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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
6/843

逆鱗とやらに触れたので。②

ギルドはきっちり3日で人数を揃えた。

総勢15組、80人が討伐に参加する。


討伐には2チームに分かれて当たることになる。

海側の道を塞ぐメイジをメインとする部隊と、主にドラゴンと戦う主力部隊の2チームだ。


今回の討伐は洞窟内で行われる。

飛龍の武器である飛行を防ぐのが狙いだった。


しかし、懸念はある。

地震によって地盤が不安定で、その中で戦うには洞窟の崩壊が起こるのではないかという点。

逃げ場の無い広場での、ドラゴンブレスによる死傷が想定される点だ。


「ブレスに関しては自分も巻き込まれる可能性があるため、タイラントも使いにくいと思われます。崩落に関しては、先の地震で地盤の弱いところは大体が崩れていると祈ってください」

これがギルドの見解だ。

説明の中で、かなりの被害を出した大規模討伐依頼の件にも触れられた。

「まずは自身の身の安全を最優先してください。まずいと思ったら即逃げて構いません」

どうしようもないことだって、ある。

俺達は改めて、大規模討伐依頼の高いリスクについて説明を受けた。

誰も死なない、完璧な討伐にしたい。

ディティアのためにも、俺は密かに決意するのだった。


そして。

そいつは現れた。


「やあ、逆鱗のハルト君」

「…は、はあ?」

俺と白薔薇のメンバーは立ち止まって、ぽかんとそいつを見た。

きっと、相当な間抜け顔をしてたはずだ。

「先日は失礼したね。あそこまで敵意に満ちた言葉は久しぶりだった。敬意を表するよ」

な、なんだ、こいつ…。

颯爽と現れたのはもちろん閃光のシュヴァリエ。

後ろには3人の冒険者が控えていた。

「逆鱗のハルト君、それと白薔薇の皆に、僕のパーティーメンバーを紹介しようと思ってね」

「いや、ちょっと、ちょっと待って。まずその、逆鱗ってのは何だよ」

「ああ!君の2つ名の代わりにと思ってね!気に入ってくれるかな?」

「いやいやいや、何の嫌味だよ!?」

何故か楽しそうなシュヴァリエは、ぽんと手を打った。

「2つ名は、2つ名を持つ者が認めた相手に付けることができる。それは知っているかい?」

「え、そうなの…?」

「そうなのだよ!つまり!僕は君に2つ名を付けてもいいかなと思っている。それは今回の討伐で見極めるけどね。ただ、僕にあれ程の言葉を投げてきたあたり、君は素晴らしいと思っているんだ。だから、それを見極めるまでは君は逆鱗のハルト君ということにしようと思う」

俺はげんなりして、ディティアを振り返った。

(え、2つ名って、そういう制度なの…?)

(う、うん。ハルト君、知らなかったの…?)

うわあ、知らなかったわ。

「シュヴァリエ…」

「なんだい、逆鱗の。閃光の、を付けてくれてもいいよ」

「うわあ…やめてくれよ、俺の名付け親みたいなこと言うの…」

本音がだだ漏れる。

すると、堪えきれなかったのかシュヴァリエの後ろに居た男が笑い出した。

「ぶはっ、ははっ、わ、悪いなあ坊主。こ、こいつ、本気でそういうことするから、ひ、ひはは、ちょっと可哀想だけど、適当に流しといてくれよ」

グランにも負けず劣らずのいかつい男だった。

残念ながら俺はそいつの2つ名を知らないが。

黒髪黒眼はボーザックと同じ。というか、全体的に顔つきとかが似ている気がする。

巨体の割に、持っているのはとげとげしい杖なのが違和感しかない。

もしかしてメイジなのか?

「いや、本当に辞めて貰いたいんだけど…どうしたらいいんだこれ」

俺が助けを求めて振り返ると、グランもボーザックも視線を逸らした。

「……ファルーア…」

「ごめんなさいハルト。ここまでぶっ飛んだ奴は初めて見たから、私には無理よ」

「………」

ディティアを見る。

「あっ、あーっ!祝福のアイザックさん、久しぶりですねえ!」

「おー、疾風の。元気してたか?…その件は辛かったな。本当にすまなかった」

ええ……。

あからさまに逃げる彼女。

そして祝福の、と呼ばれた、いかついとげとげ杖。

俺はどうしたらいいんだろうか。

呆然としていると、シュヴァリエがさっと手を挙げた。

「さあさあ!白薔薇の諸君。我がグロリアスのメンバー紹介といこう!」

大規模討伐依頼に参加する、しないに関わらず、周りの冒険者達が興味津々、かつ遠巻きに見ているのを感じた。


…ある意味、相当な注目度だった。


******


グロリアスは閃光のシュヴァリエを筆頭に、4人で構成されている。


前衛、ロングソード、閃光のシュヴァリエ。

説明は割愛。


前衛、長槍、迅雷のナーガ。

長めの黒髪を後ろで束ねたスタイルのいい女性。

ちょっと恐そうな紅いつり目で、何処かの民族衣装を着ていた。

左肩から斜めに太い布がかけてあり、ベルトに結んである。

すごく無口だった。


後衛、杖??、祝福のアイザック。

黒髪黒眼、いかつい巨躯。

聞けばヒーラーだと言うが、この見た目でそれは反則な気がする。

唯一、袖の無いローブが黒かったのだけは評価したい。

これで白だったらちょっと引いていた。

ちなみに、どう見てもボーザックと似ているので2人に聞いてみたら、遠い親戚だったことが判明して盛り上がった。


後衛、メイジ、爆炎のガルフ。

最年長に見える、お爺ちゃんメイジ。

だぼついた黒いローブに、たっぷりの白髭。

グランが髭について相談していたのを後で見かけた。


……と、まあこんな感じで、思ったよりいい奴等だった。

リーダーがぶっ飛んでいるので、よりそう感じるのかもしれない。

ディティアに聞くと、仲間を亡くした討伐で、瀕死の仲間にアイザックが必死に治癒を施してくれたそうだ。

…シュヴァリエはともかく、確かにいいパーティーなのかもしれない。

かといって、ここに彼女をいさせるつもりは無いけど。


「逆鱗の。良かったらこの僕が他の皆にも2つ名を付けようか、この討伐で相応の活躍をしたらだが」

「謹んでお断りします」

ファルーアが即答する。

俺は敢えて無視をして、ギルド員に出発を促した。


******


お目当ての洞窟に辿り着いた2日後。

中にはまだ飛龍タイラントがいることが確認された。

念のため距離を取り、一晩キャンプをしてから討伐が開始される。

俺は白薔薇のメンバーと最終的な打ち合わせをしていた。

今回の討伐で、ファルーアは海側の通路を塞ぐメンバーになっているが、メイジ達も様子を見ながら魔法を撃っていいそうだ。

また、万が一ブレスが来た場合、ありったけの氷魔法で仲間を守るのも仕事である。

「様子見て威力に変えるから。それまでは持久力のバフにするな」

「ええ。お願いするわ」

自分がバッファーであることは、既にグロリアスには伝えた。

彼等にはバッファーがいないので、当たり障りない程度に俺が受け持つことになっている。

グロリアスへの重ねがけは様子を見てからにしようと、白薔薇内で決めてあった。

「さあて、どれだけ行けるか…」

グランはやる気に満ち溢れている。

俺はそんなグランに、ふと、質問を投げた。

「ずっと気になってたんだけど、グランは有名になりたかったのか?」

「あ?…そうさなあ、旅してて当たり障り無くやってるのも好きだけどな。…この歳になって、ちょっと名を馳せてみたいと思い始めたのもある」

「ふうん、何で?」

「何だろうな、いろんな場所見てきて、何処かに俺の生きた証みたいなのを残したいと思ったからか」

「わー、グラン格好いいこと言うね」

ボーザックが笑うと、グランがお前はどうなんだとボーザックに投げた。

「俺?俺は……注目されてみたかったからかな。ほら、俺は小さいし、あんまり目立てなくて。ティアの戦い方見てからずっと、有名になったら俺でもこんな注目浴びられるのかなあって」

「え、わ、私??」

「そうそう。やっぱ格好いいからさーティア」

「わ、私はそんな。…あっ、ファルーアは?どうして?」

照れたのかファルーアに投げるディティアだったけど、ファルーアは俺を見て、少し笑った。

「秘密よ。ハルトと2人だけのね」

「うわー、俺に投げる?それ?」

俺が呆れると、ボーザックがからからと笑った。

「ハルトの理由、すごくわかりやすいよね!」


こうして、夜は更けていく。


******


俺達が突入した時、飛龍タイラントは気配を感じていたのか身体を起こしていた。

長い首、ズラリと並ぶ牙。

鼻の上には白い角が伸びていた。

洞窟内を光の魔法で照らし、その全貌が明らかになると、流石に身体が冷たくなった。

でかい。

紅い鱗が魔法を反射して鈍く光る。

金の眼は獲物を狙う捕食者そのものだった。


「それじゃあ行くとしようか、逆鱗の。期待しているよ?」

「だからそれ辞めろって。いくぞ、肉体強化!」

俺はグロリアスのメンバーにもそれぞれバフをかけた。


先陣を切ったのは閃光のシュヴァリエ。

少し遅れて続いたのはグランとボーザックだった。


『ギシャアァァーーーッ』


飛龍タイラントの咆吼。

びりびりと鼓膜が震える。

斬り掛かるシュヴァリエの横から前脚の爪が迫り、グランの大盾がそれを弾き返した。

「おおおっ」

グランはそのまま一歩踏み込むと、前脚を盾でぶん殴る。

「はっ!」

閃光のシュヴァリエは、タイラントの顔辺りにロングソードを叩きつけたが、表面が少し傷付いただけだった。

一旦下がってきたシュヴァリエは、わざわざこっちに声を掛けてくる。

「ふむ、逆鱗の。さすがバフがあると力が出るね」

いちいちいけ好かない奴だ。

「さっさと行けよシュヴァリエ」


その間、二重バフのグラン、ボーザックが他の前衛と一緒にタイラントに詰め寄る。

その巨躯の後ろで長い尻尾が揺れた。

「尻尾だ!来るぞ!」

俺は声を掛け、グラン、ボーザックに肉体硬化のバフを重ねる。

既に肉体強化を二重バフしていたため、今ので三重だ。

近くにいた数人にも同じ硬化のバフをかけたが、さすがに数が多すぎて間に合わない。


ズォォンッ


唸る空気。

グランが盾で、ボーザックが大剣で尻尾を受け止めるが、流石に弾かれた。

何人かの前衛が巻き込まれたが、戦えない程の傷を負った者はいない。

「次が来るぞ!」

首がしなる。

一人、身体を起こしかけた前衛が眼を見開く。

「はあぁーっ!!」

そこに舞ったのは、疾風。

彼女は首の動きに合わせて跳ね上がり、前衛が噛み砕かれる前にタイラントの鼻先を切り裂いた。

そこにすかさず爆発が起こる。

…ファルーアだ!


『ギシャアァァーー!!』


タイラントが驚いたのか首をもたげ、鳴いた。

その眼はディティアを追っている。


「そこの前衛下がれ!」

俺は反応速度上昇のバフを投げて、怒鳴った。

身体を起こしきった前衛が、立て直しのために下がろうとする。

「うおぉっらあーー!!」

撤退をカバーすべく、グランが盾で前脚を再度殴って、ボーザックが引いた前脚の指先に、大剣を、振り下ろす。

「中々どうして…やるじゃないか」

回復のために主力部隊に組み込まれている祝福のアイザックが、後方で感心している。

「はいはい、そりゃどうも……っ、肉体硬化!肉体強化!」

俺はグランとボーザックのバフを重ねたり上書きしたりして三重を保つ。

「へえ、逆鱗の。お前、すげーバフ出来るんだな。…それ、重ねてるだろ?」

さらに言葉を重ねてくるので、俺は双剣を構えたまま黙っててくれと手を振った。


15分、いや、20分は戦っただろうか。


飛龍タイラントの身体には細い傷跡が幾重にも刻まれた。

しかし、どれも大きなダメージでは無さそうだ。

いい加減うざったくなったのか、タイラントが翼を広げた。


「来るぞ!外に出すな!撃ち落とせ!!」

メイジ達の指揮を執るのは白髭。

爆炎のガルフだ。

俺はファルーアに威力アップのバフを二重に、白髭と、その周りの何人かにも威力アップのバフをかけた。

飛び立つために、メイジ達に向けて助走をとるタイラント。

その位置は中衛の俺から見て左側だ。

「今じゃあ!撃てーーーー!!」

爺さんとは思えぬ肺活量で叫び、そのロッドからまさに爆炎が放たれる。

「うわっ、熱ッ!!」

灼熱。

俺は一瞬顔を覆った。

熱風が洞窟内をすさまじい勢いで抜けていく。


…タイラントはっ…!!


飛龍は、出鼻を挫かれてぶすぶすと煙を上げていた。

こっちに身体の左側面を曝して、地に這っている。


しかし、その翼が力強くバサァッと羽ばたかれた。


『グルルル……』


タイラントは怒っていた。

眼を爛々と光らせて、尻尾を不機嫌そうに揺らす。

洩れる唸り声に、背筋が冷たくなった。

あれだけの魔法で、まだ大ダメージにならないのか?


「行きます」


その時、はっきりした声を聞いた。

キィンッ

耳鳴りのような高い音と共に、飛龍タイラントの尻尾から背中、果ては頭まで駆けていく、女性。

結ばれた長い髪が背でなびく。


「ハ、ァッ!!」


ザンッ…!!


迅雷のナーガ。

彼女の長槍は、タイラントの左眼を貫いた。


『ギャアアオオオオウウッッ』


あまりの痛みだったのか、首を左右に激しく振るタイラント。

メイジ達の何人かが巻き込まれ、初めてアイザックが動いた。

「威力アップ!」

俺は咄嗟にアイザックに2つ目のバフをかける。

「任せとけ」

すれ違いざまに、拳を突き合わせた。

何かが、通じた気がした。


踏鞴を踏んで後退するタイラント。

待ち構えていた前衛達が再度攻め始めて、俺は気が付いた。

恐らくは、メイジ達の一撃が当たった箇所。

首の付け根あたりに、酷い裂傷が見える。

「あそこだ…!グランッ、ボーザック!」

「おうっ、やってやる!」

「行くよーーッ!」

あそこを狙うには、1度タイラントを跪かせなければならない。

俺はグランの肉体強化を三重にした。

「ディティア!注意を引き付けてグランに!」

ディティアには速度アップを三重。

彼女は瞬時に理解して、タイラントの目の前に躍り出た。

「さあ!勝負よ!」

タイラントはひとつ嘶くと、ディティアに向かって首を振り下ろした。

「うおおおおお!!」

そこに、待ってましたとばかりに大盾が飛び出す。

グランが狙ったのは、鼻の上、角だった。

「やられちまえぇーーーッ!!」


ガッ、キィーーーーンッ!


重い音だった。

自分の振り下ろした首の勢いと、グランの肉体強化による一撃の勢いで、角は。


折れた。

根元から。


ぐらりとタイラントの体勢が崩れる。

前脚が折れ、裂傷が届く位置に下がった。


「ボーザックーーー!!」

グランの咆吼。

肉体強化二重と速度アップのバフのボーザックが、大剣を構えて突っ込む。

「もらっ、たあぁぁーーー!!」


ドシュウッ!!


貫いた箇所から、ごぼりと血が溢れる。

「や、やった…!」

「だめ!まだ!!」

ディティアの声。

はっとした。

崩れ落ちるのを踏み止まったタイラントの口から、オレンジ色の炎が吹き上がった。

「ブレスだ!!」

誰かが、声を上げる。

メイジ達の杖が光る。


「やれやれ」

その時、どこにいたのかシュヴァリエが隣に立った。

「惜しかったね、逆鱗の。安心してくれ。最後は僕がいただこう」


その時。

俺の中で、主にこめかみの辺りで、ブチッと音がした。


「ふざけんなよ…?逆鱗だかなんだか知らねえけど!!お前が俺の逆鱗とやらに触れたことだけは認めてやるよ!!」


速度アップ、速度アップ、速度アップ、速度アップ、速度アップ。


ぶち切れた俺は全身全霊をかけてバフを重ねた。

既にロングソードを構えて走り出したそいつを、瞬時に追い抜いてやる。

「グラン!!」

声を張り上げると、グランが盾を構えた。


「こいつは!俺達、白薔薇がっ……もらっ、たあぁぁーーー!!」


そのスピードのまま、グランの盾に突っ込む。

グランは盾で俺を押し出し、跳ね上げる。


「肉体強化!肉体強化!肉体強化!」

双剣を、振りかぶる。


「肉体強化、肉体強化ぁっ!!」


到達点から、タイラントの口が開こうとしているのが見えた。


「うおおおおーーー!させるかあぁぁーーーーっ!」



ドゴオオーーンッッ!!



振り下ろした双剣が、タイラントの開きかけた口を上から無理やり閉ざし、その勢いのまま地面に叩きつける。

その瞬間、吐き出されようとしていたブレスが口の中で炸裂し、俺は吹っ飛んだ。


「ハルト!」

「ハルト君!!」


情けない。

情けないけど、仕方ない。


意識も、飛んでしまった。


続きは順次投稿します。


今のところ目標は1日1話。


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