神は何処にいますか。①
サーシャが戻ってきたので、俺達はお暇することにした。
奴隷にも色々、主人にも色々。
サーシャはこれから、しっかりと自分を見つめ直すことだろう。
それに、俺も学ぶことがあった。
同時に、もっと視野を広げないとーとも思う。
目指すハイルデンで、どんな奴隷達がいるのか、どんな制度なのか。
…それはきっと、糧になる。
「ガーデン」
グランが声をかけると、冒険者でごった返した広間を横切っていたムキムキの色黒、きっつきつの制服のガーデンが片手を上げた。
「おう、もう行くのか?」
「いや、今日は休ませてもらって、明日立つ」
「そうか、手形とサイクロプス討伐の報酬がまだだったな!少し待ってろ」
「あれ?報酬もらえるの-?」
ボーザックが聞くと、ガーデンはがははっと笑った。
「当たり前だろ!くそガキもきつい灸をすえられたようだしな!」
「ちょっと。そろいもそろって、あれはお灸じゃなくて女同士の会話よ!勘違いしないでほしいわね」
ファルーアがふんとそっぽを向くと、ガーデンは首を傾げる。
まあ、そりゃそうだ。
そんなわけで、俺達は有難くジールを頂戴し、六角形の札みたいなものを預かった。
「ハイルデンで、入国審査がある。そこで見せるんだ」
「おう、助かる」
グランはそれを懐にしまうと、そうだ、と顔を上げた。
「なあ、強い大盾使いを知らないか?」
「大盾?……目の前にそりゃあ有名な奴がいるが?」
「いや、そうじゃねえよ…2つ名持ちを探そうと思ってな」
「ああ、なるほどな。……確か、あんたらの国にいたろう?鉄壁の2つ名持ちが」
それを聞いたグランが、ディティアを振り返る。
彼女は首を傾げた。
「私は聞いたことがないですね…」
すると、それを見たガーデンも首を傾げた。
「あれか?……嬢ちゃんまさか、疾風か?」
「えっ?あ、はい」
「うおお、本物か!強ぇなぁとは思ったが!」
「えー、今更とかどうなのギルド長ー」
ボーザックの抗議の声。
「いや、俺はラナンクロストすら全く知らないぞ。……そうか、そうすると鉄壁はラナンクロストの人間じゃないのかもしれんなあ」
「そこは覚えといてくれおっさん…」
グランがいかつい肩を落とすと、ガーデンはがははっと笑った。
「まあいいだろ!ハイルデンでも聞いてみろ!」
退屈になったのか、足元でフェンがふんっと息を吐いた。
******
「グラン、2つ名持ち探すのか?」
その夜、宿で。
女性陣は風呂に行ったから聞いてみた。
ボーザックも、大剣を磨いていた腕を止め、身を乗り出す。
「アナスタ王はどうするのさグラン?」
グランは筋トレをしていたのをやめ、あぐらをかくと、鬚を擦りながら窓の外を見遣った。
空には雲がうっすらかかり、街の喧騒が遠く聞こえる。
「強い大盾使いを見て決めようかと思ってな」
「見て?」
「尊敬する強さなら、2つ名を交渉する。そうじゃなけりゃ、王族からのほうが箔が付くだろ」
「まあ……そうだよねー」
何故かこっちを見るボーザックの肩を殴ってやる。
「いたっ、ハルト、俺何も言ってない」
「眼が語ってた」
「ええーばれたか」
…まあ、ボーザックは尊敬する強さの大剣使いに名前を貰ったわけで。
そりゃあ誇れることだろうけどさ。
俺に至っては、バッファーでもなければ、双剣使いですらないっていう。
「グランの知ってる2つ名持ちはいないのか?」
「大盾でか?……堅牢くらいか」
「堅牢………誰だっけ?」
「堅牢は王の側近とも言われた過去の宰相だよ、逆鱗のー…ぐふ!!」
ある爽やかな空気の声まねをしたボーザックの腹をどついてやる。
「何だよ-、ただの茶目っ気だったのにー」
「あんまりいじめてやるな、ボーザック」
グランが笑った。
「……そういえばさ、ティアが言ってたよ」
「うん?」
「ハルト君の2つ名付けたかったって」
「……え?そうなの?」
「うんうん。だから悔しがってたなあ」
「疾風からもらうって、箔が付くよなぁ」
グランがにやにやする。
俺は頭をかいた。
「うーん……」
「あれ?意外だねハルト。もっと喜ぶかと思ったのに」
少し考えながら、俺は言葉を選んだ。
「いや、同じ立ち位置で戦いたいのに、ディティアから名前もらっても格好悪いかなーって」
……うん、それはちょっと、目指す位置とは違う。
言ってから、確信になる。
「おお、よく言ったなハルト」
「へえー、それは確かに!」
「だろー?」
言いながら、俺は口籠もった。
「ただ……シュヴァリエよりはマシだったかなとは」
そんなことを延々話していたら、ディティアとファルーアが帰ってくる。
そういえばフェンも一緒だったんだな。
「あれ?フェンも洗ったのか?」
毛がふわふわしているような。
触ろうとしたら避けられた。
しかも。
「うん、ふわっふわだよねーフェン」
ディティアにもふられドヤ顔をしてくる。
「わふっ」
何だろうこの格差。
「とりあえず、明日にはハイルデンだ。王都はかなり南だぞ」
2つ名の話はおしまいにして、グランの言葉で、俺達は地図を広げる。
ファルーアも実質決まったようなもんだしな。
早くグランにも2つ名が付くといいと思った。
******
「こりゃ、囲まれたな」
翌日。
天気は薄曇り。
山岳地帯には乾いた風が吹き抜けていた。
岩場が多く、背の低い草花しかない場所にもかかわらず、俺達は、完全に囲まれていた。
「これ、やばくないか?」
全員で背中合わせに円陣を組んでいる俺達を、離れた場所から窺う気配。
五感アップをたまたま二重にかけたら、ボーザックが気付いたのである。
グランにも五感アップを重ねて、俺達は立ち止まった。
ただ、相手も何故俺達が止まったのかわからないはずだ。
「困ったな…フェンはちょっと陰にいてくれ。いざとなったら逃げろ。そんでガーデンを連れてきてくれるか?」
「がう」
どうやら、窺ってるのは体に泥か何かでペイントした人間らしい。
岩場や低木に、上手く潜んでいるのをボーザックが確認した。
「いっそ先手でその辺燃やしてみる?」
ファルーアが洒落にならないことを言うので、ディティアが慰めた。
「本当に燃えちゃうかも…」
…ん、慰めたんだよな?
黙っていたグランが、やれやれと肩を竦める。
そして。
「おおい、そこらの人間!俺達も人間だーわかるか-?」
声を掛け出した。
こういう時、グランがちょっとまじめに見えるよな。
すると、フェンが突然足の間から飛び出し、岩の上に登った。
「フェン!?」
「……ぐるる」
「っ、ハルト君!止まって」
慌てて追いかけようとすると、ディティアに止められた。
「……うわ」
岩の隙間、低木の茂みの中。
茶色い狼達がゆらりと現れる。
こ、こんなにいたのか……?
「…なんか笛みたいなのが聞こえるんだ」
ボーザックが囁いた。
犬笛みたいなものか?
つまり、この狼達は、俺達を囲んでいる人間の仲間ってことだ。
五感アップを重ねることで、その音も聞き取れるのはわかったけど…じゃあどうしたら?
俺達は武器を構え、臨戦態勢になる。
そして。
「アオォーーーン」
フェンが啼いた。
狼達の耳が、ピンと立つ。
「えっ、ええーー!?」
すると、彼等はフェンのいる岩場の下に集まり、頭をたれたのである。
え、どういうことだ??
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