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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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文化も人も違うので。②

バルティックのギルド長、ガーデンは元々冒険者だった。

武器はムキムキな割に大剣とかではなく槍。

何となく、祝福のアイザックを思い出す。


…爽やかな空気も思い出しかけたのでちょっとイラッとした。


ムキムキの身体は色黒で、髪と眼は真っ黒。

ギルドの制服はきっつきつで、何て言うか筋肉がすごい目立つ。歳は…40後半ってとこかなあ。


さて、そんなガーデンはハイルデンに関する書籍をいくつか持ってきた。

このギルドは、ハイルデンとノクティアの過去の関係性上、両国の冒険者間で喧嘩が起きたりするらしい。


「過去の二国は戦争しててなあ。ノクティア王が革命を経て商人から王になった時、ハイルデンとも友好条約を結んだんだ。けどすぐにお互い仲良くなるなんてことは出来なくてな」

それでも、代が替わるにつれて偏見は無くなってきて、今では多くの冒険者や商人が行き来する国同士になったんだってさ。


しかしそんな中、さっきの少女のような「勘違い」をした奴等もいるらしい。


ハイルデンでは奴隷を持つ者は格が高いことになっている。

だから、ギルドでも自分が格上だと勘違いするのだ。


奴隷にされるのは辺境の地で暮らす民族や、他国から裏ルートで売り飛ばされてきた人々なんだとか。

王ともなれば奴隷は数百を超えているんだそうだ。


…それで誇られてもなあ、と思うけど…やっぱりその土地の文化ってのは住む人にとって当たり前になっちゃうんだろう。


「とはいえ、全ての奴隷がただ不当に扱われてるのかって言ったらそんなことはない。大多数の奴らは、奴隷登録はされているがその代わりに衣食住に不自由が無いようはかられている」

「え、そうなの?」

「そうだ。王宮仕えの奴隷ともなれば、勉強の時間や場所も保証される」

「へえ」

「ただ、一部ではやはり虐待も残っている。街で見かけなかったか?」

「あー、馬車の後ろに繋がれて歩かされてるのは見た」

「うむ。…何故かそういう格上とやらは、バルティックに来たがる。国内で良い顔を出来ず、他国に出てきているのかもしれん」


ガーデンは書籍をぱらぱらしながら、そこに描かれた奴隷達をいくつか見せてくれた。


「奴隷に冒険者養成学校を受けさせ、共に冒険者になる奴等もいる。さっきのくそガキがそれだ」

「一緒に冒険者になって何がいいんだ?」

「いざって時の盾にしたり、前線で戦わせたりする。さっきの奴は自分が戦ってるみたいだからな、娯楽代わりなのかもしれん」


ふうん、そういうもんなのか。


「まあ、そんなわけだが、冒険者である以上、国のルールには縛られん。ハイルデンに入ってもあんたらに面倒事が降りかかることはまず無いはずだ」

「だといいなあ」


ガーデンは笑った。

「何というか…奴隷であっても誇りを持ってる奴等も多い。良い主人に恵まれた奴隷は、主人に尽くす良い使用人みたいにも見えるぞ」

「イマイチ理解出来ない国ではあるわね。…でも、それを変える権利も私達には無いしね」

ファルーアがふう、と息をつく。


「話はわかった。それじゃあハイルデンへの入国手続きがしたいんだが」

グランは頷いて、ガーデンに声をかける。

ガーデンも頷き返した。

「よし、そしたらギルドで代行しといてやろう。名誉勲章持ちなら手間もかからない。明日の昼過ぎに手形を取りに来い」


ついでに、フェンが泊まれる宿の手配もお願いした。


******


宿の1階は食堂になっていた。

多くの冒険者がたむろっている所を見るに、ここはギルドで提携している宿なんだろう。

商人の姿はあんまり無い。


丸テーブルがいくつも並び、今日の疲れを癒やすべく乾杯している冒険者達。

お、あの料理うまそうー。


「とりあえず飯にしちまうか」

「賛成~、俺肉食べたーい」

「がう」

「フェンもだよね?一緒に食べよう」


テーブルを1つ確保し、早速料理を頼む。


そこに。


「隣、邪魔するわよ」

「どうぞ……ん?」

「!な、あ、あんた達っ……ふ、ふん!」


さっきの少女が、少年を連れて立っていた。

装備を外しているところを見ると、この宿に泊まってるんだろう。


俺達に背中を向けて、少女は注文を始める。


気になって見ていると、たくさんの料理が運ばれてきた。


「カイ、食べなさい」

「え……いや、僕、こんなには」

「いいの!大きくなれないでしょ!?……あたしを太らせるつもり?」

「……」


これは、ちょっと意外だった。

カイと呼ばれた少年は、黙々と料理を食べる。

こっちからは見えないけど、少女の方はあまり食べてない気がする。


ふーん、もしかして、少年のためだけにこの量頼んだのかな?

結構大事にしてんのかも。


「美味しい?」

「……はい」

「そう。あたしに感謝するのね」

「……はい」

「ふん」


…奴隷制度がある国で当たり前に生きてきてるとしたら、ちょっと言い過ぎたのかも。

そう考えていると、ファルーアと眼が合った。

彼女は黙って首を振る。

「怒るときは怒らないと、学ばないわ」

「…そっか」

ばればれだったらしい。

すると、ディティアが、隣から俺の肩をぽん、とした。

「ハルト君の逆鱗に触れたら恐いって覚えてもらおうね」

「うわ、それ言う?」

彼女はふわりと微笑んだ。

そして、付け足した。


「…あの子は、もっと世界を知ることになると思う」


******


次の日、俺達は手形とやらを取りにギルドへ向かった。

すると。


「おお、良いとこに来た白薔薇!ひとつ頼まれてくれないか?」

鎧姿のガーデンが中から出てくる。


槍まで持ってるし…。

まだまだ現役だったんだなこのおっさん。


「どうした?」

グランが聞くと、槍を地面に打ち付けて、ガーデンは顔をしかめる。

「昨日のくそガキ、認証カードもねぇのにやばい討伐に向かったようだ」

「えっ?どういうこと?」

ボーザックが首を傾げる。

「とりあえず俺と来てくれないか、あのくそガキにはきつい仕置きが必要だ」

俺達は断る理由も無く、ガーデンに付いていくことにする。


道中、ガーデンは事の発端を話し始めた。


「昨日のくそガキが、認証カード持ち専用の依頼を持って受付に来たんだ。対応したのはちょっとおどおどしたうちの部下だが…認証カードを提示させようとして、散々文句言われて失敗した。…恐らくあいつはカードを持ってない。それを誤魔化して、出させた依頼書をふんだくって出て行った」


……それは、やばくないか?


「依頼の内容はどんなですか?」

ディティアが緊張した面持ちになる。


「…ベテランなら何の問題もない、サイクロプスの討伐だ」

「サイクロプス……確か女の子はレイピアで、男の子は双剣でしたね。…相性が悪すぎる」

彼女は表情を曇らせた。


サイクロプス。

一つ目の巨人をそう呼ぶ。

体長は2メートル程で、たくさんの亜種がいる。

今回の対象は山岳地帯に多く生息し、褐色の肌を持つタイプとのこと。


大抵は棍棒を武器に怪力で押してくる。

そのため、前衛よりは後衛が魔法で戦うのがセオリーだ。

ベテランなら、前衛だけで避けて叩くことも可能だろうけど…。


「出て行ったのは2時間は前らしい。部下の報告も遅れてな…あいつにも説教だ」

「2時間…かなり前だな」

グランが難しい顔で髭をさする。

「早く見付けないとならないわね」



その時。

「がうっ」

フェンが鳴いて、俺達の数メートル先に立った。


「!、わかるのか?フェン」

「がう!」

「でかした!頼んだぞちび助」

グランが褒めると、フェンは尻尾を一振りして小走りに駆け出す。


俺達は後に続いた。


…っていうか、本当すごいなフェンの奴。



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