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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
610/845

情報と仕事と③

******


 まさか本人たちを前にしているなんて思わなかったろう料理長は嬉々として厨房へと引っ込んだ。


 代わりになんだかよさそうな酒が一本俺たちの席に運ばれてきて、持ってきた店の人は料理長からだと言う。


「……あぁー……なんだよ石像って。それに俺、なにもしてないんだけど」


 俺が頭を抱えていると、ボーザックが歯を見せて笑った。


「そんなことないでしょ。ハルトはひとりでサーディアスたち相手に戦ってたじゃん。なによりハルトが魔力切れ起こすまで使ったバフで助かったひとも多かったはずだし」


「……あれは俺がどうこうって話じゃないだろ。なんなら首斬られる寸前――」


 災厄を蘇らせるべく動いていたサーディアスのことは当然覚えている。


 トレジャーハンター協会の若手筆頭とまで呼ばれていた男だ。


 紅い粉――あれを呑んでいないように見えたのにものすごく強かったし、やられそうになったところを空から文字通り降ってきたボーザックに助けられたことも勿論忘れていない。


 俺が唸ると、グランがポンと酒の栓を抜いた。


「まあ呑めハルト。俺はそれなりに嬉しいぞ」


「料理長は〔白薔薇〕のことも言っていたものね。私も結構嬉しいわよハルト。あんたの名前と〔白薔薇〕が遠く異国の首都で語られるなんて」


 ファルーアは俺の杯を勝手にグランに差し出して琥珀色の酒を受け止めると……ついと俺に差し出す。


「――〔白薔薇〕のことはそうなんだけど……なんだかさぁ……」


 どうして俺なんだよという気持ちが拭えないっていうかさぁ。


 俺はため息をこぼしながら杯を受け取り……一気に煽った。


「…………美味い」


「はは。それは結構だ。お前はここで戦い、皆の心に残った――そういうことだろう? 誇れ〈逆鱗〉」


「……」


 またこのオジサマは渋くていい声でそんなことを……。


 俺が腕で口元を拭うと、ディティアがふふっと笑った。


「ハルト君、嬉しそう」


******


 結論からいえば飯は最高に美味かった。


 途中、捏ねた肉の上になにかの花片はなびらが載せてあるのを見たボーザックが『これ、ハルトの逆鱗を模したんじゃない?』とかなんとか言ったんで肩に一撃入れてやったけどな。


 ふん。覚えてろよ?


 ……とにかく。料理の数々は俺たち〔白薔薇〕の功績を表したそうだ。


 災厄討伐にサーディアス捕縛、怪我人の治療に瓦礫撤去。


 でもそれはここに暮らす人々やトレジャーハンターたち、国を纏める治安部隊も同じ。


 再び席に現れた料理長は「だからあの石像は『誰でもあって誰でもない』のです」と言った。


 ――正直、その考えかたは嫌いじゃない。


 そうして腹もいい具合に膨れたところで、ボーザックがふあ、と欠伸した。


「んー、俺、眠くなってきた……」


「久しぶりに呑んだしな」


 俺が言うと、向かい側で強い酒をちびちびやっていた〈爆風〉が頷く。


「〈不屈〉はあまり酒は強くないんだったな。腹に詰めた料理はかなりありそうだが」


「へへ、こんなときに食べておかないと冒険のあいだは乾肉生活だしね。けどもうお腹いっぱいだしベッドが恋しいー」


「わからなくもねぇな。よし、今日は宿取って休むぞ。明日はトレジャーハンター協会本部で情報収集だ、いいな」


 へらっと笑ったボーザックに顎髭を擦りながらグランが言う。


「ハルトの像は見ていきたいわね」


 けれどファルーアがそんなことを被せてきたので、俺はぶんぶんと首を振った。


「えぇとファルーア……今日はやめておかないか? ……なんていうか、こう、心の準備がいるからさ」


「えー? 私も見たいなぁ」


 ディティアはすこぶる楽しそうにふわふわと頬を緩めているけど……酔っているな、これは。


「ここに実物がいるだろディティア……それで我慢してくれないか? 好きなだけ眺めてくれていいから」


 俺が苦笑交じりに応えると、彼女はエメラルドグリーンの瞳をぱちぱちと瞬かせ、なぜか照れたように俯いた。


「それは、そうなんですけど……ハルト君はずるいです……」


「えぇ?」 


「あんたよくそんな言葉がさらさら出るわね……まぁいいわ。仕方ないから石像は明るくなってからにしましょう」

 

「明るいところで確認したほうが隅々までよく見えるからな」

 

 呆れたように言ったファルーアに〈爆風〉まで被せてきて、皆が笑う。


 俺たちは料理長に礼を言って「パーティー〔白薔薇〕が来たことを宣伝に使う代わりに特別価格だ」という金額を支払い、店をあとにした。


 ――忘れていたわけだけど、俺とボーザックの奢りである。


 特別価格ーなんていっても、これがまた高い。ものすごく高い。


 まぁそれだけ美味かったからな……そこに文句はないんだけど。


「……俺、しばらくおやつすら買えそうにないよ……酔いも冷めたよ……」


 肩を落とすボーザックに頷いて……俺は軽くなったポーチを擦る。


 そして広場からほど近い宿に部屋を取った俺たちは、各自好きに過ごすことになった。


 俺は熱い湯で長旅をしてきた体をほぐしてから、ひとりでこっそり外に出る。


 あのときめちゃくちゃだった町並みがどうなったか見たかったし……なにより石像が気になったからだ。


 先に見ておけば心の準備もできるってもんだよな。



本日分です。よろしくお願いしますー✨

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一人でこっそり?到着までの修行状況から考えると… [一言] 次の更新が楽しみです
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