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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
643/845

襲撃と迎撃と⑤

「……とりあえず、こっちを向かせるのは上手くいったな」


「……で、このあとどうしようか?」


 暗闇にそびえる岩の塊。


 俺とボーザックが言葉を交わすと、岩龍が右前脚を持ち上げた。


「……!」


 俺たちは地面を蹴って互いの距離を開け、ズシン、と下ろされた脚を避けると同時に攻撃に転じる。


 俺が狙うのはボーザックが岩の鎧を引き剥がした箇所だ。


 皮膚――と思われるところも異常な硬さを感じるけど、岩よりはマシだろう。


「たあぁッ!」


 気合を吐き出すボーザックの一撃に白濁した岩盤の一部が舞う。


「――ふっ!」


 そこを狙い回り込んだ俺が腹に力を入れて突き込んだ刃は……やはりほんの僅かに皮膚に埋まった。


「思ったより速いけどなんとかなりそうだね。このまま倒せたりしないかな」


「いやさすがに無理があるだろ……。せめてもっと柔らかい場所があれば……」


 軽口を叩くボーザックに応え、俺は胸の前に双剣を構え直す。


『グゴオォォ――』


 そこで低くいなないた龍が長い首を振り、俺たちの左側から大きくあぎとを開いて襲いかかった。


 見えた口の中にはゴツゴツした黄ばんだ歯が並んでいて――並大抵の岩なら易々と噛み砕くだろうと予想できる。


 この大きさだ、俺なんてひと呑みだな。


 俺たちは跳ねるように数歩退いてそれを躱し、行き過ぎたその首に剣を振り下ろす。


 だけど――当然ここも硬い。


「――ねぇハルト。俺たちが上流方面に退いたら追ってくると思う?」


 すぐに体勢を整え、大剣を右肩付近に引き寄せたボーザックが言う。


「追わせたいところだけど木があるからな――俺たちを見失って諦められたら困る」 


「――そうかぁ。やっぱりこういうときはファルーア頼みだね」


 ぼやいたボーザックは空振った首を上げる岩龍に向けて左足を踏み込み、再び剣を振り下ろした。


 掠めた切っ先に削り取られた破片が、ボーザックのベルトで揺れるランプの灯りにちらちらと瞬く。



 ――そのとき。



『グゴォオォ』


 岩龍が轟く唸り声を上げ――突如脚を折って体を低くしたんだ。


「なんだ⁉」


 首筋がチリチリする感覚。


 俺は腰を落として身構える。


「なに⁉ なんかやばそう――」


 ひらりと後退してきたボーザックが俺の前で防御の姿勢を取って――。


 ゴウッ……


 なにかが空を裂くような音が耳朶に触れた。


 俺はその瞬間――目を瞠る。


 岩が。


 岩龍の纏う、その鎧すべてが……ぶわっと浮き上がって。


 ――龍の体の周りをぐるぐる飛び始めたのである。


「なん…………がッ」


「ボーザック!」


 そのうちひとつが間髪入れずに発射され、驚愕に言葉を詰まらせたボーザックが目の前で弾き飛ばされて地面を転げた。


 岩は龍を取り巻くように浮かんだままぐるぐると飛び続け、発射されたひとつもすぐさまその輪に戻っていく。 


 ――龍は身を低くしたまま動かず、俺は視線を外さずにボーザックに駆け寄り膝を突いてその体を引き起こした。


「ボーザックッ、大丈夫か!」


「う、ぐ……さすがに、不意打ちなんだけど……」


 ボーザックはそう応えると、放さなかった大剣を地面に突き刺し、支えにして立ち上がる。


 俺は彼の様子に思わず安堵の吐息をこぼし……すぐに意識を切り替えた。


「まさか魔法を使うなんて思わないよな……」


 ……ボーザックは大剣で受けたからまだよかったんだ。直撃を喰らったらひとたまりもない。


 もし連続攻撃も可能だとしたら――そう考えるとぞっとする。


「……あ、はは……確かに……。さすがに、ちょっと分が悪いかな……?」


 言葉こそ軽口めいているものの、ボーザックの表情も固い。


 俺は頷いて慎重に立ち上がった。


「ここまでか。一旦退こう――時間稼ぎくらいにはなっただろうし」


 けれどその瞬間、再び首筋がチリチリする感覚に呑まれ――俺は咄嗟にバフを広げる。


「肉体硬化、肉体硬化、肉体硬化ッ、肉体強化、肉体強化!」


 三つを肉体硬化に書き換え、ふたつは上書きに。


 いまバフが切れたら終わりだ。絶対に切らすわけにはいかない。


「――ッ、ハルト!」


 そこで思ったとおり次の岩が放たれ――ボーザックが俺の前に体を捻じ込んで大剣の腹で受けてくれる。


 けれど岩の勢いは凄まじく、耐えられるものじゃなかったんだ。


 俺はボーザックを受け止めた格好で一緒に吹っ飛ばされ、そのまま折り重なるようにして背中から木に叩きつけられた。


「うぐっ……ゲホッ」


 ――息が詰まり、目の前がチカチカする。


「だ、大丈夫か、ボーザック……」


 俺は額に左手を当て、小さくかぶりを振って前にいるボーザックにそう言ったけど――。


「がは……ッ」


 肺から空気を絞り出されたような声とともにボーザックが次の(・・)岩に弾き飛ばされ――地面を跳ねて転がるのが――見えたんだ。


「あ――うあ……ボーザックッ! おいっ、ボーザック!」


 やばい、やばい、やばい――。


 本能が告げている。


 逃げろ、このままじゃやられる。


 ボーザックを連れて……せめて龍の視界から外れないと――!


 俺は浮かぶ岩に囲まれた龍を前に――歯を食い縛った。


遅くなってしまいました、こんばんはとおやすみなさいませ!

いつもありがとうございます。

よろしくお願いします。

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