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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
605/845

自由と冒険と④

******


 地龍グレイドスを屠りし伝説の〈爆〉は四人。


〈爆突のラウンダ〉は小柄な男で、振るう槍をその太い腕の延長のように自由自在に操ることができ――とにかく強かった。


 髪はツンツンと短い茶髪。眼は翠色でぱっちりと大きく、明るく豪快な性格で〈爆〉の冒険者を纏める存在である。


〈爆呪のヨールディ〉は薄くなった金髪に蒼いたれ目の三十そこそこの男で、敵の足止めや攪乱かくらんの魔法にかなりのこだわりを持った自称『妨害系メイジ』。


〈爆炎のガルフ〉は髭と髪に白髪の混ざった壮年の自称『高火力メイジ』で、真っ黒なだぼついたローブに身を包み、年齢はそんなに高くないであろうに爺さんみたいな話し方をする人物だ。



「〈爆風〉……ようやくだ。ようやくここまで来たぞ、俺たちは……!」



 山のように巨大な『地龍グレイドス』が煙を噴き上げ沈黙する傍らで――〈爆突のラウンダ〉はそう言って自慢の槍を天へと突き上げた。


「――ああ。……これで……」


 空へと広がってゆく煙が目に染みるからだ――と。〈爆風のガイルディア〉はそう自分に言い聞かせ、滲む視界をそのままに唇を噛む。


 込み上げるものが喉を締め付け、それ以上の言葉を紡ぐことができなかったのだ。


「ほっほ――そうじゃの。顔向けができそうじゃ、あのお転婆娘に」


 傍らで笑う〈爆炎のガルフ〉はそんな〈爆風のガイルディア〉の背中を杖でぽんと突いた。


 言わずもがな……もうひとりの〈爆〉であるここにいない彼女――〈爆辣ばくらつのアイナ〉のことを言いたいのだろう。


「彼女ならそれこそ辛辣に『遅かったじゃない!』なんて言いながら……少しは安心した顔で笑ってくれるでしょうね」


〈爆呪のヨールディ〉はどこか寂しそうに微笑んで〈爆風〉の肩に手を触れる。


 同じ気持ちを胸のうちで燃やす〈爆〉の冒険者たちの前で、ガイルディアの頬を転げ落ちた雫はこれが最後だ。


 乱暴な手つきでそれを拭った彼は己の双剣をシャアンッと打ち鳴らし――大声で言った。


「望みは叶えてやったぞ馬鹿アイナ――ッ!」


 ――これで……お前の願いはもうひとつだけだ。


 ガイルディアは深く息を吸い直し、すぐにラウンダに向き直った。


「……おい〈爆突〉」


「ん、おお? なんだ?」


「用は済んだ。次の冒険だ、行くぞ」


「はっ……? いや待てよ〈爆風〉……少しは感傷とやらに浸っても構わないんだぜ?」


「そんな暇があるなら俺は強くなりたい。世界を見て回るのに強さは必要だからな」


 きっぱりと言い切る〈爆風のガイルディア〉に……〈爆突〉は苦笑して槍を背負い直す。


「お前な。そういうところ嫌いじゃないが――よく見ろ。俺もお前も〈爆呪〉も〈爆炎〉も……満身創痍なんだぞ」


「……む」


 言われて初めて〈爆風〉は己の体を見下ろした。


 図体ばかりでかい地龍の放つ強烈な攻撃をかい潜り、堅牢な鱗に護られたその巨躯にたった四人で挑んだ彼らは――それはもう、ぼろぼろだった。


 ラウンダの腹からは血が出ているし、ガイルディアの革鎧には深々とした爪痕が刻まれている。


 よくも死ななかったものだと今更ながらに感じたガイルディアの隣でヨールディが笑ったのはそのときだ。


「少し休憩も必要です――なにせ本当にやったんですよ、僕……たち、は……」


 瞬間、彼は後ろへとひっくり返った。


「〈爆呪〉⁉」


 思わず膝を突いたガイルディアの目の前、焦ったように〈爆呪のヨールディ〉を覗き込んだ〈爆炎のガルフ〉はすすで汚れた白鬚をわしわしと撫でて息を吐く。


「魔力切れじゃな。寝かしておけば回復するじゃろうて。わしもしばらくは撃てん」


「……悪かった。とりあえずひと息つこう」


 眉を寄せて唇をへの字に歪めた〈爆風〉に〈爆突〉が胸を反らして笑った。


「ヨォッシ。こんなでかい素材もあるしな、いい装備も作れるはずだ! 装備だって強くなるのには大事なんだぞ〈爆風〉! んじゃお前たちはここで二、三日見張っといてくれ。町で討伐完了の報告して戻ってくるからなっ!」


******


 ――この数日後にギルドは彼ら〈爆〉を地龍グレイドス討伐の功労者と認定し、その素材の一部を彼らへと渡すことを条件に幸運といえるほどの破格で地龍を買い取った(・・・・・)


 実は彼ら〈爆〉の冒険者は大規模討伐依頼になることを懸念し、自分たちだけで討伐すべく勝手に動いていたのである。


 そのため依頼したわけでもないギルドからしたらてんやわんやな状態で、彼らと素材の扱いには大変苦心したらしい。


 同時に、あとにも先にもこのときだけ出されていた「新人育成」という名の依頼も終了となったそうで、〈爆突のラウンダ〉は改めて〈爆風〉を冒険に誘ったそうだ。


「へぇ、あんたも無謀で向こう見ずだったんだなぁ」


 一度話を止めた〈爆風〉にグランが顎髭を擦りながら言うと、当のオジサマは肩を竦めてみせる。


 ちなみにわんも鍋もとっくに空っぽで、俺が作った夕飯は美味かった。


「若気の至りだ。だがそれもいい――そうだろう〈豪傑〉」


「はっ、当然だ。俺たちは強くなりてぇんだ、まだまだな!」


 ばしんと胸元で拳を突き合わせるグランに、ファルーアが苦笑する。


「まったく。グランは暑苦しいわねぇ」


「えぇー? ファルーアだって十分……あっ、ごめんなさい、消し炭はやめてほしい……」


 突っ込んで妖艶な笑みを浴びたボーザックには密かに同意しながら、俺は続きを促した。



本日分です。

よろしくお願いします!

そういえば〈爆風〉が苦手という読者さんもいらっしゃって、それだけ感情移入して好きと嫌いをはっきりしてくださる方もいるのは嬉しいなと思いました。

いつもありがとうございます。

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