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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
629/845

夜闇と朝露と⑨

「……ッ……」


 くそっ、痛いとか通り越して熱いぞ。


 もろに喰らった右肩がじんと痺れている。


「……容赦ないね……」


 ボーザックは呟くとやられた左腕を上げ下げしてこぼす。


「ああ。いまなら相手になれるかもなんて思ったけど……甘かったな」


 転げたときに着いた頬の泥を拭う俺に、ボーザックはにやりと笑った。


「――なに言ってんのハルト。やられっぱなしは嫌だって顔してるくせに」


「お前だってやる気満々だろ。……グランの馬鹿力はどうにもならないな。肉体強化だと精々打ち合いになる程度だ」


「うん。なら速さ勝負でいこう」


「よし。速度アップ、速度アップ!」


 俺は肉体強化を上書きして『速度アップ』の四重に書き換え、ボーザックとふたりで立ち上がった。


「立たねぇつもりかと心配したぞ。こんなもんじゃねぇだろうよ」


 少し離れた位置で笑うグランは顎髭を擦ると再び大盾を構える。


「当然だよ、まだまだ!」

「いくぞグラン、もう一度だ!」


 ボーザックが先に踏み出し、俺も追随する。


 まずは大剣の一撃。


 今度は鬩ぎ合わずに離れるボーザックをグランが追う。


 そこを狙ってボーザックの左側から身を低くしたまま飛び込む俺に、しかしグランはギラリと眼を光らせて反応した。


 踏み込んだ足を突っ張り、重心を後ろに引いて盾を俺へと向けたのだ。


「ボーザック!」


「任せて――!」


 俺はグランの盾には突っ込まず、冷静に踏み止まる。


 手数に頼らず隙を突く――それが俺の戦い方に合っていると言われたことを、これからは意識するつもりだった。


 応えたボーザックが瞬時に攻撃へと転じ、無防備になったグランに剣を閃かせる。


 ――しかし。


「!」


 グランはいつの間にか左手に剣を持っていて、ボーザックの大剣がそれにぶち当たる。


 ――盾の内側に隠してある短剣だ。

 

「おらあぁッ!」


 グランは一瞬弾ければ、それでよかったんだ。


 ボーザックの剣の威力が緩んだその隙に、彼は気合いを吐き出しながら右半身を捻り大盾を振り抜く。


「ぐうっ」


 ボーザックは大剣を体に引き寄せて、その腹でグランの大盾を受け止めた。


 けれど凄まじい威力の一撃にボーザックの足が土の上をずるりと滑り、後方へと数歩飛び離れるのを余儀なくされる。


 グランは右半身を俺に晒している状況で――仕掛けるならいまだと判断した俺は一気にバフを練り上げ、書き換えた。


「脚力アップ、脚力アップ!」


 俺の動きに気付いて、グランは右腕を開くようにして大盾を振るう。


「おおぉ――ッ!」

「はあぁ――ッ!」


 俺の右側から俺をぶっ飛ばそうとしてくる一撃だけど、俺はそれを上げた右足で迎え撃つ――わけではない。


「!」


 グランの盾に足を突き、その勢いを利用して跳ぶ――これが狙いだ!


 着地したのはグランの背中側に近く、ついでに言えば追撃を目的として膝を曲げた状態である。


「取った!」


 大雨で濡れたはずの土はそこまで硬くはなかったから、そのぶんしっかりと蹴ってやる。


 瞬時に迫る俺へと大盾を向けたグランに……俺は笑った。


 ――かかったな、グラン!


「! くそっ、囮か――」


 グランは紅い目に驚きを浮かべて体を捻ったけれど……俺のバフを忘れちゃ困る。


「たあぁあッ!」


 速度アップ四重の凄まじい速さで詰め寄ったボーザックの白い大剣が閃く。


 夜闇を斬り裂くその一撃をグランは膝を折ってギリギリのところで受け止める。


 でもそれは愚行だ。


 ボーザックの大剣は瞬時に翻り……その大剣にあるまじき速さをもってグランの盾の隙間からぴたりと腹に添えられた。


「……は、くそ。やられちまったか?」


「……全然駄目でしょ、これ。グラン強すぎ……」


 ボーザックは苦笑いして大剣を引き、ぼやいてみせる。


「そうだよな、その腹打ったところで膝を伸ばして突っ込む反撃に耐えられないよな……」


 その様子を始終見ていた俺が言うと、グランは笑いながら立ち上がった。


「まあな、一撃入ったところで止まってやるつもりはねぇ。……とはいえ大盾を掻い潜られたのは想定外だ」


「余裕だなぁ……でも前より少しは強くなってるって実感できたかも、俺ー」


 ボーザックは左手に大剣を持つと、右手をぎゅっと握ってみせる。


 グランはそれを見ると、ふっ、と笑った。


「お前らは強くなってるぞ。ま、俺も負けてやるつもりはねぇけどな」


「……グランも俺たちの話、聞いてたのか?」


 俺が言うと、いかつい巨躯の豪胆な男はにやりと笑みを浮かべて盾を構えた。


「あれだけ大声で話してりゃ聞こえるだろうよ。おい、まだやれるんだろ、とことんいくぞ」



 ――斯くして。



 俺たちは夜闇のなかで戦い、へろへろのまま地面に転がって……文字通り泥のように眠ることになる。


 朝露が鼻先で弾けて目覚めたときには……呆れた顔のファルーアと心配そうなディティアが朝食の準備を済ませてくれていた。


〈爆風〉はといえば……夜の殆どをひとりで警戒してくれたらしく、仮眠中とのこと。


「はー、いてて……体中バキバキだ……んー、頬も腫れてるか? 仕方ない――『治癒活性』」


 体を起こした俺がバフを広げると、ディティアが苦笑した。


「長い時間戦っていたみたいだしね。……それと、鎧がどろどろだよハルト君」


「え、うわっ!」


 体を捻って見てみれば……これは酷い。


 同じく体を起こしたグランとボーザックも磨き上げた鎧の有様に呻くのだった。


投稿したつもりでいたけれど、よく考えたらあれは昨日だったと気付いて更新です!

本日もよろしくお願いします。

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