表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
606/845

自由と冒険と⑤

******


「ぐッ……」


〈爆風のガイルディア〉の右肩を捉えた一撃は手加減されているのにも関わらず強烈で、思わず蹈鞴(たたら)を踏むほどだ。


〈爆突のラウンダ〉は練習だからと鞘に収めたままの槍を引いて左手に持ち替えると、石突きを地面にトンと突く。


 そして短い茶髪をがしがしと右手で掻き、眉間にこれでもかと皺を寄せて唸った。


「……うーん、なんつーかこう、重心をかけ過ぎなんだよなあ。なんだろうな、突きをいなすなら……こう、こうやってな」


 さらに自分の腹を捻るようにしながらガイルディアに体の動きを見せてくれるラウンダだが、教え方は決してうまくはない。


 しかしそれを補う戦闘能力の高さ――それがガイルディアにはあった。


 呆れた顔をして肩を擦ったあとでラウンダの動きを真似て足を踏み出し腹を捻ったガイルディアは、足を引き戻すとくるりと双剣を回す。


 ――なるほどな。腕に掛かる力を捻る動作で横にずらす感じか……。


「よし、なんとなくだがわかった。もう一回だ〈爆突〉」


「ほっ……お前さんたちまだ寝ないつもりか? 元気じゃの……」


 そこで見張りをしていた〈爆炎のガルフ〉がため息らしき音を吐き出す。


 そう。彼らは焚火が照らし出す夜闇で刃を交えていたのである。


 ぱちりと爆ぜた炎の向こうでは〈爆呪のヨールディ〉が横になってグーグーと大きないびきを響かせていた。


 ああもぐっすり眠れるのは才能だろう。


 ガイルディアが肩を竦めてみせると、ガルフは再びため息をつく。


「……とりあえず〈爆風〉、お前さん少し力みすぎじゃ。〈爆突〉の力の入れどころを観察するとよかろうて」


「うん? そんなに力が入っていたか?」


「あぁ、それだそれ! お前、こう、土をギュッと踏みすぎなんだ。そうするとここぞってときの踏み込みに力が出せないんだよ!」


「土を踏みすぎる――か」


 ガイディアは少し考える素振りをすると、右足を上げてから草が茂る地面にゆっくりと下ろす。


 確かに、いつでも動けるようにするにはもう少し力の入れ具合を考えたほうがよいかもしれない。


 ラウンダはそんなガイルディアに向けてにやりと笑みを浮かべると、再び槍を構えて腰を落とした。


「ヨォッシ、んじゃあもう一度だ。今日はこれで寝るぞ、全力でかかってこい」


〈爆突のラウンダ〉が得意とするのはその二つ名のとおり強烈な突き。


 腕の延長のように自由自在に動く長槍が、届かないはずの距離を超えて繰り出されるのだ。


 それはひとえにラウンダの体捌きによるものであり、常人じょうじんにはなかなか真似できない卓越した必殺の一撃――。


 ――あれを見切って受け流すこと、それが俺には必要だ。


 ガイルディアはそう思いながら腹の底に力を入れてフーッと息を吐く。


「いくぞ〈爆突〉!」


「受けて立つぜッ!」


 動き出すのは同時だが、まずはガイルディアが右の剣を振り下ろす。


 右足を踏み込んでそれを下から弾き上げたラウンダは勢いそのままに槍の切っ先で円を描き、ピタリとガイルディアに向けて突きを繰り出す。


 今度は左の剣で軌道をずらしたガイルディアが一気にラウンダへと詰め寄ったが――ラウンダの素速さは想像以上だった。


 後方へと重心を移しながら槍を返し、左腕を突き出すようにして石突き(・・・)を前に出す。


「……ち」


 このままで自ら頭を差し出すようなものだ。


 思わず舌を打ち、踏み込んでいた右足でぎゅっと後ろへと地面を蹴ったガイルディアだが――しかし。


「……はははッ! 甘いぜッ!」


 ヒュ、と。


 再び返された槍の切っ先がガイルディアを向き――まるで腕が伸びたかのように、信じられない距離をラウンダの一撃が斬り裂いてくる。


「…………ッ」


 ガイルディアはラウンダの手のひらをすべる槍の柄が力強く握られるその瞬間まで目を逸らさなかった。


 腕が伸びたと感じるのは――彼が柄を握る位置を後方へとずらしているからだ。


 そして鞘に覆われた刃がガイルディアに到達する直前、しっかりと握られた槍は強烈な突きとなって襲いかかる。


 ――ここで足を踏ん張って……腹を捻る――ッ!


 ガイルディアはラウンダのつたない教えを真似ようとしたが……はたして。


「……うぐッ!」


 ガツン、と。額に鈍い衝撃が奔る。


 実際は鈍いと思っただけ(・・・・・)で吹っ飛ばされるほどの一撃だったが……地面を転がったガイルディアは空に瞬く星が視界いっぱいに広がったあとも唇を引き結び考えていた。


 ――くそ。速くて間に合わない。気を付けるのは柄だ、どの程度を残しているのか――そこを見誤らなければ次は間合いが計れるかもしれない。


「おいっ、大丈夫か〈爆風〉」


 そのとき、ガイルディアの上からラウンダがひょいと覗き込んだ。


 ガイルディアは差し出された手を取って上半身を起こすとすぐに口にする。


「――あぁ。次は見切るぞ〈爆突〉」


「んん? ……ふ、言ったな? お前って奴は本当に鍛え甲斐があるぜ! よし、次の目標はお前を最強にすることに決めた。おい〈爆炎〉、いいだろ?」


「ほっ? それをわしに聞くのか〈爆突〉……お前さん、わしが嫌だと言っても聞かないだろうに……。まあ高火力メイジの最高峰はわしじゃからな、それは譲らんよ」


「あっはは! 魔法なんて器用なもん俺と〈爆風〉には使えないからどうでもいいぜ!」


「――ふわあ。なんだか僕だけ出遅れています? 僕にも聞いていいですよ〈爆突〉……いや、反対はしないんですけども。僕は妨害さえできれば満足ですし」


 そこで起きたらしい〈爆呪〉が欠伸を挟みながら言う。


 ラウンダは嬉しそうににやにやと笑みを浮かべると頷きながら言った。


「俺は槍で最強、〈爆風〉はとにかく最強、〈爆炎〉は高火力で最強になって〈爆呪〉は妨害で最強だ。うん、俺たちで伝説でも築いてやろうぜ?」



本日分です。

爆たちのお話!

また、誤字のご指摘などありがとうございます!

反映させていただいております!

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ