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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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56/847

文化も人も違うので。④

俺達がギルドにカイを運び込む頃、準備は整っていた。

ヒーラーが4人ほど集められた一室に、カイを寝かせるためのマット。


「頼む」

ガーデンがカイを降ろすと、ヒーラー達は一斉に治癒に取り掛かった。


「…骨は折れているどころか粉砕されています。内臓は…うん?損傷はあったようですが、今はだいぶ…?」

「治癒活性のバフを俺がかけたんだ」

「治癒活性…初めて聞くバフですね。とにかく、かなりマシです。これであれば助かるでしょう」

「間違いないんでしょうね!?」

声を上げたのはサーシャ。


おいおい。

その言葉遣い何とかならないのかな。


ヒーラーのひとりは驚いた顔をして、サーシャに告げた。

「間違いないとは言い切れないよ、僕らヒーラーは万能じゃないからね。だからお嬢ちゃん、そんな威圧的な態度は得策じゃないよ。僕らが助けたいと思う気持ちが、そのままヒールに変わるんだ」

それを聞いたサーシャは口をヘの字にしてしまう。


「わ、わかったわ…」


おお、素直じゃないか。

ファルーアが、満足げに眺めている。


何かが、サーシャの中で変わったのだけは、俺でもわかった。


******


カイが起きたのは翌日だった。

骨もくっついていたし、後はリハビリすればいいらしい。


身体中に怠さがあって動くのもままならなかったんだけど、それはたぶん…俺のバフのせいな気がする。


素直にそう言ったら、ヒーラーのひとりが首を振る。

「いいえ、硬化のバフがあってあの状態なら、バフが無かったら命に関わっていたかもしれません」


…だといいんだけどなあ。


一通りカイのチェックが終わり、サーシャが隣に立った。

「カイ」

「…はい」

「あたしは、カイに助けられて無事だったわ」

「……すみませんでした」

「え?」

「待機してろと命令されたのを、破りました」

「え……そんなことは」

「……」

サーシャは困惑した顔でこっちを振り返る。

ファルーアが意地悪そうに笑う。


「っ、カイ!」

「は、はい」

「ありがとう!助かったわ、あんたがそうしてくれなかったら、死んでいたと思う。……あたしは、カイが誇れる主人じゃなかった。……それは、改めていくわ。だから」

カイが驚いた顔をしている。

サーシャは、真っ赤になって続けた。

「あたしのことはサーシャって呼びなさい!助けたときみたいに!」

「……えっ!?」

「何よ、聞こえなかったとでも思ってたの?」

「いや、あれは咄嗟だったので……僕は、そんな」

「いいのよ!命令よ!」

「……」

カイはぽかんとしていたけど、やがて震えだした。

「え、ちょ、カイ??」

「あ、いや、何だか面白くて……ふふ、わかりましたサーシャ。それと、僕をひどい奴隷生活から救ってくれた貴女は、誇れる主人です。ありがとう」


それを聞いたサーシャがみるみる赤くなる。

「そ、そうなんだけどそうじゃなくて……ああもういいわ!」

彼女はカイに手を出した。

「もっと、色々学ぶわ!だから、あたしを手伝いなさい、カイ」

カイは、笑ってその手を取った。

「仰せのままに、サーシャ」


******


カイにご飯を買ってくるといそいそと飛び出して行ったサーシャ。

残された俺達は、可哀想に、アウェイに取り残されたカイに話しかけることにした。


「あ-、カイ」

「あっ、はい」

「初めましてに近いな、俺はハルト。バッファーなんだけど」

「ああ、ヒーラーの方に聞いています。逆鱗のハルトさん…ですよね。白薔薇も、とても有名だと教えてもらいました」

「えっ、あ、そうなんだ…」

「皆さんも、改めて、ありがとうございます。……サーシャにもお灸を据えてくださったようですね」

「あー、それはファルーアが」

俺が言うと、ファルーアが鼻を鳴らした。

「お灸なんて失礼ね。サーシャと女の話をしただけよ」

カイがびっくりした顔をして、首を竦める。

「そ、そうでしたか……すみません」


俺は、気になっていたことを聞いてみた。

「……カイはどうしてサーシャを助けたんだ?」

「うわーおハルトそういうこと聞いちゃう-?」

答えたのは何故かボーザック。


えっ??

駄目なのか?


カイは笑った。

「いえ、いいんです。僕は奴隷なのに何で?って、当然だと思います。サーシャが戻るまで、話せるだけ話しますよ」



僕は元々、ノクティアの人間です。

12歳までを、普通に育ちました。

けれど、商人だった両親と魔物に襲われ、助けてくれたのが奴隷商人だったんです。


家族はばらばらに売られて、僕はとある非道な人間に買われました。

食事も満足に無く、毎日毎日ひどく働かされて、身体は瘦せ細り、気力も無くなりました。


そんな時です。

サーシャの家に引っ張られて行ったのは。


サーシャの両親が、僕を指名したと聞きました。

理由は知りません。


けど、サーシャは汚い僕にすぐに触れ、お風呂と食事を与えてくれました。

「ふん、あたしの奴隷がそんな格好じゃ、あたしが駄目な主人みたいじゃない!……ほら、これがあんたの服よ!」

差し出されたのは上等な服。


僕は…そうですね。

彼女が天使みたいに見えました。


気の強い天使もいたもんですけど、優しいんですよ、あれで。

彼女、口では僕を奴隷って言いますが、奴隷のように扱われたことは1度も無くて。


ただ、戦うことすらひとりでやろうとするので、ずっと危ないなぁとは思っていました。

今回、彼女が変わるきっかけになれるなら…ってちょっと思ったんです。

そんな打算もあって、ギリギリを待っていました。


……思いの他、敵が強すぎて…サーシャも危険に曝してしまいそうになったので、皆さんには本当に感謝しています。


サーシャには、僕の話はしていません。

彼女は、これから奴隷の無い国に行き、学び、大人になります。

その時を、僕は見たい。


助けられたその時から、そうしたいって思ったんです。



そこまで言い終えて、カイが笑った。

幼いながらに、格好良いと思ったし、同時に、だから子供なんだよなーとも思う。


だから、伝えた。


「なあ、カイ。それさ、自分を犠牲にしたら駄目だと思うぞ。その瞬間、サーシャは絶対悲しんだと思う。男だったらさあ、犠牲になるんじゃなく、全部ひっくるめて一緒に背負うとかどう?」


これに反応したのがグランだった。


「おお……ハルト、お前、熱でもあるのか?」

「は?何だよそれ?……だって俺、最初から背負ったつもりだけど?」

「へーえ?誰のこと-?」

ボーザックが笑う。

「そんなのディティアに決まってるだろ。……えっ?あれ?何だよその顔…皆もそうだったよな??」


可哀想なものを見る視線。

あれ、何か俺だけに刺さるんだけど??


「ハルト君、本当にデリカシー無いよね…」

ディティアに至っては、壁に額を付けて顔を覆う始末。


「いいか、カイ。自覚の無い奴が1番悪いって学んだな」

グランのひと声に、何故かカイが大きく頷くのだった。




本日分の投稿です。

平日は21時を目安にしています。


が、最近遅れたりしております。

22時とか23時とか。

すみません。


毎日更新しています!


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いつもありがとうございます。

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