情報と仕事と⑤
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男四人であれこれと語り合ってから宿に帰ると、アルヴィア帝国で仕立てたという服に袖を通したディティアとファルーアが楽しそうに談笑していた。
普段は革鎧だったり金属糸が織り込まれた服だから、こうして宿に泊まるときくらい寛げるものを……というミリィからの提案だったらしい。
ミリィ……ミリィヘイム=アルヴィアはアルヴィア帝国皇帝ウィルヘルム=アルヴィアの妹で、曲者ストールトレンブリッジの婚約者でもある。
そのミリィが使う仕立屋というだけあって繊細な銀糸の刺繍が袖や胸元に施された服は高そうだ。
胸の下あたりで切り返しがあり裾が広がったひと繋ぎで、ディティアは瞳とよく似たエメラルドグリーン、ファルーアは海のような深い蒼。……よく見たら揃いの形である。
ちなみに着ている姿を見るのは初めてだけど、たまにはこういう時間も取ったほうがいいのかもなと……俺たち男四人はあとでこっそり話したのだった。
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――そうして久しぶりのベッドでろくな警戒もせずぐっすりと休んだ翌日。
俺たちは朝食を済ませてすぐに広場に向かった。
「……ず、随分たくましくなったわねぇ、は、ハルト……ふふっ」
「そ、双剣じゃない――大剣なんて、ひ、酷いですッ! 」
口元を右手で隠し肩を震わせるファルーアの隣、ディティアが憤慨する。
「ティア……一応突っ込むけど大剣だっていい武器だよ……?」
ボーザックが叱られた犬のような雰囲気で肩を落とすと、ディティアは反対にはっと肩を跳ねさせて慌てたように首を振った。
「わ、わ……ごめんねボーザック……大剣は大剣で素敵なんだけど! でもハルト君なのに双剣じゃないなんて……!」
「ふ、ふふっ……ティアにはこれが、は、ハルトに見えるのね? で、でもっ……顎髭まで……ふふっ、あははっ」
どうやらツボだったらしいファルーアがますます笑うのを横目に、俺はふんと鼻を鳴らした。
「もうなんとでも言ってくれー」
本当にもう、なんか俺のせいみたいじゃないか。
――そんなわけで。
ひとしきり笑われた俺は皆とトレジャーハンター協会本部を訪ねた。
戦闘の痕跡が色濃く残っていたはずの館内はすっかり綺麗になっていて、多くのトレジャーハンターたちで賑わいをみせている。
俺たちはとりあえずトレジャーハンター協会会長のマルレイユに会うべく列に並び、順番がきたのでぞろぞろと受付に向かった。
「……いらっしゃいませ、仕事の報告ですか、斡旋です……か?」
受付をしていたのは焦茶色の髪で細身の男性だ。
整髪料で整えられた髪型にはどことなく品があり、きりりとした蒼い瞳に似合う銀縁の眼鏡をかけている。
しかし彼は俺たちを見てみるみる目を見開くと、急に受付にばんっと両手を突いて身を乗り出した。
「…………し、〔白薔薇〕の皆さんッ⁉」
途端にざわぁっと空気が震え、あちこちからの視線が刺さる。
あ、なんかこの感じ……久しぶりじゃないか?
「わぁお――石像効果かなー?」
ボーザックがささやかな声音で戯けてみせるけど――いやいや、あの石像から俺たちが〔白薔薇〕ってわかるやつ、いないだろ。
「おう、〔白薔薇〕だ。今日はマルレイユ会長はいるのか?」
グランが心持ち胸を張って言うと、彼は周りの受付のひとたちと目配せして静々と立ち上がった。
「しばしお待ちを……」
気のせいじゃなければ、どこか哀愁漂う空気だ。
「……なにかしらね?」
奥に引っ込んだ彼を見送り、ファルーアが呟く。
「アルヴィア帝国からなにか連絡があったのかな?」
ディティアも首を傾げた。
まぁ伝達龍ならかなり早い段階で連絡がついただろうからな、あり得る話かもしれない。
「でもなんか……変な空気じゃないか?」
俺がそろそろとあたりを見回しながら言うと、奥からさっきの男性が戻ってきた。
「……〔白薔薇〕の皆さん、お待たせいたしました。ここに、とある書状が届いております。僭越ながらお読みさせていただきたく」
「書状?」
思わず聞き返す俺に、彼は哀しそうに眉尻を下げて頷いてみせた。
――いや、待てよ。なんかこの空気――覚えがあるような。
「…………ごめん、悪いけど待ってくれるか。ちょっと俺、嫌な予感が」
咄嗟に右手を突き出して止めた俺に、なぜかグランがこぼす。
「ハルト……お前なぁ……」
「俺のせいじゃないからな、グラン!」
「参考までに聞くわ。その書状、アイシャからかしら?」
そこでファルーアが呆れたようにこぼし、その答えは背後から聞こえた。
「ええ、お察しのとおりですよ皆様。それはラナンクロスト王国から届いたとんでもない手紙ですね」
すみません日付変わったけど金曜分です!
よろしくお願いしますー!