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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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まだまだ弱いので。②

ボーザックによる、飛龍タイラント討伐の話は大成功の内に幕を下ろした。

感謝され、もみくちゃにされ、俺達白薔薇はまるで英雄扱い。


何だか素直に受け取ることも出来なくて、かといって無下にするなんてとんでもないし。


心の中に渦巻く葛藤に、うまく笑えていたかも怪しかった。


******


その夜。

宿から出て、俺はひとりぶらぶらと街を歩いていた。


ちょっとした散歩気分だったんだけど。


「ハルト君」

「うん?…ディティア?どうした?」

呼ばれて振り返ると、喧騒の中、濃茶の髪のディティアがエメラルドグリーンの眼を細めて、俺を見ていた。

「ちょっと付き合ってほしくて追い掛けてきたの」

「……?」

ディティアはにこにこしながら、俺を引っ張る。

まあ、やることがあったわけじゃないからいいか。


俺は、引かれるがままに付いていくことにした。


やがて、街はずれにやって来た。

広場というか、空き地のような場所だ。

人の姿も無い。

ゴロゴロと岩が転がっていて、乾いた地面にちらほら草が生えている。


「うん、この辺ならいいかな?」

「どうしたんだ?」

「……すぅー…はぁー。ようし、ハルト君!」


シャァンッ


!?


ディティアが双剣を抜き放つ。

俺はびっくりして後退った。

「え、な、何?」

彼女の眼は、疾風と呼ばれる時のそれ。

俺は、息を呑んだ。


「勝負しましょう、逆鱗」


ゆるりと構える彼女に、思わず首を振る。

「ええっ、ど、どうしたんだよいきなり」

「抜いて。行くよ。……バフもかけ放題ね!」


言葉通り。

彼女は俺に向かって踏み切った。


慌てて剣を抜く。


ガッ


「ディティア!?どうしたんだよ!?」

「いいから!」


俺は必死になって受け止めた。

けれど、段々と剣に集中するしかなくなって、遂には観念して戦うことを決める。

別に怪我させようってわけじゃないのは、彼女の太刀筋からわかるから。


俺は、速さアップと肉体強化をどっちも二重にして、迎え撃つ。

「ふっ」

「左が甘いよ」

「っく、うわっ」


は、速い!


速さアップをかけても俺はこの速度なのに。

……くっそ!


速さアップをもう一回かける。


これで五重にかけたことになるけど、知ったことか!

彼女は強い。

そんなことは知ってるけど、でも。

少しでも追い付きたい。


やけくそだった。


身体をひねり双剣を交わし、左手を振りかぶる。

空いた左側に襲い来るディティアの剣を右でいなして、左手を振り下ろすけど、彼女は回りながら避けて右から剣を繰り出してくる。


本当に、風。


鋭い疾風が、吹き抜けていく。


俺は何度も打ち合い、地面に転がされた。




結局、俺は彼女から1本も取れずに、地面に転がったまま起き上がれなくなった。

腕が上がらないし、身体もしばらく動かせなさそうだ。

バフも切れてしまった。


「あーーーー、くそーー!!」

思わず叫ぶ。


夜の空気に、声が溶けていった。

悔しいな……。


ディティアも息は上がってるけど、余裕が感じられる。

転がった俺の横に立つと、彼女は双剣を収めた。


「ふぅー……お手並み拝見致しました、逆鱗」


「完敗にも程があるだろ…疾風のディティア。…俺、常にバフ五重だったんだぞ」


彼女は、ふ、と笑った。


「私は、双剣しかないもん。負けられないよ」

「……あー…俺、弱いな」

「ううん。最後の速度アップ五重はほとんど追いつかれてた…正直、あんな速いと思わなかったよ」

「でも追いつけない」

「……私ね、ハルト君」

「……うん」

「自分でね、強くなったって、思ってるの。2つ名をもらったあの日、倒せなかったミノスもね、今なら5体だって相手に出来ると思ってるんだよ」

「いや、本当強いよ。さすが疾風……それに比べて俺は」

「あの時、私もそう思ったんだ」

「え?」

「強くなりたいって。悔しかったの。だから、頑張ってたつもりだった。…結局、仲間も失ってしまったんだけど」


……。


俺は、ディティアを見上げた。

彼女は、しっかりと俺を見ていた。


「その時も、悔しくて情けなくて自分を呪った。でもハルト君は…一緒に有名になるって言ってくれた」

「……うん」

「その強さに、私は憧れる。……共に歩む仲間でいたい。だからさ、一緒に強くなりませんか、逆鱗のハルト。今は弱くても、もっと強くなれる。ハルト君も、私も」


そっと手が差し出される。

悔しいことに、完全に見透かされていたのだ。


彼女は、俺の背中を押すために追い掛けてきたんだな…。


「…ディティア」

俺は、その手を取りたくて、取ろうとして…気付いた。


「うん、悪い。バフかけ過ぎて、腕が動かせなくなってる、はは…」


「………、ええーーーっ!?ちょ、ちょっとハルト君、私、結構頑張ったっていうかっ、感動的なシーンを演出したような気がするんだけど!」

夜でも分かるほど赤くなった彼女に、俺は情けない格好のまま、笑いかけた。

「いつか、疾風を追い抜くから待ってて」

「ーーーーっ!もーー!感動的な台詞なのにその体勢って!ハルト君の馬鹿ーーー!!」


結局、ディティアは俺を運ぶのを断念して、宿からグランを連れてきた。


「……だいたい聞いたが…しまらねぇなあ、おい、逆鱗のハルト」

「何とでも言ってくれー、もうほんと身体中ちぎれそうだーー」

俺がやけくそになって言うと、グランは笑った。

「おお、効果抜群だな!何をくよくよしてんだよと思ってたぞハルト」

「そ、それはっ……悪かったよ」

俺に肩を貸しながら、グランは続けた。


「まだまだ、こっからだぞ俺達は」


俺は、何とか頷くことには成功したのだった。


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