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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アルヴィア帝国
601/845

始まりの終わり⑦

 グランの後ろにいるのはウィルヘイムアルヴィア皇帝その人だ。


 俺は座ったままで彼らを見上げ、困惑に眉を寄せた。


 ――勧誘……っていうか、俺……。


 なんて言おうとしていたかなんて自分でもよくわからないし、混乱もするだろ。


 ただもっと学ばないとって、努力しないとって……そう感じたんだ。だから……えぇと。


 けれどグランはにやりと笑みを浮かべつつ顎髭をじっくりと擦り、同じく座ったままの〈爆風〉を見下ろした。


「そんなわけでどうだ〈爆風のガイルディア〉、しばらく俺たち〔白薔薇〕と行く気はねぇか?」


「……は?」


 聞き返したのは勿論、俺。


 いや、だって……なに言ってるんだグラン?


「そんな驚くことじゃねぇぞハルト。ファルーアとボーザックとは話し済みだ。お前とディティアは言わずもがなだろうよ。――ま、強くなりたいのはお前だけじゃねぇってことだ!」


「え、は?」


 話し済み? いつ?


 ぽかんと口を開けると、ウィルがくっくと喉の奥を震わせた。


「薬の件は自由国家カサンドラと交渉済でな。血がなくともなんとかできそうだ。〈豪傑のグラン〉が〈爆風のガイルディア〉を貸せと直談判しにきたし、俺としては好きにしろといったところか」


「……模擬戦でも俺たちの力不足は明らかだった。この先に災厄みてぇな魔物がいないとも限らねぇのに、強くなろうにも冒険者養成学校と違って授業で習うってこともねぇ。――なら強い奴から教わる必要があるだろうよ」


 言い募るグランに俺はますます眉を寄せる。


 いや、そうだけど……〔白薔薇〕に〈爆風〉を勧誘って……。


 なんだかこう、むず痒さを感じるというか。


 彼が伝説の爆だから、とか――そういうのとも違う不思議な感覚がある。


 確かに一緒に冒険してみたいと思ったんだけど……そっか。俺がそういう考えに至れてなかっただけ……学びたいなら一緒に来てもらえって話だったんだ。


 グランはそこで深く腰を折り、きっぱりと告げた。


「――無理強いはしない。ただ望む。俺たちは強くなりたい」


「…………確かに熱烈な勧誘だな〈豪傑〉」


〈爆風のガイルディア〉は珍しく苦笑すると、少し考える素振りを見せた。


「――ウィルもそう言うのなら付いていくことに問題はない。俺としても『世界を見る』のは望むことだからな。ただ……」


「ただ?」


 思わず、身を乗り出す。


〈爆風〉はそこで「はは」と楽しそうに笑うと続けた。


「条件がある。主導権はお前たち〔白薔薇〕が持て。ただし従うかは俺が決める」


「……つまり一緒に行ってくれるってことだな?」


 グランが言いながら顔を上げて体勢を整えるけど、俺は反対にぐったりと力が抜けてしまった。


「……はあ……」


「あれー? もしかしてもう話終わっちゃったー?」


 そこにやってきたのはボーザックだ。


 彼は大剣の柄を右手で握りながら唇の端を吊り上げている。


 ……濃紺に変わっていく空の下、彼が背負う大剣が白く浮かび上がっていた。


「おうよ。いま了解をもらったところだ」


 グランが頷くと、ボーザックは大剣の柄から手を放して拳を作りグランと叩き合わせる。


「さっすがグラン! ……へへ、よかった。よろしく〈爆風のガイルディア〉!」


「……っていうかさ、グランもボーザックもいつの間にそんな話してたんだよ?」


 思わずぼやくと、彼らは首を捻った。


「そういやいつだ?」


「んー。たぶん皆でカタン行った日の訓練のあとじゃない?」


「はあ? それもう六日前だろ……なんで言ってくれないんだよ……」


 盛大に不満をぶちまけると、ボーザックはにやにやしながら俺の肩を拳でトンと突いた。


「あっは! ごめんごめん。なんでだろう……きっとハルトが一番そう思ってる気がしたんだよね!」


「答えになってないだろ……」


 唇を尖らせるけど、屈託のない笑顔につられて口元が緩む。


 ――そっか。これからもっと学べるんだな。


 俺はそこで〈爆風〉に視線を移し、右手の拳を突き出した。


「頼んだからな〈爆風〉!」


「――ふ。俺は甘くないぞ?」


 彼はそう言って俺の拳に自分の拳を打ち合わせる。


「よくわからんが、お前たちは仲がいいな『冒険者』」


 そんな俺たちに向かって、黙って聞いてくれていたウィルが細い眉尻を下げておかしそうに笑った。


******


 ――まあ、そんなわけで。


 俺たちは〈爆風のガイルディア〉という伝説の爆の冒険者の助力を得ることに成功した。


 ディティアが聞いたらどんな顔をするだろうな。


 ……花が咲いたような笑顔で喜ぶかもしれない。


 ここはまだ始まり。その終わりに差し掛かったばかり。


 すっかり暮れた空に浮かぶ月が、行く先を明るく照らし出す。


 ――よし、まずは自由国家カサンドラだ!


 俺はひとり意気込んで、ぎゅっと拳を握り締めるのだった。


これにてアルヴィア帝国編は終了となります。

次は自由国家カサンドラへと舵を取ります。

続きはこちらで更新し、このあと「逆鱗のハルトⅢ」の別URL分は完結へと変更予定。

よかったらブクマ・評価などなどお待ちしております!

書籍には書き下ろしも収録されていますのでよかったらどうぞ。


引き続きよろしくお願いいたします。


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