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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
636/845

魔物と巨人と⑦

******


 斯くして。


 グランの手によって口の中に団子状の薬を捻じ込まれたファルーアは……息を詰めて見守る俺たちの前で脂汗を滲ませながら飛び起きた。


「げほっ、げほっ……に、苦い……ちょっとなによこれ――!」


「おぉ……すごい効きめだな」


 俺がこぼすとファルーアは涙目で俺を睨む。


「ハルトッ……あんた説明しなさ……ごほっ」


「えぇっ、俺?」


「……げほっ、ごほっ……最悪だわ、ゴホゴホッ」


「〈光炎〉、とりあえず水を飲め」


 ファルーアは〈爆風〉が差し出した革袋を受け取り、ごくごくと煽る。


 まだ顔色はよくないけど……はは。なんかもう大丈夫そうだな。


 一歩引いた位置ではディティアもほっと安堵の吐息を吐き出した。


 ……まぁ……心配だったし。安心したよな。


「……もう、本当になんなの……口の中がおかしくなるわ」


 そんな俺たちの考えなどつゆ知らず、額に貼りついた髪を指先で剥がしたファルーアは汗を拭ってため息をこぼす。


 俺は肩を竦めて言った。


「えぇと、それ薬なんだってさ。材料はダダンッムルシ」


「そう。ダダンッムルシ」


 ボーザックが真顔で頷きながら反芻するとファルーアは冷たい目で俺たちを見る。


「……」


 説明しなさいという声なき声が聞こえるけど――いや、俺、この先を伝えるのはちょっと……無理。


 思わずちらとボーザックを見ると、彼はさっと目を逸らして〈爆風〉を見た。


 そして〈爆風〉はグランへ笑いかける。


 グランは思い切り顔を顰めたあとで……言葉を選び選び口にした。


「……あー。その、なんだ。そこの巨人族たちがお前を刺した魔物を知っていてな」


「ダダンッムルシ」


 神妙に頷くボーザックにファルーアが射るような瞳を向ける。


 お前……よくそんなこと言えるなボーザック……。


 すると『ナ』の巨人族がズイッと顔を寄せた。


「よく見たらオメェ綺麗なもんだナ。刺されたにしちゃあ元気だし、もう平気だナ」


「……あら、それはどうも。……薬はあなたたちがくれたのかしら?」


「いや、この場で作ったイ。そこの小せぇのがダダンッムルシを持っていたからなイ」


「…………この場で? 〈爆風のガイルディア〉が持っていた……?」


 ファルーアは眉をひそめると、ふとディティアを見る。


「…………」

「…………」


 ディティアはなにかを言いかけて……結局なにも言えずにそわそわと視線を彷徨わせてしまう。


 ファルーアは額に右の指先を当てると瞼をぎゅっと閉じて呻いた。


「――嘘よねティア。あれなの? あの黒い――?」


「ダダンッムルシ」


「消し炭にするわよボーザック」


 すかさず口にしたボーザックにファルーアは間髪入れずに笑いかけるけど――怖い。怖すぎる。


 ボーザックはススーッとグランの背に隠れた。


「ごめんなさい」


「おい、俺の後ろで言うんじゃねぇよ」  


「はは。仲がいいなお前たちは」 


 そこで〈爆風〉が爽やかに笑うけど――ファルーアは当のオジサマに向けて呆れたようにこぼす。


「仲がいいのはいいけれど――〈爆風のガイルディア〉? どうしてあの虫を持ち歩いていたのかしら?」 


「食えるかと思ってな」


「…………はあー。なんとなくあなたのことがわかってきたわ……」


「それは光栄だ」


 すると黙っていてくれた巨人族たちがズイッと身を乗り出した。 


「小せぇ娘さんは怖いなイ!」


「傷は大丈夫ナ? 薬も効いたようだナ。それだけ怒れるんだ、もう心配ないナ」


「…………」


 ファルーアはもう一度額に手を当てて……ため息混じりにかぶりを振るのだった。


******


 巨人族の町はこの谷沿いにあるという。


 最近変わったことはないかと尋ねると、彼らは特にないと答えた。


 ……うーん。このへんに住んでいるなら岩龍の話も知っていそうなものだけどなぁ……。


 実は目撃情報が間違い……なんてことあるか?


 考えていると『ナ』の巨人族が赤髪をわさわさと撫でる。


「ただ、大人たちはおかしいナ……ぴりぴりナ」


 すると『イ』の巨人族も頷く。


「……そうだイ。オマエッの部族がなにか隠して、だから揉めてるイ」


「それはオメェんとこだナ。だからうちの部族の大人が怒るナ」


「俺のところは隠してなんかいなイ。仲を違えたのはそっちのせイ」


「……ねえ、じゃあ問題は大人なの? ふたりは理由なく喧嘩しているってこと? 実はふたりも仲よかったとか?」


 ボーザックが人懐っこい笑顔でずばっと聞くと――彼らは顔を顰めて互いに視線を逸らしてしまう。


 俺としてはこいつらが『子供』なのか? っていう疑問が強いんだけど。


 ややあって……『イ』の巨人族が青髪を指で弾いた。


「……俺とソナは幼馴染みイ」


「スイとは歳も近いからナ。採取もよく一緒にしていたナ」


 彼らは互いに少し気まずそうに視線を合わせ、はあ、とため息をこぼす。


『ナ』の巨人族はソナ、『イ』の巨人族がスイか。ちょっと覚えやすい。


 どうやら彼ら自体は大人とやらに流されているようだ。


 自由国家カサンドラ首都との交易も滞っているって話だし、ここは少し事情を探るべきだろうな。


「……とにかく、恩は返さねぇとナ。俺の部族に来るといいナ」


「それは困る。俺だって恩は返さねぇとならなイ……」


 グランはそれを聞くと少し考えてから口にした。


「仕方ねぇな、半分ずつ世話になるってぇのはどうだ? 俺たちとしても集めたい情報がある。どうだ?」


「……そうね。合流場所を決めておけばなんとかなりそうだわ」


 ファルーアがそう言うと巨人族たちはそれぞれ頷き、籠を背負い直す。


 いつの間にかダダンッの鳴き声は聞こえなくなっていた。



おはようございます。

すみません少しばたばたしております!

今週もよろしくお願いします。

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