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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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神は何処にいますか。②

「ぐるる、がう、がう」

「あおん」


何やらフェンと狼達の話し合いが始まってしまった。

…けどこれ、迂闊に動けないしなあ。


剣を構えたまま、俺達は待つしか無かった。


やがて。

「ガウガウガウ」

狼達が鳴き出した。

同じ鳴き方で、何度も。


すると。

「隠れてた人達がこっちにくる」

ボーザックが伝えてくれる。


岩場から、ゆっくりと出てくる人達は20人程。

全員男だったんで、たぶん狩りの途中だったんだろう。

ペイントが、灰色やベージュで身体中に施されていて、なるほど、上手く擬態されている。

手には槍や弓を携えていて、服装は…厚手の毛皮を縫い合わせたものに見えた。

この民族の衣装なのかも。


「…」

俺達も、相手も、油断なくお互いを観察する。


やがて。


「オレ達、神、探してる。フェンリル、神、知ってる言う」


おお…カタコトだ!


1番偉そうな…羽冠の男が話し掛けてきた。

羽は赤や青、白色で、綺麗に並べて飾られている。


とりあえず、戦いにはならなそうだな。

よかった。


そこに、グランが怪訝そうな顔で聞き返す。

「神?…どんな神だ?」

羽冠の男は、槍をとんとんしながら頷くと、答えてくれた。

「神、白い。フェンリル、似てる。暫く前、いなくなった」

フェンリルに似た白い……神様??

俺達は顔を見合わせた。


それってもしかして??


「神、2匹、おーけー?」

ボーザックが、何故かカタコトで返す。

羽冠の男がぱっと表情を明るくして、槍をぐるんぐるんして見せた。

「そう!おまえ、知ってる、神」

周りの男達もそれぞれ武器を打ち鳴らして、歓喜?を伝えてくる。


はー、なるほどー。


「神、何処にいる。オレ達、知る。おまえ、もてなす」

「……ど、どうする?」

「あー、とりあえず、移動しないか?」


こんな、登山道の目立つ場所で話したくないとグランが言った。

うん、確かに。

わさわさしている狼達と、岩場の上で堂々と見下ろすフェンリル。

それを囲む冒険者の俺達と、民族衣装の男達。


俺だったら関わりたくない。


そんなわけで、俺達はこの民族…部族?の集落へと案内された。


「おおーすげー」

ボーザックが歓声を上げる。

確かに、そこはすごかった。


崖のようになった岩場に幾つもの穴が開いていて、窓みたいなものもある。

上の方からは煙が出ている穴もあって、煙突みたいになってるんだろう。


入口とおぼしき穴には毛皮の垂れ幕が下がり、たぶん家庭毎に家があるんじゃないかな。

広場のようになった所には、丸太を削って羽で飾った何かのオブジェ?が並んでいた。


興味深そうに俺達を覗く人影があちこちにある。

眼が合いそうになると、さっと隠れてしまった。


「長老、こっち」


羽冠の男の案内に付いていく。

俺達の前を、フェンが堂々と歩いているのを見るに…私の方が偉いのよ!って思ってる気がする。


俺達、付き人みたいだもんなぁ。


一際派手な垂れ幕の家に着くと、羽冠の男は聞いたこと無い言葉で中に話し掛けた。

「あろうる、うらら、どどんと」


(どどんとっ)

ボーザックがささやく。

俺は笑いそうになるのを堪えて、ボーザックの踵を蹴飛ばした。

(馬鹿、やめろよな)


「かく、のらうの、どどんと」


(どどんとっ)

(だからやめろって…)


ちらっと見たら、あーあ。

ディティアが口元を押さえて震えている。


どうやら了解が取れたらしく、俺達は中に通された。


「わあ……」

「ほお、こりゃすげえな」

ディティアとグランが声を上げる。

笑いが治まったようで何よりだ。


中は、相当広かった。

どうやって掘ったのか、広い空間は天井も高い。

上の方の窓からは、光も入ってくる。

…雨降ったらどうすんだろ。


そして、その空間の1番奥。

魔物だったのであろう毛皮の上に座す、お爺さん。

如何にも古めかしい顔立ちで、着ているものも装飾品も豪華だ。

ただ、白髪はふっさふさで、頭の後ろで1つに結ってあった。


言葉は通じないんだろうなぁ。

さぞや話が難航しそうに思った、その時だった。


「遠いところ悪かったの、ささ、座りなされ」

「!?」

「あら、話せるのね」

「お邪魔しますー」

グラン、ボーザックと一緒にびびってしまった俺と、順応した女性陣。

長老はほほっと笑って、俺達にお茶を用意するよう指示を出す。

「さて、儂はこの部族の長をしておる。長老と呼んでおくれ」

用意された毛皮にそれぞれ腰を下ろすと、長老の後ろに羽冠の男が控えた。

「儂らの部族ではファインウルフを神としてあがめていてな。この一帯に住んでいた群れと共に、時を過ごしてきたんじゃ。しかし、最後の二頭がいなくなってしまってのう…」

「がう」

「おお、おお、若いフェンリルじゃの。おまえさんも素晴らしい。じゃが、儂らは真っ白な彼等を潔白の証としておったのでな。気を悪くせんでおくれ」

長老はフェンに頭をさげる。

驚いたのか、フェンが俺を振り返った。


いや、こっち見られても…。


「ところで、神は何処におるのじゃの?」

俺達は、固まった。


お菓子屋で売り子してますーとか言っていいものなんだろうか?


すると、ファルーアがすまし顔で繋いでくれた。

「その前に…潔白の証って、何に潔白を証明したいのかしら?」

長老は「おお、急いてすまないの」と笑った。

そこにお茶が運ばれてくる。

酸味のある、すっきり飲みやすいお茶だ。

俺は預かっていたお菓子を出した。

「これ、お茶と一緒に」

上手く、ファインウルフ達が素晴らしいことをなさってる!って方向に導ければいいんだけどなぁ、とか打算もあったけどさ。

「おお、これは綺麗な。街で流行っておるのかな?」

「こいつはノクティア王都の有名菓子店のだ」

「ほう、ノクティアの。それは嬉しいのう。どれ、いただきます……ほおおお!」

長老の声に、控えていた羽冠の男が危うく槍を構えそうになった。

ちょ、恐いんだけど……!

「いやいや、これは旨い。ハヤテ、食べてみなさい」

「食べる、オレ?」

「そうじゃの」

彼は恐る恐る花びらを1枚指で摘まみ、そうっと口に運んだ。

「……!!かるんど!」


(かるんどって何、ハルト)

(わかるわけないだろ)


ボーザックに答えて、見守る。

「旨いじゃろ、ううむ、今度商人に手配させよう。……おっと、話がそれたの」

長老が自ら話を戻してくれたんで、俺達も菓子白薔薇をつまんだ。


「儂らは奴隷狩りを恐れておる。何の罪も無いのに狩られるなどおかしいじゃろ。儂らが食を得るときに動物の命を狩るが、そんな生きる理由でもない。何度か奴隷商人にも襲われたんじゃがの、撃退しておる。そいつらへの潔白証明じゃな!」

「奴隷狩り…」

そういえば、サーシャといるカイも、奴隷商人に売られたって言ってたなぁ…。

「まあ、この部落には定期的に普通の商人も来る。普通の国の普通の村と変わらんはずなんだがの」

「長老さんは他国に行ったことがあるんですか?」

「ほほっ、こう見えて、冒険者じゃったよ」

「えーっ、大先輩だよ!すごいね長老」

「むかーしむかしじゃよ」

俺達は顔を見合わせて、頷いた。

この人なら、大丈夫な気がする。

「実はな、長老。このフェンリル、あんたらが神様って呼んでるファインウルフ達の子供なんだ」

「……ほおお!?なんと!そうじゃったか!」

「でな。俺達は、暫くファインウルフとフェンリルを連れて、旅をしていてな」


グランは、事の顛末を淀みなく語った。


「では、この菓子がある場所に神はおるのじゃの」

「そうなる」

「こうしてはおれんな。ハヤテ、旅の支度じゃ」

「ええっ、長老、行くつもりなの!?」

ボーザックが身を乗り出すと、長老は頷いた。

「そうじゃの。折角じゃから全員冒険者にしてしまおうかの」

「で、でもお金かかるんじゃない?」

長老は笑った。

「儂らはの、この辺一帯の山で宝石をたーんまり採ってるんじゃよ」



大変なことになってしまった。

とは言え、ここまで来てそうですかじゃあさようならっていうのも耐えられない。

俺達は、バルティックギルド長のガーデンと、アナスタ王に手紙を書いた。

それを、そのまま長老に託す。


王族の印を初めて使って、封をしたんで、すぐに話が通るはずだ。

……初めて役に立った。



俺達は準備を始めた部族に別れを告げ、出発する。


******


ノクティア王都のナンデスカットに部族が到着して、店頭で歓喜の舞を踊り、新手の客寄せとして流行り出したことを知ったのは、随分後のことになる。



本日分の投稿です。

毎日更新しています。


平日は21時を目安にしています。


現在98ポイントになりました!

嬉しいです。


感想もいただきました。

凄く嬉しいです。


皆様ありがとうございます。

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