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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
615/845

草原と渓谷と①

******


 まあ、そんなわけで。


 俺たちは高そうな羊皮紙に災厄討伐の功績が書き込まれたありがたーい書状を頂戴した。


 ちなみにこれには俺たち〔白薔薇〕の仲間である〈銀風のフェン〉を連れているユーグルのロディウルと、曲者ストールトレンブリッジ、トレジャーハンター協会会長のマルレイユの署名とがあるはずで…………ん?


「なんだこれ……ウィルの署名?」


 俺が思わず口にすると、目の前でにこにこしていたマルレイユが深々と頷いた。


「えぇ。アルヴィア帝国皇帝ウィルヘイム=アルヴィア様と、その隣はミリィヘイム=アルヴィア様の署名です」


「……このふたりの署名もある書状だったか?」


 グランも唸るけど……そうだよな、なかったはずだよな?


 しかもあのふたり、俺たちが参加した災厄討伐とはあまり関係ないような……あれ?


 俺はそこで書状の内容に眼を瞠った。


「災厄の病酸(びょうさん)モルブス討伐……? 正式な……アルヴィア帝国皇帝の賓客(まろうど)たる冒険者……?」


 読み上げるとファルーアが苦笑する。


「きっと帝都のあの蛸みたいな魔物のことね。正式に災厄とみなしたということかしら」


「そのようです〈光炎のファルーア〉。まさか帝国でも災厄討伐とは……しかもですよ? 『冒険者』と――あの帝国が『冒険者』と書いております。これは驚くべきことです。歴史が動くでしょう」


「……へー、やっぱり『冒険者』嫌いの帝国だからなんだよね、きっと」


 ボーザックが面白そうに口角を吊り上げて手元のお茶を飲み下す。


 マルレイユはこほん、と咳払いをすると……ありがたーい書状と一緒に持ってきたらしい封筒と革袋、地図を出した。


「……少しばかり興奮してしまいましたね。それではこれが谷への地図と……こちらの革袋は微々たるものですが報酬です」


「そっちの封筒は?」


 俺が聞くとマルレイユはそれを指先でスッと俺の前に押し出した。


「あなた宛です〈逆鱗のハルト〉」


「俺……? ……あー」


 その封筒には蒼い蜜蝋。押されているのは見覚えのある印。


「〈閃光のシュヴァリエ〉からだねぇ」


 なぜかディティアは微笑んでいるけど――まったく笑えない。


「まだなんかあるのか、あいつ……」


 俺は渋々封筒を掴んで……そのままバックポーチに捻じ込んでやることにした。


 途端にボーザックが目を剥く。


「えーっ、読まないのハルト?」


「恥ずかしがることはないと思うわよ?」


「開けてやるくらいしたらどうだ、ハルト……」


「はは。ひとりでゆっくり読みたいんだろう? 〈逆鱗〉」


 皆が追随して勝手なことを言うけど……ここで馬鹿にされるのもちょっと不本意だ。


「ふん。ろくなこと書いてないに決まってるだろ、シュヴァリエだぞ? ……絶対にここでは読まないからな!」


「あ、ちゃんと読むんだね」


 鼻を鳴らして言い切った俺に、ディティアがくすくすと笑った。


******


 そんなわけで翌日には出発することに決め、食糧を買い足し、薬などの応急処置用品の確認を済ませてから自由時間となった。


 俺は砥石を新調するため武器屋に行くというディティアと〈爆風〉の誘いを丁重に断って……ひとり裏路地の本屋へと向かう。


 瓦礫撤去を手伝っていたときに気になってたんだ、誰もいなくて開いていなかったし。


 それにあのふたりの双剣話についていける気がしないんだよな……。


 考えながら深く息を吸う。


 肺に満ちるのは、あのときとは違う人々の生活の匂い。


 子供の話し声や大人たちの呼び込み文句、たくさんの音が耳に触れて流れていく。


 皆が生き生きして活力にあふれた町。


 ……これが本来の自由国家カサンドラなんだろう。


 なんとなくいい気分でしばらく歩くと……目当ての店の扉が開いているのが見えた。


「あ……開いてる!」


 小走りで近寄って覗き込むと……おお。


 並んだ本棚には古そうなものから新しそうなものまでぎっちり詰まっている。


 ここなら古代魔法の本もありそうだ。ファルーアも気に入るかもしれない。


 ……それにしても人の気配がないな。本屋……なんだよな?


 看板らしきものは出ていないけど……俺はそろりと右足を踏み出した。


「こ、こんにちは……お邪魔します……?」


 疑問形になったのは店に入るのに挨拶がいるものかと迷ったからだ。


 けれど応えはなく、本屋には静かで埃っぽい空気が満ちている。


「……よし、とりあえず探すか……」


 まあ、店じゃなかったとしてもなんとかなるだろ。


 俺はそう思ってゆっくりと歩き出す。


 探しているのはバフの本だ。


 この大陸……トールシャではバッファー自体の話をほとんど聞かない。


 それはもしかしたらアイシャよりも『古代の血』を継いでいる人が多いからかもしれない。


 だから埋もれているだけで、本当はバフを研究した本もあるんじゃないか――そう思ったんだ。


 そうしてしばらく棚を眺めながら進んでいくと……長机と椅子を見つけた。


 いくつか本が置いてあるけど、埃は積もっていない。


 ――もしかして、ここで少し読んでもいいのか?


 俺はなんとはなしに椅子に座って、ふとバックポーチから封筒を引っ張り出した。


 ……まあ、読むくらいはしてやるか。


日付変わっちゃいました、水曜分です!

よろしくお願いします!

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