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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
623/845

夜闇と朝露と③

******


 結局、フェンのポンチョはボーザックに着せた。


 なんだろうな、一番犬っぽいから……?


 フード部分は耳の形に突起が作られているので、被ると犬耳が頭の上にピンと立っているように見える。


 ディティアにも似合いそうだし可愛いと思うって勧めてみたら、なぜか真っ赤になってものすごく怒られた。


 そんなに嫌だったかな、と思ったところで……グランが遠い目で「ボーザック、お前が着てやれ」なんて言ったのだ。


「……なんだかごめんね、ボーザック……」


「はぁ……ティアのせいじゃないよ……ハルトがハルトだから悪い」


「えぇ? なんで俺……? むしろこの天候のせいだろ」


 言ったそばからゴゴオォンッ! と雷が轟く。


 当然ファルーアがびくっと肩を跳ねさせ、手を引くディティアに身を寄せるわけで……うーん、ローブで頭はすっぽりと隠れているけど、青い顔でもしていそうだ。


 厚く重い雲が時折白い光を宿し、薄紫色をした稲妻が網のように奔っては消えていく。


 フードを叩く雨の音も強いままだ。


「早いところ行き過ぎてくれればいいが」


 先頭を歩く〈爆風〉がボーザックのポンチョ姿でそう言うと、殿(しんがり)のグランはため息をこぼした。


「そうだな。かなり濡れたし火も起こしてぇところだ」


******


 降り続く雨、雨、雨に段々と口数も減り、どろどろの足下に流れる雨水がブーツの中まで染みに染みた頃――ようやく雨雲が通り過ぎたようだ。


 雷の音も聞こえなくなたのでファルーアがローブの内側から亀のようにそっと顔を出し、雲の切れ目からは待ち焦がれた太陽の光が差し始める。


 時間的にも夕方に近いせいか、草原を照らす何本もの光の柱は茜色を含んでいて……どこか幻想的ですらあった。


「――綺麗だな」


 思わず言うと、ディティアがうん、と頷く。


 横目で彼女を見た俺はエメラルドグリーンの瞳が太陽の光を映して瞬くのも綺麗だなと思って……我に返って頬を掻いた。


「……どうかした? ハルト君」


「え、あー……いや……」


 気付いたディティアが小首を傾げるけど、これって褒めていいところ……だよな? あれ? でもなんて言えばいいんだ?


 迷っていると、ボーザックがフェンのポンチョを脱いでばさばさと水滴を払った。


「……はー、今回は結構降られたね」


「うん。いつもならどこかで雨宿りとかもするもんね」


 ディティアはボーザックに気を取られたのか俺から視線を外し、自分もポンチョを脱いで水滴を飛ばす。


 ……なにか言えればよかった……かな。


 考えていると少しは持ち直したらしいファルーアが〈爆風〉のローブを左手で掲げて言った。


「……水滴、払うわ。ポンチョを出して」


 ちょっと恥ずかしそうな感じなのはばつが悪いんだろう。


「はっ! んな顔すんじゃねぇよファルーア、苦手なもんがあって当然――うぐッ」


 そこでグランが笑うと杖での容赦ない一撃が突き込まれ、ファルーアは濡れた髪を手櫛で整えて冷たい視線を彼に注いだ。


「そういうのは触れなくていいのよグラン?」


「……す、すんませんした……」


「はは。若者は元気だな」


「いや若者関係あるか? これ……」


 楽しそうな〈爆風〉に突っ込みながら、俺もポンチョを脱いで右手に持ち前に出す。


 全員がそれに倣うと、ファルーアはこほんと咳払いを挟んで杖を前に出した。


「いくわよ、吹きなさい」


 ぶわあっ、と。


 彼女の凜とした声に応えるように龍眼の結晶が輝き、風が逆巻く。


 ポンチョの水滴が巻き上がって雨のように飛び散るのを見送って……俺たちは再び歩き出した。


「もう少し歩いたら災厄を屠った場所だな。今日はそのあたりで休もうと思うがどうだ?」


 グランが言うことに異存はない。


 俺は皆のポンチョを預かって丸めながら頷く。


「さすがにかなり濡れたしな。乾かさないと風邪ひきそうだ」


「そうね……ちょっと疲れたわ」


「鶏肉食べて元気出さないとねー」


「グランさんのお料理、美味しいから楽しみです」


 それぞれが応えたところで、ひときわ大きな雲間から太陽の光が降り注いだ。


 光は今度こそ完全に夕方の色合いで、薄くなった雲は端を夕焼け色に煌めかせている。


「……いい景色だ。これだから旅はやめられない」


〈爆風〉が双眸を細めて呟くのを聞きながら……俺はひとり、小さく頷く。


 いつだったか……〈爆風〉に言われたな。


『旅はいいぞ、〈逆鱗〉。季節によってまったく違う景色になることもある』


 俺はあのとき見た白い花が咲き乱れる美しい自然の絨毯を脳裏に描く。


 そうだな、移り変わる景色を見逃したら勿体ないし、次はまた違う景色が見えるはずだ。


「旅っていいよな」


 思わずこぼすと……皆が笑った。


「なに言ってんだハルト、そんなのいまさらだろうよ」


「そうだよ。見たことない場所、見たことない強い魔物に龍! 俺、冒険者になってよかったし、〔白薔薇〕でよかったよ」


「ええ。私たち〔白薔薇〕で有名になるのも、それなりに気分がいいわ?」


「私は……皆がいてくれるから嬉しい、かな? ここまで来られたのはハルト君や皆のお陰だから」


 その返しが不覚にもちょっとグッときて――言葉に詰まった俺に。


「そうだな。俺もお前たちと会って――久しぶりに誰かと旅をしたいと思った」


 ……そう、渋くていい声がとどめを刺した。


「な、なんだよ皆して……」


「ふふ、ハルト君なんだか照れてる? わあっ⁉」


 俺はにこにこと笑顔を向けるディティアの濡れた髪を、思い切りわしゃわしゃすることに決めたのだった。


なにはともあれ鶏肉。

今日は焼き鳥です。

今週もよろしくお願いします!

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