魔物と巨人と⑧
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「なんか珍しい組合せになったよね」
ボーザックがぼやくけど……まあそうだな。
巨人族の町は谷を挟んで向かい合っているそうで、俺たちは二手に分かれてソナとスイについていくことになった。
細い道は蛇行していて時折谷を見失うものの、一本道なので迷うことはないだろう。
「ディティアにはファルーア見てもらわないとならねぇからな。あれはまだ無理してるぞ」
グランがそう言って顎髭を擦る。
俺は隠れて見えない向こう側に視線を流して応えた。
「あっちは〈爆風〉とディティアがいるし、ファルーアが動けなくてもなんとかなるだろ。俺としては……双剣がベトベトだからあのふたりと一緒に磨くのは恐い……」
「あはは。もしかしてダダンッムルシ刺したから?」
からからと笑うボーザックに神妙に頷くと、先導していた『イ』の巨人族……スイが肩を跳ねさせる。
「そういやあダダンッムルシの王虫はあの小せぇのが持っていったイ? なんてこった、高級食材だったイ……」
「あー。〈爆風〉が持ってるだろうな……とするとディティア……大丈夫かなぁ」
スイからすれば全員『小せぇの』らしい。
考えながら俺が言うとボーザックは苦笑して首を振った。
「ティア、知らずに食べちゃうかもね……」
「いや、むしろ〈爆風〉が言えばおとなしく食うかもしんねぇぞ?」
俺はグランの言葉に笑う。
「はは。それは――あー、うん。うーん。あるかも?」
するとボーザックが声を低くして続けた。
「『〈疾風〉、食べてこその冒険だ。案外強くなれるかもしれん』」
「うわあ、言いそうだな!」
俺は思わず笑ってボーザックの肩をばんと叩く。
グランも笑ったところで……俺はスイを見上げた。
「ところでスイっていくつなんだ? 巨人族の年齢はよくわからなくてさ」
「俺の歳イ? 今年で十八になるイ。ソナは二十歳になるから今年成人する予定イ」
「じゅっ、十八⁉ それでそんなでかくなるのか……すごいな巨人族」
グランより頭ひとつは背が高いスイに驚いてみせると、彼はガハイガハイと笑って続けた。
「俺からすればオマエッが小せぇイ!」
「ハルトで小さいとか言われるとちょっと肩身狭い、俺ー」
ボーザックががっくりと肩を落とし、それからふと言った。
「ねぇ、巨人族の大人たちが揉めているのってなにかを隠しているからなんでしょう? その『隠しごと』に心当たりはないのー?」
「…………それは……うぅムゥイ」
スイは一瞬だけ太い眉を寄せると前を向いて唸る。
どうでもいいけど唸り声まで語尾が『イ』なのか? 巨人族の話し方って大概変だよな……。
するとグランが顎髭を擦って言った。
「それが原因でカサンドラ首都との交易も滞っているって話だ。この谷で生きるのに交易できないのはお前らも困るんじゃねぇのか?」
その言葉にスイが肩越しに振り返り、小さく頷く。
「……たしかに町で作った商品を売って生活用品を買っているイ。俺もソナもまだ子供だからやっていいのは薬草の採取で、詳細まではわからなイ……けど、たぶん……鉱石が採れなくなったイ」
「鉱石?」
俺が聞き返すとスイはでかい体を小さくすぼめ、心なしか声を潜めた。
「俺たち巨人族が商品の材料にしている鉱石イ。すごく貴重で――大人たちが決まり事を作って採掘しているイ」
「あ……グラン、あれじゃない? アルヴィア帝国の漁師長が出したやつ」
ボーザックがぽんと手を打つけど……そういえば『赤鎧』って呼ばれる魚型の魔物の骨を渡したとき、漁師長の巨人族が『支払いに』って不思議な色の石を出したんだったな。
グランが『受け取れねぇ』って言って……もっと高い釣り針をもらったやつだ。
「ああ、銀でもねぇし金でもねぇ色のやつか。あったな、そんなのも」
思い出したのかグランが少しそわそわした様子で顎髭を擦り、さっさと先を続けた。
「……で? その鉱石が採れなくなったってのは? 枯渇したのか?」
「そんなはずはないのイ。決まり事を作って採掘するのは枯渇を防ぐためイ」
「……? そりゃどういう意味だ? 採掘しても枯渇しねぇってのは……」
「俺もよく知らなイ。子供は教えてもらえないんだイ。けど……大人たちはソナたちの部族が隠したって話しているイ」
スイはそこまで言うと深々とため息をこぼす。
俺はしげしげとそれを眺めながら口にした。
「あれ、でもソナも似たようなこと言ってなかったか? それはそっちだとかなんとか……」
「ソナも成人してないからイ。きっと隠されているのイ」
……うーん。これはもう『大人の巨人族』に聞いてみないとわからないだろうなぁ。
ソナもスイも大人に流されて喧嘩していただけに見えるし。
俺はグランとボーザックと目配せをして、とりあえずその話題を終わらせることにした。
どっちにしても今日は『恩返し』とやらを受け、そのまま町に滞在させてもらう予定だ。
〈爆風〉たちはソナの町で、俺たちはスイの町で情報を集め、明日の昼に吊り橋で合流することになっているのである。
岩龍の話も集めないとならないし……幸先がいいんだか悪いんだか。
……そのとき不意に視界が明るくなって……俺は眼を眇めた。
木々が絡み合う細道が唐突に終わりを告げたのだ。
少し先、谷沿いに聳え連なるのは四角い石造りの家々で――そのすべてが白っぽい黄色をしている。
――すごく綺麗な町並みだった。
「こりゃ……すげぇな……」
感心したように呆けた声を出すグランに思わず頷く。
するとボーザックが笑った。
「ところでさー、ベッドも大きいのかなー」
本日分です。
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