情報と仕事と④
……そうして広場まで戻り、石像の前に立った。
そんなに遅い時間でもないけど広場は閑散としていて、トレジャーハンター協会の窓から灯りがこぼれているのがよく見える。
トレジャーハンター協会は夜になると閉まってしまうはずだから、あれは当直とか残業とか……そんなひとたちが灯したものだろう。
夜になったせいか肌寒く感じる空気が頬を撫でていくなかで、グランよりはるかにでかい石像はトレジャーハンター協会を背に町へと目を向けていた。
上から下まで視線を何往復かさせたあとで……俺は思わず口にする。
「……なんか顎髭が生えてないか? ……よく見たら武器も大剣だし……これグランとボーザックからきてる?」
どこが面影は『俺』なんだよ、雰囲気すらないんだけど。しかも俺、こんなに筋肉質じゃないし。防具はまあ……なんかこう……革鎧っぽいけど。
しかし花に囲まれた台座部分には確かに『〈逆鱗のハルト〉……アイシャの冒険者でありパーティー〔白薔薇〕に所属。自由国家カサンドラ首都復興に貢献』と刻まれていた。
さらにそこに添えるように「自由国家カサンドラ復興に尽力した『誰でもあって誰でもないものたち』を讃え寄贈』とある。
まあ、俺でもあって俺でもない……ってことで……うん、なんとなくどっときたな……。
はぁー、とため息を吐き出したところで――俺はこっちに向かってくるふたつの気配に気付いた。
石像から視線を移すと――彼らはそれぞれ手を上げてみせる。
「どうだ石像は」
「格好よくできてるー?」
「うわ、グラン、ボーザック……なんでここに?」
「なんでもなにも――なぁ、ボーザック」
「うん。ハルトならこうするだろうと思ってさ」
にやりと笑うグランと楽しそうに声を弾ませたボーザックに、俺は大袈裟な動作で肩を竦め首を振ってみせた。
「…………なんだ、どうした?」
眉をひそめたグランたちは石像の前に立つと……しばしのあいだ聳え立つそいつを穴が開くほど見詰めて――。
「ぶはっ、はははっ! な、なんだこりゃ!」
「あっはは! は、は……っ、ハルト、髭、髭生えてる……ッ!」
――盛大に笑い出した。
いや、なんだこりゃって……そんなの俺が一番聞きたいに決まってるだろ……。
「すげぇな、面影の欠片もねぇぞ? ふ、はは……」
「し、しかも武器も大剣じゃん! ひ、ひどッ、あははは!」
「なんか俺、馬鹿にされてないかな……」
するとそこで、いきなり渋くていい声がした。
「目を閉じろ」
「……ッ、い、一、二、三ッ!」
思わず瞼を下ろし数えたのは、これまでの経験の賜物だろう。
っていうかどこにいたんだ? 気付かなかったぞ全然!
俺はすぐに気配を探り、ひらりと通過したその風に手を突き出した。
――そこ――だッ⁉
確かに触れたその瞬間、首筋がちりちりとするような感覚に息を呑む。
身を捻りながら左手を前にすると――バシ、と拳らしき感触。
「よし、いいだろう」
瞼を上げると満足そうな〈爆風〉が拳を引いたところだった。
グランもボーザックもそれを確認すると肩の力を抜く。
「いつからいたんだ、あんた……」
呆れた声で言うグランに、彼はさらっと「そうだな……〈逆鱗〉がひとり、こいつを見上げて情けない顔をしていたあたりか」と言う。
「それ最初からだろ……」
ため息をこぼすと〈爆風〉は「はは」と笑って石像を見上げた。
男四人、暗い広場で石像を眺めているってのも変な話である。
「――『誰でもあって誰でもない』というのは言い得て妙だな」
「これでハルトの面影だっていうんだから驚くよね。大剣なのも笑っちゃうし」
「ああ。あの顎髭ももう少し作り込んでくれるとよかったが」
「……顎髭って……グラン、ずっと思ってたけど好きだよな……。俺、もう悪意しか感じないよ……」
俺は好き勝手話している三人に向け、頬を掻いて首を振る。
そこで〈爆風〉が言った。
「英雄の像とはこんなものかもしれんぞ。俺たち〈爆〉の物語とやらの挿絵は全員がごてごての金属鎧を着ていたりするからな」
「あぁ……」
朧気にしか覚えていないけど、確かにそんなものだったかも。
〈爆〉の物語に限らず巷の物語は華美なものが多い気がする。
俺の場合、英雄ってのは言い過ぎだと思うけどな。
そう思って頷くと、グランが咲き誇る白薔薇に手を触れて言った。
「まあ、こんな形でも他国に足跡を残したってのは大きい。もっと有名になるぞ、俺たちは」
「うん。そのためには強くならないとね」
「はは。安心しろ、とことん鍛えてやるぞ。少しは気配を読むコツも掴んできたようだしな」
応えるボーザックに〈爆風〉が笑う。
「なら、龍なんてのもさっさと討伐しないとな!」
俺は思わず口角を吊り上げて口にした。
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