文化も人も違うので。④
俺達がギルドにカイを運び込む頃、準備は整っていた。
ヒーラーが4人ほど集められた一室に、カイを寝かせるためのマット。
「頼む」
ガーデンがカイを降ろすと、ヒーラー達は一斉に治癒に取り掛かった。
「…骨は折れているどころか粉砕されています。内臓は…うん?損傷はあったようですが、今はだいぶ…?」
「治癒活性のバフを俺がかけたんだ」
「治癒活性…初めて聞くバフですね。とにかく、かなりマシです。これであれば助かるでしょう」
「間違いないんでしょうね!?」
声を上げたのはサーシャ。
おいおい。
その言葉遣い何とかならないのかな。
ヒーラーのひとりは驚いた顔をして、サーシャに告げた。
「間違いないとは言い切れないよ、僕らヒーラーは万能じゃないからね。だからお嬢ちゃん、そんな威圧的な態度は得策じゃないよ。僕らが助けたいと思う気持ちが、そのままヒールに変わるんだ」
それを聞いたサーシャは口をヘの字にしてしまう。
「わ、わかったわ…」
おお、素直じゃないか。
ファルーアが、満足げに眺めている。
何かが、サーシャの中で変わったのだけは、俺でもわかった。
******
カイが起きたのは翌日だった。
骨もくっついていたし、後はリハビリすればいいらしい。
身体中に怠さがあって動くのもままならなかったんだけど、それはたぶん…俺のバフのせいな気がする。
素直にそう言ったら、ヒーラーのひとりが首を振る。
「いいえ、硬化のバフがあってあの状態なら、バフが無かったら命に関わっていたかもしれません」
…だといいんだけどなあ。
一通りカイのチェックが終わり、サーシャが隣に立った。
「カイ」
「…はい」
「あたしは、カイに助けられて無事だったわ」
「……すみませんでした」
「え?」
「待機してろと命令されたのを、破りました」
「え……そんなことは」
「……」
サーシャは困惑した顔でこっちを振り返る。
ファルーアが意地悪そうに笑う。
「っ、カイ!」
「は、はい」
「ありがとう!助かったわ、あんたがそうしてくれなかったら、死んでいたと思う。……あたしは、カイが誇れる主人じゃなかった。……それは、改めていくわ。だから」
カイが驚いた顔をしている。
サーシャは、真っ赤になって続けた。
「あたしのことはサーシャって呼びなさい!助けたときみたいに!」
「……えっ!?」
「何よ、聞こえなかったとでも思ってたの?」
「いや、あれは咄嗟だったので……僕は、そんな」
「いいのよ!命令よ!」
「……」
カイはぽかんとしていたけど、やがて震えだした。
「え、ちょ、カイ??」
「あ、いや、何だか面白くて……ふふ、わかりましたサーシャ。それと、僕をひどい奴隷生活から救ってくれた貴女は、誇れる主人です。ありがとう」
それを聞いたサーシャがみるみる赤くなる。
「そ、そうなんだけどそうじゃなくて……ああもういいわ!」
彼女はカイに手を出した。
「もっと、色々学ぶわ!だから、あたしを手伝いなさい、カイ」
カイは、笑ってその手を取った。
「仰せのままに、サーシャ」
******
カイにご飯を買ってくるといそいそと飛び出して行ったサーシャ。
残された俺達は、可哀想に、アウェイに取り残されたカイに話しかけることにした。
「あ-、カイ」
「あっ、はい」
「初めましてに近いな、俺はハルト。バッファーなんだけど」
「ああ、ヒーラーの方に聞いています。逆鱗のハルトさん…ですよね。白薔薇も、とても有名だと教えてもらいました」
「えっ、あ、そうなんだ…」
「皆さんも、改めて、ありがとうございます。……サーシャにもお灸を据えてくださったようですね」
「あー、それはファルーアが」
俺が言うと、ファルーアが鼻を鳴らした。
「お灸なんて失礼ね。サーシャと女の話をしただけよ」
カイがびっくりした顔をして、首を竦める。
「そ、そうでしたか……すみません」
俺は、気になっていたことを聞いてみた。
「……カイはどうしてサーシャを助けたんだ?」
「うわーおハルトそういうこと聞いちゃう-?」
答えたのは何故かボーザック。
えっ??
駄目なのか?
カイは笑った。
「いえ、いいんです。僕は奴隷なのに何で?って、当然だと思います。サーシャが戻るまで、話せるだけ話しますよ」
僕は元々、ノクティアの人間です。
12歳までを、普通に育ちました。
けれど、商人だった両親と魔物に襲われ、助けてくれたのが奴隷商人だったんです。
家族はばらばらに売られて、僕はとある非道な人間に買われました。
食事も満足に無く、毎日毎日ひどく働かされて、身体は瘦せ細り、気力も無くなりました。
そんな時です。
サーシャの家に引っ張られて行ったのは。
サーシャの両親が、僕を指名したと聞きました。
理由は知りません。
けど、サーシャは汚い僕にすぐに触れ、お風呂と食事を与えてくれました。
「ふん、あたしの奴隷がそんな格好じゃ、あたしが駄目な主人みたいじゃない!……ほら、これがあんたの服よ!」
差し出されたのは上等な服。
僕は…そうですね。
彼女が天使みたいに見えました。
気の強い天使もいたもんですけど、優しいんですよ、あれで。
彼女、口では僕を奴隷って言いますが、奴隷のように扱われたことは1度も無くて。
ただ、戦うことすらひとりでやろうとするので、ずっと危ないなぁとは思っていました。
今回、彼女が変わるきっかけになれるなら…ってちょっと思ったんです。
そんな打算もあって、ギリギリを待っていました。
……思いの他、敵が強すぎて…サーシャも危険に曝してしまいそうになったので、皆さんには本当に感謝しています。
サーシャには、僕の話はしていません。
彼女は、これから奴隷の無い国に行き、学び、大人になります。
その時を、僕は見たい。
助けられたその時から、そうしたいって思ったんです。
そこまで言い終えて、カイが笑った。
幼いながらに、格好良いと思ったし、同時に、だから子供なんだよなーとも思う。
だから、伝えた。
「なあ、カイ。それさ、自分を犠牲にしたら駄目だと思うぞ。その瞬間、サーシャは絶対悲しんだと思う。男だったらさあ、犠牲になるんじゃなく、全部ひっくるめて一緒に背負うとかどう?」
これに反応したのがグランだった。
「おお……ハルト、お前、熱でもあるのか?」
「は?何だよそれ?……だって俺、最初から背負ったつもりだけど?」
「へーえ?誰のこと-?」
ボーザックが笑う。
「そんなのディティアに決まってるだろ。……えっ?あれ?何だよその顔…皆もそうだったよな??」
可哀想なものを見る視線。
あれ、何か俺だけに刺さるんだけど??
「ハルト君、本当にデリカシー無いよね…」
ディティアに至っては、壁に額を付けて顔を覆う始末。
「いいか、カイ。自覚の無い奴が1番悪いって学んだな」
グランのひと声に、何故かカイが大きく頷くのだった。
本日分の投稿です。
平日は21時を目安にしています。
が、最近遅れたりしております。
22時とか23時とか。
すみません。
毎日更新しています!
ブックマークや評価、とても励みになっています。
いつもありがとうございます。




