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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
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襲撃と迎撃と②

「スイ! ソナの家はどこだ」


 グランが弾かれたように振り返る。


 呆然と濁流を見下ろしていたスイは蒼い髪を跳ねさせて顔を上げた。


「……ソナは……運び手の家系イ……だ、だから……」


「運び手?」


 眉を寄せてボーザックが反芻する。


 青ざめるスイの隣、ラキが西のほうを指さした。


「山脈の上から採掘した鉱石を船で運ぶのが運び手ダイ。……だから家はもう少し下流の下層――ちょうど橋のあたりダイ……!」


「そんな――!」


 俺は道の端から身を乗り出すようにして下層を見る。


 家々のあいだから見えていたはずの封鎖された橋は叩きつける濁流に飛沫を上げて……ほとんど見えなくなっていた。


 向こう側の岸、最下層はすでに浸水していて――渦巻く水に揉みくちゃにされた草木やなにかの破片が浮き上がっては呑み込まれていく。


 流れ来る濁流の向こう――上流からは得体の知れない巨大な気配がゆっくりと近付いていて……俺はぎゅっと拳を握り締めた。


 西の空は濃紺の帳を引いてきている。このままではすぐに暗くなるはずだ。


「ラキ、堰堤(えんてい)とかいうのが決壊した場合、巨人族の対応は?」


 俺が聞くとラキは今度は上流を指した。


「土木作業ができるものは上流に向かうダイ……! 決壊場所に岩を落として少しでも水をせき止めるダイ。一般人はとにかく上層に避難するダイ」


「上流は駄目だよ! なにかいるのに……!」


 目を見開き言ったのはボーザックで、俺はもう一度橋を見てから首を振った。


 ディティア、ファルーア、〈爆風〉……三人はきっと大丈夫。


 あの三人なら避難を手伝うはずだ……だから。しっかりしろ、動け。


 俺は顔を上げて言った。


「ラキ、スイは避難を。俺たちは上流に向かう――だろ、グラン」


「当然だ。ラキ、避難場所は決まってんのか?」


「この上が広場になっているダイ、そこに……」


「わかった。片付いたら合流する。行くぞハルト、ボーザック」


「おう」

「うん」


 迷わず踏み出す俺たちにラキとスイが不安そうな顔をする。


 変わらず鐘は鳴り響いていて、下層から逃げてくる人たちの声が近い。


 俺は口角を吊り上げて思い切り笑ってみせた。


「――任せろ、ラキ、スイ。……そうだスイ、代わりに残りの三人を見かけたら俺たちが上流に向かったって伝えてくれるか。絶対に大丈夫だから」


「……。わかったイ――」


 ――そう。絶対に大丈夫なんだ。


 俺はふーっと息を吐いて腹に力を入れ、手を上げた。


「速度アップ、速度アップ!」


 広げたバフで四重。


 俺たちは巨人族の町を上流に向けて駆け出す。


 収まりそうにない濁流を確認しながら逃げてくる巨人族たちのあいだを抜け、少しでも早く。


 戦闘になるなら急がないとならない。暗くなったら不利だ。


「……岩龍(がんりゅう)かな」


 走りながらぽつりとボーザックがこぼす。


「そうだとしたら堰堤(えんてい)を壊したのも……」


 俺が続けると先頭のグランが唸る。


「岩龍の情報が少ねぇが、ラキの話からするに巨人族は岩龍のことを知っているわけだ。可能性はある」


「このまま討伐戦になるかもね」


 ボーザックがそう応えて唇を引き結ぶのを横目に……俺は考えた。


 どんな理由でラキが岩龍のことを「口にしてはいけない」なんて言うのかはわからないけど、上流にいるのが岩龍で向かうのが町なら止める必要がある。


 ……三人は先にいるだろうか?


「――お前ら、ランプ着けておけ。この先は山道みてぇだ」


 そこでグランの声がして……俺ははっとして慌てて腰のランプに火を灯す。


「ハルト、ボーザック」


 グランはそこで速度を落とすと肩越しに俺たちを振り返った。


「いいか。もし合流が遅れても――止まっている暇はねぇ。そのときは先に戦うぞ」


「うん。……三人のほうが先に到着してるかもしれないしね」


 応えたボーザックが小さく笑う。


「俺たちが先なら倒しちゃうってのもありだな」


 俺が続けるとグランもにやりと笑った。


「はっ、いいじゃねぇか。ここには職人が多いみてぇだしな。素材で装備も強化するか!」


 本当は皆、不安だと思う。


 俺も不安だしさ。


 だけど――やるしかない。


「よし、五感アップ、速度アップ、速度アップ、脚力アップ!」


 バフをかけ直し、俺たちは拳をぶつけ合って再び駆け出した。


 ――気配はもう少し先だ。


おはようございます!

少し短めですがきりのいいところで。

今週もよろしくお願いします。


いつもありがとうございます!

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