なんというか。気に入ったんだろうな……。


 本来なら肩に一発見舞ってやるところだけど……動けないのはもどかしい。


「なるほどね、それほどの魔物だったってことかしら。いい商売ができそう――」


「おい、商売って……それどころじゃねぇだろうよ」


 さらりと言ったアルミラさんに、グランが落ち着かない様子で顎髭を擦ってこぼす。


「それどころ、よ。文句ある? どっちの部族に付くか決めろなんて言われて商売あがったりなのよこっちは」


 俺はそれを眺めながら「ああ」と呟いた。


 ラキさんがそんな話をしていたからだ。


「もしかして『どちらにも属さない。そっちだってドーン王国とカサンドラのどちらにも属していない』って断った行商人ってアルミラさん……ですか?」


「あ? そうね、そんなことも言ったわね。どちらかに属したらもう一方の商品が仕入れられなくなるなんて馬鹿げているでしょう?」


 うーん、恐い。


 ファルーアとはまた違う棘を感じるぞ。


 ――ファルーアもディティアも〈爆風〉も無事……だといいけど。いや、無事だよな。


 ともすればここにいない三人を思い出して息が詰まる。


 俺は目を閉じてゆっくりと深呼吸し、不安な気持ちを払いのけた。


「とはいえガル、ありゃもう危険だろうよ。討伐するしかねぇと思うがどうだ?」


 グランが言うとガルは二度頷いてでかい手を地面に突くと、深々と頭を下げる。


「そのとおりだカ。俺たちの部族も討伐に動くしかないと纏まったカ。そこで頼みがあるカ……お前たち力あるトレジャーハンターだカ? どうか手を貸してほしいカ」


「はっ。力ある……と言われればそうありてぇところだからな、そりゃ勿論だ。ただ……俺たちの仲間はあっちの部族と一緒にいるんでな。無事を――確認したい。あいつらがいればもっと戦える」


 グランの言葉に俺は唇を引き結んだ。


 ――そうだな、そうでないと戦えない。


「恩に着るカ。こちらでもできる範囲での救助は始まっているカ――だからこうするカ。偵察隊が戻って時間が確保できそうなら、こちらの部族の書状を預けるカ。それを持って向こうの奴らに会ってきてほしいカ」


「書状って……仲直りの?」


 ボーザックが聞くとガルはゆるりと頭を上げて頷く。


「話したとおりあっちは狩猟を生業にしている者が多いカ。協力が必要不可欠カ」


「ま、最初からなにかあれば討伐ってな依頼だったしな」


 胸元で拳を突き合わせるグランだけど……俺はそこでふと気付いた。


「ガル。岩龍は目覚めてからウロウロしていたのか?」


「……? いや、そんなことはないはずカ? 最後に採掘したのも三日前カ。俺も初めて動いているのを見たカ」


「あれ……なあ、グラン。岩龍の姿が目撃されたから……俺たちが派遣されたんだよな?」


「あ? ……そのはずだが……んん? じゃあ目撃情報は間違いか?」


「でもちゃんと岩龍はいたね」


 ボーザックがそう言って難しい顔で黙ってしまう。


「……なんか嫌な感じがするが……まあ考えても仕方ねぇだろうよ。やることをやるだけだ」


 グランはそう言うと、ちらとアルミラさんを見た。


「……それで姉貴。当然、諸々聞かせてもらえるんだよな?」


おはようございます、よろしくお願いします!

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