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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
626/845

夜闇と朝露と⑥

******


 ハルトに頭をペシリと叩かれた瞬間、頭のなかがぐるりと混ぜられたような感じがした。


 ボーザックは目の前に現れた『自分』に……驚くこともなく視線を這わせる。


 ――ハルトの見せる俺って本当に俺みたい……。でもあの鎧……壊れる前のお気に入りだったやつだ。


 懐かしいな、と思って……ボーザックはこの『記憶』が終わるまで楽しませてもらおうと腹を括る。


 当然『全部に気付いていない』と言われたことも気になっていた。


 場所は……地面から突き立った松明が何本も連なって円を描いた広場。


 そこにいる『ボーザック』は夜闇に浮かぶ白い大剣を翻し、短く刈り込まれた銀髪の青年へと攻撃を仕掛ける。


〈閃光のシュヴァリエ〉の弟――ラナンクロスト王国所属のイルヴァリエだった。


 これはたしか、まだアイシャで四カ国をまわる冒険の最中だ。


 一度は剣術闘技会で腹を深々と刺された相手と、もう一度手合わせすることができたときの『記憶』。


 白い大剣をするり、と躱したイルヴァリエは……長剣を『ボーザック』の左側から振り抜く。


『ボーザック』は上体を反らして避けると、再び攻撃に転じる。


 イルヴァリエは振り下ろされた一撃を長剣で受け止め、その腹を撫でるようにして滑らせながら踏み込んだ。


 ――そうそう。このときは大振りになっちゃって……詰め寄る隙ができちゃったんだ……。


 迫るイルヴァリエに『ボーザック』は剣を引き戻しながら追随し、結局、互いが距離を開けた。


 そのとき。


『すごいな……』

 ハルトの声が『記憶』のなかで再生される。


『ボーザック、強くなったね』

 ティアの声が聞こえる。


 ボーザックはふたりが褒めてくれていたことを初めて知った。


『お、イルヴァリエが何かするぞ』

 そこでグランが酒を頼みながら楽しそうに声を上げる。


 ――ああ、そうだ。このあと……。


 煌々と照らされた広場の中央付近。イルヴァリエの切っ先が真っ直ぐに『ボーザック』へと向けられる。


『ボーザック』は……ふっ、と笑みをこぼした。


『参る』

『いつでも!』


 イルヴァリエが選んだのは――突き。


 剣術闘技会ではボーザックがこれを受け流し、結果、暗器で無様に腹を突き刺されたのだ。


 それを正々堂々とやろうというイルヴァリエの気概は清々しい。


 受けて立つのは当然で、体中が滾ったことをボーザックははっきりと覚えていた。


 その気持ちをなぞるようにイルヴァリエの渾身の一撃を弾いた『ボーザック』。


 イルヴァリエの手から弾き飛ばされた刃は夜闇にくるくると舞い、松明を写して煌めきながら地面に突き立った。


 ――このときは勝てたけど。でも……いまはどうだろ……。



 不安が鎌首をもたげたそのとき……突如、景色が変わる。



 ボーザックは、あれ、と思ったけれど……やはり目の前にいる『自分』は白く艶めく美しい大剣を手にしていた。


 ――あ、でも鎧が……新しくカルアさんがくれたやつになってる……。


 こんなところまではっきりと描かれていることに驚いたそのとき、ハルトの声が聞こえた。


『……よし。いくぞ!』


 同時に視界が動く。


 目の前の『ボーザック』が攻撃に転じて……ボーザックは気付いた。


 ――これ、アルヴィア帝国の帝都だ。ティアと一緒にハルトを迎え撃った、つい最近のやつ。


 ハルトは突き出される大剣の腹に双剣を滑らせるようにして『ボーザック』に肉迫する。


 そのまま左の剣を大剣に当てたまま右の剣を振るうと、後ろに跳んだ『ボーザック』と入れ違いに〈疾風〉が飛び出してくる。


 ――ティア、やっぱり速い。


 ハルトは距離を取って追撃をなんとか躱した。



 ……そのとき。



『おい〈逆鱗〉、お前バッファーだろう?』


 突然〈爆風〉の声がして――ハルトが「えっ?」と聞き返し……。


『隙ありッ』

『ぐっ!』


 突っ込んできた『ボーザック』の閃く大剣を受け止め切れず、ハルトが踏鞴を踏んだ。


『……悔しいけど、いまのもやられた』


 ハルトがそう言ったことをボーザックも覚えている。


 負けを認めているのに『まだやれる』って目をしていたバッファーは……やっぱり強くなっていて、自分が情けなくて――少し――いや、ものすごく悔しいといまになって気付かされた。


 ボーザックは胸が締め付けられるように感じて……どうすることもできずに目の前の『自分』を見詰める。


 ――一緒に強くなろう、強くなりたいって話したけど……俺、思い上がってたのかな……。


 悔しい。悔しい、悔しい。


 ……そう思った、そのときだった。


『敢えて二撃目を繰り出さなかったんだ。ボーザックならそれができたはずだから』


 ハルトの声が……聞こえた。


 あのとき、彼はそんな言葉を口にしなかったはずだ。


 ボーザックは目の前にいる『ボーザック』が大剣を右肩に背負うようにして、にやりと笑みをこぼしたのを見る。


『久しぶりに剣を交えて……実感した。強くなっている、ボーザックは――確かに』


 ――ハルト……ハルトの気持ちだ、これ……。


 強くなっている、と。認めるかのような言葉。


 ボーザックは唇を噛んで――ふっと目の前に現れたハルト(・・・)に向けて吐露してしまった。


「ハルトはずるいよね――俺、これじゃ……」


 ――もっと情けないじゃん……。


 すると、ハルトがビシッとボーザックの額を中指で弾いた。


「痛ッ……⁉」


「なに言ってるんだよ? イルヴァリエとの一戦と俺との一戦、ちゃんと見えたか?」


「え……うわっ、あれ、見終わった?」


 ボーザックが両手で額を押さえてそう言うと……ハルトはにやりと笑った。


こんばんは、本日分です。

親友でライバルみたいなの格好いいですよね。

よろしくお願いします。

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