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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ
602/845

自由と冒険と①

逆鱗のハルトⅢ 自由国家カサンドラ編の開始です。

今後とも何卒よろしくお願いします!

******


 太陽が高い位置で輝くよく晴れた空の下、俺は両腕を突き上げて伸びをする。


 欠伸をひとつ挟むと柔らかな風が頬を撫で、鼻先を小さな羽虫が行き過ぎていった。


 広がる平原を蛇行しながら整備された街道はずっと先まで続き、それはそれは順調に進めているんだけど――はぁー、平和だなぁ。


「なんつーか……こうもなにもねぇってのは変な感じだな……」


 同じことを思っていたらしいグランが口にして、俺は思わず笑う。


「ほんとにな。帝都出てから魔物にも会ってないし」


「……なんか俺、体が鈍りそうだよー」


 そう言いながら青空を振り仰いだボーザックは大きくため息を吐き出すと肩を回した。


「はは。若者は元気があっていいな」


 そこで笑ったのは〈爆風のガイルディア〉だ。


 地龍グレイドスを屠りし伝説の〈爆〉の冒険者であり、俺たち〔白薔薇〕の新たな同行者である。


「そんなこと言って……一番元気なのはあなただと思うわ、〈爆風のガイルディア〉」


 呆れた声でこぼすファルーアの隣ではディティアが頷きながらくすくすと笑う。


 ――アルヴィア帝国帝都を出発した俺たちは自由国家カサンドラへと向かうために北東へと進路を取っていた。


 出発までの数日はなんだかんだせわしなく動き回っていたからな……帝都を出てからすでに三日が経ったいま、体が鈍りそうだっていうボーザックの気持ちはよくわかる。


「まぁ、少し刺激が欲しいところではあるよな」


 だから俺が口にすると〈爆風〉は顎のあたりに手を当てて少し考える素振りを見せた。


 ……そして。


「……ふむ、それなら少し遊びに付き合わないか〔白薔薇〕」


「!」


 放たれた言葉に俺は思わず息を呑む。


 遊びと称して殺気を感じる訓練を行ったのがもう遠い昔みたいに思えるけど……痛かったんだよなぁ、あれ。


「遊び? なになにー?」


 食い付いたのはボーザックだ。……いや、口にはしていないけどディティアも嬉しそうだな。


〈爆風〉は訝しげなグランとファルーアにも目配せしてからにやりと笑みを浮かべた。


「なに、鍛えてやろうと思ってな。目を閉じろ、と言ったら瞼を下ろして三つ数えろ。それから俺を捜して触れるだけだ。全員が俺に触れられたら合図をする。最後まで俺に触れられなかった奴が夕食当番なんていうのはどうだ?」


「夕食当番ね……」


 俺はそう応えて眉をひそめる。


 料理は大体交代でやっていて、皆それなりにできるんだよな。


 だからまあ、いいといえばいいんだけど……。


 俺はうーんと唸ってから口を開いた。


「〈爆風〉、それ気配を感じる遊び(・・)なんだろ? それだと結構毎回同じ人が……」


「いいわ、やりましょう〈爆風のガイルディア〉」


「えっ」


 俺の言葉に被せるように言ったのはファルーアだ。


 彼女は太陽の下で艶めく金髪をさらりと払うと、驚いて視線を向けた俺に苦笑してみせる。


「気配を感じるのは私が一番苦手だもの。強くなれるのなら夕飯くらいなら引き受けるわ」


「俺も苦手だからな。付き合うぞファルーア」


 顎髭を擦りながらグランも同意する。


「はは。だそうだ、どうする〈逆鱗〉?」


 そう〈爆風〉に笑われれば……俺に選択肢なんかない。


「勿論、それなら文句ない。俺も気配を読むのは得意じゃないし……」


「では試してみるとしよう。目を閉じろ」


 俺は渋くていい声にゆっくりと瞼を下ろした。


******


「ガイルディアさんも一緒にきてくれるの?」


 当然といえば当然なんだけど、ディティアは〈爆風〉と旅できることを知るとぱっと頬を綻ばせた。


 俺が笑うと彼女は慌てたように頬を押さえたけど、別に隠すことじゃない。


「俺も驚いたよ。でもこれで――」


 ――もっと強くなれる。


 そう続けようとして言葉を止めると、ディティアはぱちぱちと瞼を瞬いた。


「……これで?」


「……ああ、いや……たくさん稽古もつけてもらえるな、と思ってさ」


「あ……うん! 双剣もたっぷり磨かないとね」


「ん、それはお手柔らかにしてほしいかな……」


 にこにこと笑う彼女を微笑ましく思いながら応え、俺はそっと自身の右手を握った。


 俺たちには自由がある。世界にはまだ見ぬ冒険がある。


 ……そうだよな。強くなるんだ。ディティアのため――〔白薔薇〕のため、もっと、もっと。


 

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