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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
634/845

魔物と巨人と⑤

 落ちる――そう思った瞬間。


 吹いたのは荒々しい風だった。


 いつの間にか橋のすぐ近くにいた〈爆風〉がすんでのところで縄を投げ渡す。


 巨人たちはそれぞれ縄を掴んだけれどそのまま橋の外へと落下し、ビュルビュルッと音を立てて引っ張られる縄はやがて伸びきってビンッと張った。


「いま上げてやるから耐えろ! 放すなよ!」


 声を張り上げた〈爆風〉は視線で俺たちに「手伝え」と合図を送る。


「……ッ!」


 瞬時に駆け出すディティアとボーザックの後ろ、俺はできうる限りの速度でバフを練って広げた。


「肉体強化ッ、肉体強化ぁッ!」


 縄を掴み踏ん張る〈爆風〉の腕に筋が浮かび上がり、橋がギシギシと軋む音が響く。


「引き上げますッ!」


「ディティアは万が一に備えて〈爆風〉を支えろ! おらっ、ハルト、ボーザック! 引くぞッ!」


「わかった! ボーザック!」

「うん、せーのっ!」


 ファルーアを下ろしたグランが合流し、俺はボーザックと一緒にグランとは反対側の縄を握って思い切り引いた。


「お、重ッ……! いけるかボーザック⁉」


「ぐ、ううぅッ、岩みたいだ……!」


 俺たちが引いた分〈爆風〉とディティアが縄を持つ位置を調整する。


 ぶら下がる巨人は歯を食い縛り必死の形相で縄を掴んでいるけれど、あれだってそう長くは保たないだろう。


「もう少しだ、頑張れ!」


 俺は声を掛けて縄を引き、ようやく届く位置まで引き上げたそいつに腹這いになって手を伸ばした。


「掴まれ――ッ!」


「フーッ、フーッ……!」


 巨人族は額に筋を浮かせて荒い息を吐き出しながら、左手を俺に向けて伸ばす。


 俺はその手首を掴んだけど――くっそ! なんでこんなに重いんだよ!


「ぐ、うううぅぅッ! ……ッうおあ⁉」


「ハルトッ!」

「ハルト君ッ!」


 ボーザックとディティアの声に応える余裕はない。


 だ、駄目だ――持っていかれる!


 上半身が引きずられて橋桁(はしげた)の外に飛び出した瞬間、俺は「落ちる」のを覚悟した。


 ……んだけど。


「吹 き 荒 れ な さ いッ!」


 放たれた声とともに空気の塊が俺と巨人族をドンッと押し上げる。


「っ、うおおぉああぁ⁉」

「ぎゃあああアアッ!」


 俺と巨人族は吹き飛ばされた勢いで後方――そう、後ろへとひっくり返り、橋桁に叩きつけられた。


「がはっ」

「ングェッ」


 変な声は俺じゃなくて巨人族だ。


 反対側のグランはどうやら無事に救助を終えているようだけど……。


「た、助かった! ファルーア!」


 俺はひっくり返ったまま魔法で俺と巨人族を押し上げてくれた彼女へと声を上げる。


  ……でも。


 ファルーアは返事をしなかった。


「ファルーア……!」


 ディティアが駆け戻り、俺もボーザックも慌てて追随する。


 真っ青な彼女はどうやらまた意識を手放してしまったらしく、杖を手にしたままうつ伏せで倒れたままだ。


「オメェが邪魔するからだナ!」

「オマエッこそ! 死んじまうところだなイ!」


 そんななか、橋桁に膝を突いた巨人族が肩で息をしながら再び怒鳴り合い出し――。


 すーっ、と。


 ディティアが息を吸った。


 ファルーアの傍らに膝を突いていた彼女はゆらりと立ち上がると……。


 シャアンッ


 高い音を響かせて双剣を抜き放ち、一気に地面を蹴る。


 それはまさに疾風。


 彼女は勢いそのままにピタリと巨人族の目の前に切っ先を突き出し……心臓がきゅっと縮み上がる冷ややかな笑顔を見せた。


「まず、頭を冷やしましょうか。喧嘩両成敗です」


 怖い。ものすごく怖い。


 俺とボーザックはチラリと視線を交わし、そっと腕を擦った。


 あー、怒らせると怖いんだぞ……〈疾風のディティア〉は。


 巨人族はただならぬ気配に身を寄せ合い、二回頷いてみせるのだった。


******


「こりゃダダンッムルシにやられたナ」


「ダダンッが鳴いてんだから気をつけイ、ダダンッムルシがいたらこんな布ッ切れじゃ駄目だなイ」


 とりあえずファルーアの近くに移動すると、彼女を見た巨人族はそれぞれ言った。


「ダダンッムルシ?」


 俺が聞き返すと、彼らは頷く。


「そうだナ。ダダンッが鳴くのはダダンッムルシがいる場所なんだナ」


「ダダンッムルシは硬くて厄介だなイ。けどいい素材になるんだなイ」


 語尾が『ナ』の巨人族は殆ど剃った頭の中心、額の真ん中から首に向かう太い線を描くように髪を残していて、その髪色はグランよりも鮮やかな赤色。


 語尾が『イ』の巨人族はボサボサと伸ばした髪をところどころ細い三つ編みにしいて、髪色は深い蒼色。


 どちらも鞣した黒い革服に見えたけど、実は裏側に俺の手のひらに収まるくらいの金属片がびっしり打ち付けられているらしい。


 巨人族の年齢はさっぱりわからないけど、なんとなく若そうだ。


 あとは背負っている蔦で編んだ籠にはなにか入っていたはず。


 ――っていうか、あれのせいで異常な重さだったんじゃないか?


 俺は思い当たって密かにため息をこぼし、気を取り直して再び口を開いた。


「ダダンッとダダンッムルシはどんな見た目なんだ? その……毒とかあるのか?」


 遭遇するなら知っておいて損はないはずだし、ファルーアのこともある。


 すると『ナ』の巨人族がでかい耳に手を添えた。


「ダダンッてのはこのギロィギロィって鳴いてる蜥蜴(とかげ)みてぇな魔物だナ。耳がこう、葉っぱの形でナ。ダダンッムルシは『ダダンッの食事』って意味で、黒い虫みてぇな魔物だナ」


「黒い虫……頭がナイフみたいな角になってる奴か?」


 グランが言うと巨人族はそれぞれ頷く。


 ……それなら確かにファルーアを刺した魔物だ。


 しかもこのギロギロはダダンッて魔物の鳴き声だったのか…………なんだよ、その名前。


 俺が知らず眉を寄せていると、今度は『イ』の巨人族が言った。


「ダダンッムルシが持ってんのは毒ってほどじゃあなイ。けどこんな小せぇ娘さんじゃ薬が必要だなイ」


一日空いてしまった!

本日もよろしくお願いします!

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