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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
617/845

草原と渓谷と③

******


 お婆さんの名前はソイガ。


 古代魔法の書物を趣味で集めていて彼女自身も魔法を扱うことができるうえ、バフも使えるそうだ。


 そして読み終わった書物をここで売っているらしい。


 彼女が集めた本を目当てに訪れるメイジ――トールシャでは戦闘専門のトレジャーハンターだったり、単に研究者だったりするんだろう――は多く、自由国家カサンドラにおいて彼女の本屋はかなりの稼ぎを得ているとのこと。


 ……結構有名な本屋だったのか。見かけによらないなーとか思ったのは伏せておこう。


 そんなわけで――ソイガさんと机まで移動した。


 とりあえずアイシャの冒険者でトレジャーハンターでもあると自己紹介を終えた俺に、ソイガさんは机の向かいに腰掛けて頬杖を突くと言った。


「それでハルト。あんた教えろって言うが……どの程度バフが使えるんだい」


「どの程度……? えぇと……この本のなら使えると思う。まだ覚えていないのもあるけど……」


 カナタさんの本を引っ張り出した俺がそれを差し出すと、ソイガさんは間に挟んでいたシュヴァリエの栞の場所を開く。


 そこにあったのは『五感アップ』だった。


「基礎の本かい。ふーん、なるほどね。どれ……『五感アップ』……ああ、この程度かい……。やっぱり古代魔法には及ばないんだろうね」


 するとソイガさんはさらりと五感アップバフを自分にかけ、すぐに消して残念そうに言う。


 え? まさか読んだだけで使ったのか?


 だとしたら彼女、かなりすごい。少なくとも俺は何度も練って形を整え、安定させる練習をしないと使えないからな。


「まあいいか。それで? どれか使ってみておくれ。あんたに教えるかはそれで決めようかね」


「わかった」


 ……俺は頷いて手の上にバフを広げた。


 教えてもらわなきゃ困るんだ、やるなら全部見せてやる!


「五感アップ、五感アップ」


 途端にソイガさんの小さな眼が見開かれる。


「なんだって……? いや、範囲まではいいとして……あんた、ハルト。まさかバフを重ねられるのかい?」


「え……あ、うん。俺、ちょっと特殊みたいで……」


 範囲まではいいとしてって……簡単なことみたいに言われたのは初めてだな……。


 ちょっと悔しい気持ちで返すと、ソイガさんは少しだけ考える素振りをみせた。


「なるほどね。それもまた進化なのか…………いいだろ、アイシャからってのも興味があるし教えてやろうかね。あんたトレジャーハンターなんだろ? いつまでここにいるんだい」


「え……いつまで……?」


 その瞬間、俺は固まった。


「……あ、ああっ……うわ、ソイガさんちょっと待っててくれ! 皆呼んでくる!」


「呼んで……? あ、おい!」


 待ちなーとか言われた気がするけど待てるわけがない。


 ここでバフのことが少しでもわかれば――キィスのような人を助けられるかもしれないんだ。


 ストールトレンブリッジはなんとかしてみせるって言っていたけど、せめてなにか掴んでおければって……そう思うから。


******


 だいたい誰がどこにいるか想像がつくっていうのは……なんというか長年の付き合いってやつかもしれない。


 俺は皆を集めて事情を説明し、一緒にソイガさんの店に戻ってきた。


「また……随分と人数が増えたようだね……」


 ソイガさんは呆れたようにこぼしたけど……。


「こ、これを、おひとりで集めて……? ああ、嘘。古代魔法ばかりだわ! あの、手に取っても問題ないかしら……!」


 震える声で言いながら珍しく興奮した様子で視線を彷徨わせるのはファルーアで、グランがちょっと引いている。 


 ソイガさんは苦笑すると頷いた。


「龍眼の結晶なんてもんを見せてもらえるとは思わなかったからね、見るだけなら好きにおし」


「それもわかるのね? ソイガさん、だったかしら。ぜひ古代魔法の話を……」


「! そ、それは駄目だからなファルーア! 俺が先にバフを……!」


「あー。お前らちょっと待て。いいか、俺たちはもう仕事を請けちまってるんだぞ、それを忘れるな」


 そこでため息をついたのはグランだ。


 彼は眉を寄せたまま顎髭を擦り、動きを止めた俺とファルーアを見る。


「ファルーア、お前はとりあえず本を買えば読めるな?」


「え……えぇ、そうだけれど……」


「ハルト。お前はどのくらいでバフを覚えられる? ……いや、ソイガさん。こいつにどの程度の時間で教えられそうかわかるか?」


 そのまま続けたグランに、ソイガさんは仏頂面で肩を竦めた。


「教えるのはすぐ終わるさ。あとはハルトの頭と才能次第だね。とはいえいい素材だ、重ねがけなんてのはやろうと思ってできることじゃあない」


「え、すぐ教えられるのか? でも――」


 ――いつまでここにいるのか聞いたよな?


 言葉を紡ごうとすると、彼女はそこに被せて言った。


「いいかい、ハルト。さっきの『解読付与』ってのはあくまで『付与するだけ』なのさ。アタシの解読の知識をあんたに付与しただけ――バフが切れちまったらそれでおしまいなんだ。現にもう本は読めないだろう?」


「……えっ、付与……?」


「そう。つまりあんた自身が解読できないんじゃバフを覚えても本を読めるようにはならない。結局意味がないってことだね」


「そんな……じゃあ『解読付与』って……なんの役に立つんだ?」


 ただ自分の知識を少し貸し与えて暗号を読ませるだけのバフ……。


 俺が首を捻って思わず聞き返すとソイガさんはにやり、と笑みを浮かべる。


「さあ、なんだと思うかね?」



本日分です。

よろしくお願いしますー!

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